日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガマの油」の意味・わかりやすい解説
ガマの油
がまのあぶら
江戸時代に傷薬として賞用された軟膏(なんこう)剤。正式な処方内容は不明であるが、一般にはごま油や豚脂(とんし)、ろうなどを基剤にし、ヒキガエルやムカデを煮つめてつくられた。なかでも、「陣中膏ガマの油」は有名で、江戸中期、常陸(ひたち)国(茨城県)新治(にいはり)村長井(永井)から出た兵助(ひょうすけ)が江戸で広め、ついで松井源水の流れをくむ香具師(やし)たちがその商売を担ったとされている。このガマの油の作り方や内容も多様で、なかには基剤に着色しただけのものもあったとされ、このような粗悪品を香具師が巧みな口上と演技で売っていた。中国医学では、ヒキガエルの皮膚腺(せん)から分泌される乳状液を「せんそ」(蟾酥)と称し、強心、鎮痛、解毒薬として内用される。また、外用すると、局所知覚麻痺(まひ)、止血の効がある。薬効成分は、ブファリンをはじめとする強心ステロイド化合物である。
[難波恒雄・御影雅幸]
『添田知道著『てきや(香具師)の生活』(1964・雄山閣出版)』▽『室町京之介著『香具師口上集』(1982・創拓社)』▽『宗田一著『日本の名薬』(1981・八坂書房)』