がんの温熱療法(読み)がんのおんねつりょうほうはいぱーさーみあ

家庭医学館 「がんの温熱療法」の解説

がんのおんねつりょうほうはいぱーさーみあ【がんの温熱療法(ハイパーサーミア)】

◎どんな治療法か
◎温熱療法はどんながんに効くか
◎温熱療法の副作用

◎どんな治療法か
温熱療法がんになぜ効くか
 かつて、がん患者さんが別の病気で何日か高熱を出し、その後がんが小さくなったことから、がんの部位に熱を加えてがん細胞を死滅させようという温熱療法(加温療法)が始められました。
 増殖(ぞうしょく)中のがん細胞は、正常細胞に比べて、温度がいつも少し高めになっています。また、がん細胞は酸性になっていて、弱酸性を保っている正常細胞より熱に弱いという性質があり、同じように熱を加えても正常細胞より温度が上がりやすく、冷めにくいこともわかってきています。そこで、この性質を利用して、がん細胞の温度が42.5℃(やや熱い風呂の温度)程度になるように保つと、正常細胞は41℃ぐらいとなるので障害を受けず、がん細胞だけを殺すことができるのです。
●加温法の種類としくみ
 温熱療法には、大別して、全身加温法と局所加温法がありますが、局所療法が主流となっています。
 治療中は、患部の温度が42~43℃程度に保てるように、患部に挿入した温度測定用のセンサーで刻々チェックされ正確に管理されます。
①全身加温法(ぜんしんかおんほう)
 人工の管を血管につないで血液を体外に取り出し、45℃くらいに加温して体内に戻す体外循環を行ないます。がんが全身に転移した場合に適した方法ですが、かなりむずかしい操作が必要です。
②局所加温法(きょくしょかおんほう)
 全身加温法に比べて、わりあい簡単にできる方法です。
 体外から患部に電磁波をあてて加温する方法です。電磁波による加温は、電子レンジで食品を温めるのと同じ原理で、がんのある部分をはさんで体外に一対の電極を置き、その間に電磁波を流します。食道などの管腔かんくう)内のがんには、一方の電極をプローブに替えて、患部に挿入して加温します(腔内(くうない)加温)。また、脳腫瘍(のうしゅよう)などのがん組織内に加温針を挿入する組織内加温も行なわれています。
 電磁波には、低周波のRF波と高周波のマイクロ波があり、おもに、RF波はからだの深部にあるがんを、マイクロ波は体表に近いところにあるがんを温めるのに適しています。
 からだの表面温度が高くなって熱傷をおこさないように、冷却水や冷風で皮膚を冷やします。治療は、ふつう、1回1時間、週に1、2回、合計4~10回行なわれます。
 そのほか、部位によっては加温するために、温水やレーザー、超音波などが用いられることもあります。温水は早期の膀胱(ぼうこう)がんや腹膜(ふくまく)のがんなどに、レーザーは内視鏡下(ないしきょうか)で早期の胃がんに用いられています。

◎温熱療法はどんながんに効くか
 温熱療法は、まだ単独でがん治療に使われることはありません。外科療法、放射線療法、化学療法などを補助する集学的治療の一環として効果をあげており、おもに進行がんや再発がんを防ぐために用いられています。
 比較的温めやすい部位にある、乳がん、皮膚がん、胸部のがん(食道がん、胸壁に浸潤(しんじゅん)した肺がん)、下腹部のがん(子宮頸(しきゅうけい)がん、膀胱(ぼうこう)がん、直腸がん)、頭頸部(とうけいぶ)がん(頸部リンパ節への転移(てんい))、四肢(しし)の軟部腫瘍(なんぶしゅよう)などによく使われます。
 とくに体表面に近い乳がんや皮膚がんでは放射線療法と併用されることが多く、放射線だけで治療した場合より、2倍の縮小効果があるといわれます。深部のがんでも、肝(かん)がんや肺がんでも有効という成果が出ています。

◎温熱療法の副作用
 副作用はほとんどありませんが、治療中に、とても熱く感じたり、皮膚表面に軽いやけどをすることがあります。熱いときは遠慮せず、技師や医師に伝えましょう。終了後、加温した皮膚を1時間ほど冷やすのもよいでしょう。
 なお、乳がんの治療で左の胸を温めると、心臓に影響し脈が速くなることがあるので、心臓病のある人や全身の衰弱(すいじゃく)がひどい人には適しません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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