日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルカス」の意味・わかりやすい解説
カルカス
かるかす
Kalchās
ギリシアの神話・伝説上、トロヤ遠征に従軍したギリシア最高の占い師。アポロンの神官テストルの息子。トロヤ遠征以前にアガメムノンから従軍を懇請されたとき、カルカスは、当時まだ幼童であったアキレウスの力なしにはトロヤは落ちないと預言した。また遠征が決まってギリシア軍がアウリスに集結した際、蛇(へび)が雀(すずめ)をその8羽の雛(ひな)とともに食い尽くしたのを見たことから、トロヤ攻略にはまる9年かかったのち10年目に陥落すると預言した。さらにアウリスでアルテミス女神の怒りのために風が吹かず出港が危ぶまれたときも、イフィゲネイアの犠牲を進言した。このほか、トロヤでギリシア軍の陣中を襲った悪疫の原因や、フィロクテテスの弓、「木馬の計」など、トロヤ攻略に必要な手段をことごとく預言し教示した。しかし彼自身は、自分よりも優れた占い師に出会ったとき落命するという運命にあった。トロヤ落城後は、小アイアスによって引き起こされたアテネ女神の怒りのために帰路の航海が危ぶまれたので、彼は小アジアのコロフォンへ行く。そして、そこでモプソスに出会って占いの技を競い、敗れて屈辱のあまり憤死した。一説では、カルカスは自分のブドウ園でできたワインを生きて飲むことはないと人からいわれ、笑い飛ばして飲んだところ、その酒にむせて窒息死したともいわれる。
[丹下和彦]