カサゴ(読み)かさご(その他表記)scorpionfish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カサゴ」の意味・わかりやすい解説

カサゴ
かさご / 笠子

scorpionfish

硬骨魚綱スズキ目メバル科Sebastidaeの一部、フサカサゴ科Scorpaenidaeのほとんどすべて、ヒレナガカサゴ科Neosebadtidaeの魚類の総称、またはその1種。カサゴ類はフサカサゴ科に含まれていたが、近年(2000~2004)特徴の再評価が行われた結果、メバル科が確立され、フサカサゴ科から分離した。しかし従来どおり、これらをフサカサゴ科とする研究者もいる。一般に頭部に多数の棘(とげ)や隆起線が発達し、ごつごつした感じを与えるのが特徴。沿岸から深海の岩礁、砂場、藻場(もば)などの海底近くに生息し、世界各地から数百種が知られている。日本では南方系種と北方系種が入り混じって分布しているため、種類数が豊富で70種ほど産する。

[尼岡邦夫]

日本産の代表種

後述するメバル科カサゴのほか、水産上有用なユメカサゴHelicolenus hilgendorfiがいる。フサカサゴ科の特徴のある種類には、南日本の岩礁にすむフサカサゴScorpaena onariaイズカサゴS. neglecta、イソカサゴScorpaenodes evidesなどがあり、いずれも頭部の凹凸が激しく、多数の皮弁がある。シロカサゴ類にはシロカサゴSetarches guentheri、アカカサゴS. longimanus、クロカサゴEctreposebastes imusなどがあり、いずれも深海にすんでいる。観賞魚として水族館などで飼育されているミノカサゴPterois lunulataやキリンミノDendrochirus zebraは、胸びれが著しく大きく優美に泳ぐが、背びれの棘に毒腺(どくせん)があり、毒性が強いので、取扱いに注意が必要である。エボシカサゴEbosia bleekeriは頭頂部から大きな薄い板状物が飛び出し、烏帽子(えぼし)のようにみえる。ボロカサゴRhinopias frondosaは、体一面に皮弁があるので、ぼろきれをまとった感じがし、ナミダカサゴR. argolibaは目の下に棒状の白色の斑紋があり、涙のようにみえる。ハタタテカサゴIracundus signifierは、背びれの棘(きょく)状部が小魚に擬態し、これを動かして近づいてきた魚を食べる。ヒオドシPontinus macrocephalusは、目の上から長いひも状の皮弁が突出している特徴をもち、緋縅(ひおどし)に似ていることが名前の由来になっている。ヒレナガカサゴ科のヒレナガカサゴNeosebastes entaxisは13本の背びれが極端に長いのでこの名がある。

[尼岡邦夫]

繁殖と形態

メバル科やフサカサゴ科の魚類には、繁殖方法が2通りみられる。北方に起源をもつ北方系種(カサゴ類、ユメカサゴ類など)は卵胎生型であるが、南方系種(フサカサゴ類、オニカサゴ類、ミノカサゴ類など)は卵生型である。卵胎生魚は交尾によって受精し、仔魚(しぎょ)を産む。そのため雄には交尾器が発達し、その先端に輸精管と尿管が開いている。普通、雄は雌より早く成熟し、交尾後、雌は精子を体内に保存し、卵が熟すのを待って受精させる。卵生魚は寒天質状の物質に卵を包んで産む種類と、卵をばらばらに産み出すものとがある。

[尼岡邦夫]

