神のお告げ、神意を他に託すことをいう。目に見える現象の背後に、なんらかの秩序ありと仮定するとき、そこに「運命」の支配というものを考え、その秩序を支配するものとしての超自然的な神の存在を想定するとき「摂理」が出てくる。その運命や摂理を予知したいという人間の切実な希求は、(1)それを自然現象のなかに読み取るなり、(2)人為的な所為によってそれをうかがい知ろうとし、あるいは(3)人間自身が人格変換(神がかり)をおこして神のお告げを直接聞き取ろうとしてきた。広義には占い全般を含むことにもなるが、狭義には、ある特定の場所(神殿・寺院など)でそこにいます神によって未来のことが知らされる場合を託宣(たくせん)(神託)という。(1)の場合としては、月桂樹(げっけいじゅ)が風にそよぐささやきに神意をうかがい、聖なる泉の水の音、鳥の飛び方、流星、食(日・月食)によって占いをたてることがある。(2)のケースとしては、犠牲にした動物の内臓、あるいはおみくじを引く、「さい」を投げるといった人工的な手段もある。ある意味で科学的な実験に先だつ神験ともいえるもので、わが国の神前での綱引き・相撲(すもう)もそれにあたる。あるいは吉備津(きびつ)神社の「釜(かま)鳴り」などもそれである。
ギリシアでは全土に250以上の神託所があったといわれ、そのなかでもよく知られているのはデロスやデルフォイでのアポロの神託、エピダウロスの医神アスクレピオス、ドドナのゼウスなどである。しかもその最古のものはドドナのもので、神官は風にそよぐオークの木のさらさらという音の解釈によって神託を受けたといわれる。デルフォイでは、先だつ儀礼のあと、ピュテイアの名で知られる巫女(みこ)が三角台の上に座して神がかりになって、質問者に答えた。通常その神託は詩形(六歩格)をとった。エクスタシーの状態では、リズミカルな発声を伴い、わが国では七五調になる。こうした神託の形はシベリアのシャーマニズムにその名残(なごり)をみる。また、デルフォイの神託は政治問題にも及び、植民地獲得の方向づけも得た。近代的な用語では霊媒(ミーディアム)がこうした役を果たすようになる。
[小野泰博]
託宣ともいう。神が人にその意思を指示するために、人に憑依(ひょうい)して言語を発し、あるいは夢のなかに現れるなどして「お告げ」をすることであるが、また人の側からも神の意思を問うために、特定の者を神がかりさせてその発することばにより神意をうかがうこともあった。その際、神がかりした者に憑(つ)いた神がいかなる神であるかを判断し、その発することばを人間の理解できることばとして解釈する者があり、これを古典では審神者(さにわ)(清庭)と称し、さらに、琴を弾じるなどして神がかり状態に導入する役割の者も必要とされた。この事例は、記紀の仲哀(ちゅうあい)天皇から神功(じんぐう)皇后にかけての記事中に「天皇御琴(みこと)を控(ひ)かして、建内宿禰(たけしうちのすくね)の大臣沙庭(さにわ)に居て神の命(みこと)を請(こ)ひき」(『古事記』)、「皇后、吉日(よきひ)を選びて、斎宮(いわいのみや)に入りて、親(みづか)ら神主(かむぬし)と為(な)りたまふ。則(すなは)ち武内(たけしうち)宿禰に命して琴撫(みことひ)かしむ。中臣烏賊津使主(いかつのおみ)を喚(め)して、審神者にす」(『日本書紀』巻9)などとあるのに代表される。また、夢による神託の例としては、記紀には神武(じんむ)天皇の大和(やまと)平定の条で、天照大神(あまてらすおおみかみ)その他の神々が熊野の高倉下(たかくらじ)という者の夢のなかに教えを垂れ、布都御魂(ふつのみたま)の横刀(たち)を与えた例などがある。さらに奈良時代には、宇佐八幡宮(うさはちまんぐう)の託宣を得て道鏡(どうきょう)の権勢を奪うなど、政治上にも託宣が大きな影響を果たした。また、859年(貞観1)僧行教(ぎょうきょう)が宇佐八幡の託宣を受け、朝廷に奏請して京都の石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)が創建されたというように、託宣に基づき創建されたとの社伝・縁起を有する神社(寺院)は全国に非常に多数存する。
