知恵蔵 「かんぽ生命の不適切契約」の解説
かんぽ生命の不適切契約
かんぽ生命及び同社が保険商品の販売を委託している日本郵便(郵便事業を運営)は、ゆうちょ銀行やこれらの持ち株会社である日本郵政とともに、07年の郵政民営化によりできた民間企業である。しかし、その源流は国営の郵政事業にあったことから、高い信頼性を持っていた。また、全国津々浦々の郵便局による巨大な営業網を背景に、民営化後に普通一般の生命保険会社となってからも、業界有数の契約件数を保有している。近年の営業活動について、高齢者などに強引な勧誘を繰り返して不利益な契約を強いているなどの声があり、日本郵便が直近の契約について調査したところ、顧客の不利益となる契約があったことが判明し、同社社長は「超低金利の長期化で貯蓄性の商品の魅力が低下しているにもかかわらず、旧態依然の営業を続け、営業成績を重視するあまり、お客様本位とはいえない契約を増加させてしまった」と釈明した。さらに調べが進み、19年7月には、過去5年間に18万件以上もの不正な販売があったことが明らかになった。これらの不正契約の直接の要因は、新規契約を獲得する郵便局職員の営業ノルマの仕組みにあるとされる。新規契約前の3カ月以内あるいは契約後の6カ月以内に古い契約を解除すると、新規契約は旧契約からの乗り換えとみなされて、営業ノルマのポイントにならないという規定があるという。このため、契約変更に際して3カ月以上前に解約させられて、顧客がしばらく無保険にされ、その後の新たな契約が病気などで結べなくなったり、健康状態の告知の不備で保険料が支払われなくなったりした。あるいは、わざと旧契約を放置して、新・旧の保険料を6カ月間にわたって二重に支払わされたケースもあった。また、特約を切り替えるだけで事足りることを、保険契約の乗り換えに誘導され、結果として支払保険料が過分に上昇したケースもあった。日本郵政グループはこれを受けてガバナンスの見直しをするとしているが、これらの背景には、末端職員の不祥事やシステムの不備というよりは経営が低迷する日本郵便が無理な営業目標を設定し、過大なノルマを強いていたことに根本要因があるとして、経営陣の責任を問う声も強い。なお、日本郵政はかんぽ生命株の25%を第2次売却として19年4月に売り出している。かんぽ生命はこの時点では「個別の苦情は把握していたが、規模感までは把握していなかった」としたが、株式市場ではかんぽ生命や日本郵政の株価が急落した。政府は、東日本大震災の震災復興財源に充てるものとして、日本郵政株売却で4兆円の確保を予定する。これまで2度の売却で2.8兆円を調達したが、株価の低迷が続けば第3次売却で残り1.2兆円を調達することが困難になる。
(金谷俊秀 ライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報