ここにいう助辞とは漢文(中国古典語)のいくつかの品詞の総称であって,江戸時代の漢学者はおおむね〈助字〉と呼ぶが,近代中国の文法学者が〈虚詞〉(または〈虚字〉)と称するものにあたる。中国の文法では,品詞を大きく分けて〈実詞〉と〈虚詞〉の二類とする。〈実詞〉は名詞・動詞・形容詞を包括し,これに属する単語はそれぞれある種の事物またはその数量,形態,動作などを意味し,明確なイメージをよび起こす。これに対して〈虚詞〉は単独ではそのような具体的なイメージをもたらさない。その表す意味は〈空霊〉で,実詞のはたらきを助けて話者の意志または情念を伝達するものであり,副詞や連詞や介詞や語気助詞(単に〈助詞〉と呼ぶ人がある)などがこれに属する。日本の漢学者のいう〈助字〉の範囲はいっそう広く,代名詞などをも含めることがある(中国の学者にも同様の説をなす人があった)。
それらの品詞の文法的機能は一様ではない。たとえば,中国の学者が〈連詞〉と呼ぶのは,而(しこうして)・則(すなわち)・且(かつ)など,二つの単語または句をつなぐ機能を有し,ほぼ英文法の接続詞にあたる。〈介詞〉と呼ばれるのは,以(もつて)・於(において)・為(ために)など(英文法の前置詞に似て)やはり語または句に連接し,それらの表す事物の関係を示す。中国の学者が〈副詞〉と呼ぶのは,程度を表すもの(甚(はなはだ)・略(ほぼ)など),範囲を表すもの(総(すべて)・只(ただ)など),時間を表すもの(已(すでに)・曾(かつて)など),可能性を表すもの(能(よく)・可(べし)など),否定を表すもの(不(せず)・非(あらず)など)を主とするが,動詞または形容詞の前におかれ,それらを修飾し規定するのが常であり(副詞を〈虚詞〉に含めない説もあるが),その機能がおおむね定まっていることは〈介詞〉,〈連詞〉と同様であって,したがってそれらの単語の意義内容を理解することも,さほどむずかしくない。これに反し,〈語気助詞〉は也(なり)・耳(のみ)・乎(か)・邪(や)など,句の末におかれるのが常であって,種々の語気emotional moodsを表すとされる。その表すものは,必ずしも一定ではない。たとえば也の字は陳述(または決定)の語気を表すとされるが,疑問・感嘆・願望の語気を表すこともある。また同じく陳述の語気の助詞に属するとされても,字が異なれば,その表しかたも異なる。也の字と矣の字を例としよう。前者は事物の固定した状態すなわち静態を表し,後者は発展の過程すなわち動態を表すと説かれるが,その違いはたいへん微妙である。この2字に限らず〈助詞〉が表すものはemotionalであるゆえに,その微妙な陰影を確実にとらえることは容易でない。中国の学者が〈虚詞は釈し難し〉と嘆いたゆえんである。しかし江戸の漢学者はその研究に苦心をかさね,その著書は漢詩文を学ぶものの大きな助けとなっている。そのおもなものは《漢語文典叢書》(1981)に収められた。
執筆者:小川 環樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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