カサゴ

和名カサゴSebastiscus marmoratusはメバル科に属し、北海道以南の日本各地、台湾、朝鮮半島、中国沿岸、東シナ海、南シナ海に分布する。関西地方や高知地方ではガシラとよぶ。背びれに12本の棘と胸びれに通常18軟条があり、胸びれの上半分は截形(せっけい)状で、目の下縁に棘がないのが特徴。体側に5本の暗褐色の横帯がある。体色は沿岸では黒褐色であるが、深みに入るにつれて赤色が強くなる。雌雄ともに大部分は2歳で成熟する。卵胎生魚で、雄は10月に成熟し、交尾をする。精子は雌の体内で卵の成熟を待って、11月ごろから受精する。仔魚は12月から翌年2月ごろに3、4回に分け、1回に通常1~2万尾放出される。孵化(ふか)した仔魚は全長およそ4ミリメートル。全長8ミリメートルの後期仔魚では頭の後部背面に1本、および前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)域に3本とその上方に2本の棘が出現する。1年で全長7センチメートル、5年で19~23センチメートル、7年で20~25センチメートルぐらいになる。雄は雌より成長がよい。カサゴは危険を感じるとグーグーと発音する習性があるが、この音はうきぶくろを収縮することによって生じる。釣りの対象魚であるが、漁業上はおもに延縄(はえなわ)で漁獲される。肉は白身で固く締まり、ちり鍋(なべ)、刺身、煮物、フライなどにすると美味である。

 近縁種にはウッカリカサゴS. tertiusアヤメカサゴS. albofasciatusがあり、いずれも本州中部以南の深海にすむ。前種は胸びれが通常19軟条で、側線上方に明瞭(めいりょう)なふちどりのある円形の斑紋(はんもん)があることで、後種は目の下縁に棘があり、体側に黄色い虫食い状の斑紋があることで、それぞれカサゴと区別できる。

[尼岡邦夫]

釣り

船釣りのほか、磯(いそ)や防波堤でほぼ一年中釣れる。船釣りではとくに専門に釣ることは少ない。しかし移動しない魚なので、目的の魚が不調のときに、この魚を短時間釣ることもある。仕掛けはハリスを短めにして、餌(えさ)はサバ、ムロアジサンマなどの身を短冊型に切ったものを用いる。磯の場合でも餌は同じである。竿(さお)先の堅めのもので、岩礁の海溝状を落とし込むようにして探る。防波堤からも、捨て石や消波ブロックの間を探り歩くようにする。鉤(はり)掛り(根掛り)の多い岩礁帯などが釣り場だけに、予備仕掛けの所持が必要である。

[松田年雄]

調理

カサゴの身は白身であるが、白身魚としては比較的脂質が多い。旬(しゅん)は冬で、肉がしまっておいしくなる。煮つけみそ汁など、総菜(そうざい)料理としての利用が多い。煮つけは濃いめの味つけにすると、脂けが消える。から揚げ、ちり鍋にもよい。背開きにして塩干しにもする。

[河野友美・大滝 緑]


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改訂新版 世界大百科事典 「カサゴ」の意味・わかりやすい解説

カサゴ (笠子)

カサゴ目フサカサゴ科に属する海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。フサカサゴ科Scorpaenidaeは別名カサゴ科ともいい,日本産としてはカサゴ,メバル,ハチ,ユメカサゴ,ヒオドシ,ミノカサゴフサカサゴアコウダイ,バラメヌケ,シロカサゴなど72種に及ぶ種類を含む。英名は体型や体色からrock fish,scorpion fishといわれるが,後者は頭部のとげや突起に触れると痛いこと,および仲間にハチやミノカサゴのような毒魚がいることからも名付けられたものであろう。フサカサゴ科の魚は沿岸から深海にいたる岩礁地帯や砂れき底に生息するものが多い。世界各地から数百種に及ぶ種類が知られているが,とくに日本近海では暖海種と寒海種が入り混じるので種類数も多い。繁殖法は2通りあり,ミノカサゴやキチジなどは卵生型で,メバルやカサゴは卵胎生型である。多くの種類は食用となるが,ミノカサゴやハチのように食用とはならないものの観賞魚として珍重されるものもある。この両種は背びれのとげに毒があることでも有名である。