[佐野和史]
神が,不思議な夢や神憑(かみがかり)などを通して,その意志を人間に伝達すること。託宣と同義に使われる場合もある。一般には〈神のお告げ〉をさすが,厳密には〈神の言葉〉をいう。神託を得る方法は,民族により,宗教によってさまざまに異なるが,共通して,夢,占い,瑞祥(吉兆),供犠の動物の内臓の形状,天変地異,動物の鳴き声などをあげることができる。いずれも,人間の日常的判断を超える難問の解決に,神の意志が求められる場合に限られる。こうした神託にたずさわる者としては,シャーマンとよばれる呪術-宗教的職能者がいる。シャーマンとは,脱魂,憑依(ひようい)などのトランス状態において,神あるいは神的霊と直接的に交通し,その意志を彼あるいは彼女自身の言葉と行為を通して第三者に伝達する特殊能力の持主をいうのであり,女性の場合は巫女(みこ),男性の場合は覡(げき)ともよばれる。シャーマンの役割は,地域により,またシャーマンの型によって種々の差異がみられるが,卜占や予言などのほかに悪霊に憑(つ)かれた病人をなおしたり,死霊との交通による死者託宣をも行う。
古代ギリシアでは,公的生活も,私的生活も,重要な決定はすべて神託中心に営まれ,特にデルフォイのアポロンの神託は,ソクラテスの哲学的活動の源泉となり,彼自身の思索と行動に密接な関係をもっていたことで知られている。古代イスラエルの預言者たちも,神の言葉をすべて一人称の言葉で語るシャーマンであり,神の〈私〉と預言者の〈私〉とは,彼の語る言葉のなかで切り離しがたく結合している。預言者の言葉が,〈神の言葉〉として,しばしば民族の危機に臨んで,歴史を動かす力となったのはそのためである。代表的な預言者としては,イザヤ,エレミヤ,アモス,ホセアなどがいるが,ユダヤ教の立場からすると,キリスト教のイエスも,ひとりの預言者にすぎなかったということになる。またムハンマド(マホメット)が,人類最後の預言者と呼ばれるのは,人間が究極的にかかわる神は,イスラム教の立場からすると預言者ムハンマドを通して,最終的かつ直接的なかたちで啓示されたとみるからである。その限り,コーランは,有限な〈人間の言葉〉による無限な神の意志の自己顕示であり,神の使いに下された〈神の言葉〉そのものであり,決してムハンマドの著作ではないことになる。
シャーマンが政治と宗教の権力を掌握して活躍した例は古代社会や未開社会に多く,社会が複雑に分化した社会では,シャーマンの職能は呪術者や祭司職に制限されているのが普通である。日本の宗教習俗に,憑依型のシャーマンの活躍が顕著であることは,多くの研究者によって早くから指摘されており,たとえば邪馬台国の女王卑弥呼にはシャーマンとしての側面があったといわれる。《日本書紀》には,神功皇后みずからが〈神主〉となり,神託をうかがったことがしるされている。東北地方に広く分布しているいたこは,職業的な巫女であるが,形態的には憑依型のシャーマンであり,死者託宣あるいは〈死者の語り〉を行っており,恐山のホトケオロシの祭礼は有名である。なお,新興宗教の教祖たちの多くが,シャーマンの系統に属していることも従来指摘されているところである。
→占い →シャマニズム
執筆者:山形 孝夫
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…これに対して古代エジプトでは,死んだ王の彫像の動きによって,問いに対する答え(肯定か否定)を判断したので,占いの専門化はあまりすすまなかった。古代ギリシアでは,霊媒を通じて神託を受ける方法が,予兆による占いにとってかわって主流となったが,ローマ人はもっぱら鳥占いや内臓占いを用いた。
[占いの特徴]
認識と意思決定の方法としての占いには次のような特徴がある。…
…神託ともいう。神のお告げ。…
※「神託」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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