カンボジアを中心に、タイ、ベトナムにも分布しているクメール人の言語で、クメール語ともよばれる。使用人口は約800万から約900万人(1997)と推定される。ベトナム語、ベトナム・カンボジア国境付近のスティエン語、バナル語、タイのクイ語、ラワ語、ラオスのクム語、ビルマのモン語、パラウン語、マレーシアのサカイ語、インドのカシ語などとともに、モン・クメール語族をなし、さらにインドのムンダ語、ニコバル語などとともにオーストロアジア語族を構成する。
南インド系の文字を使用し、7世紀初頭以来の碑文が残されているが、主として寺院などへの寄進の記録であって、内容には乏しい。
文法的にはいわゆる孤立語で、名詞の格変化、動詞の人称、数、時制活用などの語形変化はいっさいなく、語順と助辞が文法上大きな役割を果たす。基本的語順は、目的語は動詞の後ろ、修飾語句は被修飾語の後ろに置かれる。数詞が独特の体系を示し、6から9までは、6=5+1、7=5+2のように五進法、さらに4、20、40、400に固有の数詞がある。かつては30=20+10、50=40+10、60=20×3のような表し方をしたが、現在ではタイ語からの借用語を使用している。緊喉(きんこう)母音と弛喉(しこう)母音の対立があり、二重母音、二重子音の種類も多い。語彙(ごい)にはサンスクリット、パーリ語からの借用が多い。かつては前接辞や挿入辞による語形成を行ったが、現在では造語力を失い、化石化している。
[坂本恭章]
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…(1)ムンダ諸語Munda(インド)(a)北ムンダ語派 サンターリー語Santali,ムンダーリー語Mundariなど(b)南ムンダ語派 カーリア語Kharia,ソーラ語Soraなど(c)西ムンダ語派 ナハーリー語Nahali(2)ニコバル諸島諸語Nicobarese(3)モン・クメール語族Mon‐Khmer(a)カーシー語派Khasi(アッサム地方) 標準カーシー語Standard Khasiなど(b)パラウン語派Palaungic(ビルマ) パラウン語Palaung,ワ語Wa,ダノ語Danaw,ラワ語Lawaなど(c)モン語派Monic(ビルマ,タイ) モン語Monなど(d)クム語派Khmuic(タイ,ラオス) クム語Khmu,ラメート語Lametなど(e)ベト・ムオン語派Viet‐Muong(ベトナム) ベトナム語Vietnamese(南・北等の方言がある),ムオン諸語Muong(正しくはMu’o’ng)など(f)カトゥ語派Katuic(ベトナム) カトゥ語Katu,ブル語Bru,クイ語Kuy,パコ語Pacohなど(g)バナル語派Bahnaric(ベトナム,カンボジア) スティエン語Stieng,チュラウ語Chrau,スレ語Sre,ムノン語Mnong,ロベン語Loven,ブラオ語Brao,バナル語Bahnar,セダン語Sedangなど(h)ペアル語派Pearic(カンボジア) ペアル語Pear,チョン語Chong,サムレ語Samreなど(i)クメール語Khmer(カンボジア,ベトナム,タイ。北・中・南等の諸方言がある)(j)ジャハイ語派Jahaic(マレーシア) ジャハイ語Jahaiなど(k)セノイ語派Senoic(マレーシア) テミアル語Temiar,セマイ語Semaiなど(1)セメライ語派Semelaic(マレーシア) セメライ語Semelaiなど この中で政治・文化的に重要なのは,モン・クメール語族に属するクメール語(カンボジア語),ベトナム語,モン語で,前2者はいずれも国語であり,モン語は古く栄えたモン族の言語として,ビルマ(現,ミャンマー)とタイとに文化的に大きな影響を与えた。この語族は20世紀初めにW.シュミットが発表した一連の論文により確立された。…
…カンボジアを中心に,タイとベトナムに分布するクメール族の言語。カンボジア語Cambodianとも呼ばれる。アウストロアジア語族中のモン・クメール語族に属し,使用人口は600万人くらいと推定される。…
※「カンボジア語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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