 カサゴSebastiscus marmoratusは北海道南部以南の日本各地の沿岸域,東シナ海域に広く分布する。磯や沖合の岩礁地帯で生活するが,沿岸地帯にすむものは黒褐色を帯びるのに対し,深みにいるものは赤みが強い。周囲の環境に合わせて色合いや模様を変え,巧みに自分の体をカムフラージュする魚の典型といえる。カサゴの名は皮膚がかさかさして体にはれもののような模様があることに由来しているといわれる。九州ではアラカブ,関西ではガシラなどという。ふつう体側には5本の黒褐色の横帯がある。近縁のメバル属の魚とは背びれに12棘(きよく)あることで区別される。アヤメカサゴS.albofasciatusとは胸びれの軟条数がふつうは18本(アヤメカサゴは17本)であること,および第2眼下骨にとげがないことで区別されるが,生息場所も異なり,アヤメカサゴはカサゴよりもやや深いところで生活し,体色も赤黄色を帯びる。体長はともに25cmに達する。

 カサゴは卵胎生魚で,雄には肛門付近に輸精管と輸尿管がのびてできた交接器がある。雌雄ともにほぼ2~3年で成熟するが,雄は9~10月に精巣が急激に大きくなり精子形成が行われるのに対し,雌では11~12月に卵巣が急激に熟する。交尾は雄が成熟する10~11月にかけて行われ,雌の体内に入った精子は卵の成熟を待って受精する。子は3~4回に分けて生み出される。1回に生まれる子の数は2年魚で5000尾,3年魚以上では1万3000~1万5000尾である。産出時期は11~3月に及ぶが,とくに12~2月が最盛期で,子の大きさはわずか数mmほどである。生後満2年くらいまでは雌雄ともにほぼ同じ早さで成長するが,それ以後は雄のほうが成長が早くなり,生後4年で20cmを超える。一方,雌は生後6年たってやっと20cmほどに達し,以後は少ししか成長しない。移動をほとんど行わず,ほぼ生まれた地域で生活するものと考えられるが,成長によって多少深場に移動する傾向がある。群れをつくらず,むしろなわばりを形成する。岩の割れ目などに身を潜め,近づいてくる小魚,カニ類,エビ類などを大きな口でとらえて食べる。

 磯釣りの絶好の対象であり,比較的簡単に釣れるので,子どもからおとなまでに広く親しまれているが,海岸近くでとれるものは体色が黒っぽくやや汚く見えるので,〈つらあわず〉などといわれることがある。また,〈磯のカサゴは口ばかり〉とその大きな口について悪口をいわれるが,味はきわめてよく,新鮮なものは刺身で賞味される。このほか,底はえなわや一本釣りなどでも漁獲される。しゅんは雌の産子期にあたる冬で,肉は白身で身が引き締まりあっさりとした味で,煮つけや塩焼きにするとおいしい。瀬戸内海地方ではとくにカサゴを好んで食べる。
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百科事典マイペディア 「カサゴ」の意味・わかりやすい解説

カサゴ

カサゴ目フサカサゴ科(カサゴ科)の魚の総称,またはそのうちの1種を指す。日本産としてはカサゴ,アヤメカサゴ,メバル,ミノカサゴ,フサカサゴ,アコウダイなど72種を数える。代表的な種であるカサゴは地方名カシラ,アラカブ,カラコなど。全長25cmに達する。30cm余。体色は暗褐色から赤色までさまざま。北海道〜東シナ海に分布。磯や沖合の岩礁部にすむ。卵胎生。おもに釣で漁獲される。かなり美味。アヤメカサゴはやや深い所にすみ,体色も赤黄色を帯びる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カサゴ」の意味・わかりやすい解説

カサゴ
Sebastiscus marmoratus

カサゴ目フサカサゴ科の海水魚。体長 30cm。色彩は暗褐色から赤色まで変異に富む。体は楕円形で側扁する。頭部のとげは強い。胎生で,日本では冬季から春季に仔魚を産む。食用に供される。北海道南部から東シナ海に分布し,沿岸岩礁域にすむ。

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栄養・生化学辞典 「カサゴ」の解説

カサゴ

 [Sebastiscus marmoratus].カサゴ目フサカサゴ科の海産魚.25cmになる.

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