薄紙に対することばで、厚手の紙のこと。和紙が初め溜(た)め漉(ず)き法によってつくられていたころは、薄手の紙が得にくかったので、正倉院に伝わっている奈良時代の紙はほとんどが厚手のものである。748年(天平20)の『正倉院文書』に初めてみられる厚紙は、とくに厚く漉き上げたり、貼(は)り合わせたりして厚くした紙のことをさしている。したがって、のちに流し漉き法によって薄手の紙が容易に漉き上げられるようになって初めて薄紙に対して厚紙を区別するようになった。流し漉き法開発の端緒を与えた厚さの調節が容易な斐紙(ひし)(雁皮(がんぴ)紙)は、その薄手の紙を薄様(うすよう)(または薄葉)とよぶのに対し、厚手のものを厚様(あつよう)(厚葉)とよんだ。厚様のもっとも早い用例は鎌倉時代の万葉学者僧仙覚(せんかく)にみられる。中世になると、斐紙の系統である鳥の子紙(雁皮紙)を厚さによって厚様、中様、薄様と区別し、近世では一般に楮(こうぞ)紙などの厚紙をも厚様と称するようになった。美濃(みの)(岐阜県)、大和(やまと)(奈良県)、伊予(愛媛県)、周防(すおう)(山口県)、土佐(高知県)、越中(えっちゅう)(富山県)などの産紙が傘紙や畳紙(たとうがみ)などに多く使用された。
[町田誠之]
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