肺がん

共同通信ニュース用語解説 「肺がん」の解説

肺がん

気管支など肺の組織にできるがんで、男性ではがんによる死因の1位。女性は大腸がんに次ぐ2位。早期には無症状のことが多い。喫煙との関連が非常に大きく受動喫煙でもリスクが高まるため、たばこを避けるのが最大の予防法。

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EBM 正しい治療がわかる本 「肺がん」の解説

肺がん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 肺がんの初期はとくに症状はなく、発生する場所にもよりますが、実際に症状がでてくるのはかなり進行してからのこともあります。肺のどの場所に発生したかで、症状やその後の経過は異なりますので、発生した場所によって肺がんを分類する方法が一般的に用いられます。
 肺の入口付近にできるものを中心型肺がん(肺門部(はいもんぶ)肺がん)、肺の奥のほうにできるものを末梢(まっしょう)型肺がん(肺野部(はいやぶ)肺がん)といいます。中心型肺がんでは、比較的早い時期から、せき、痰(たん)、血痰(けったん)の三大症状が現れます。かぜに似ていますが、鼻汁や頭痛、のどの痛みなどはありません。レントゲンでは見つけにくく、喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)という痰の検査をすると、早期に見つけることができます。一方、末梢型肺がんは早期には症状がありませんが、レントゲン検査で比較的見つけやすいタイプです。
 また、組織型といってがん細胞の種類による分類方法もあり、小細胞肺がんと非小細胞肺がんの二つに分類され、このうち非小細胞肺がんは腺(せん)がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、大細胞がんに分類されます。このほか、進行の度合いによっても分類されます。一般に小細胞肺がんは進行が速く、手術ができない進行がんの状態で発見されることが多いため、予後があまりよくありません。
 非小細胞肺がんは、肺がん全体の80~85パーセントを占め、その内訳は腺がん約50パーセント、扁平上皮がん約35パーセント、大細胞がん約6パーセントとなっています。治療方針はそれぞれのがんの種類によって異なります。
 小細胞肺がんの病期は限局型、進展型の二つに大きく分けられ、脳や骨など体のほかの臓器にがんの転移がみられるのは進展型になります。非小細胞肺がんでは、脳やほかの臓器への転移がみられるのは進行末期のⅣ期になります



●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 最大の原因はたばこで、1日の喫煙本数が多いほど、また喫煙年数が長いほど、肺がんになる確率が高くなります。それ以外では、大気汚染、慢性閉塞性肺疾患肺気腫慢性気管支炎)、アスベストなどの職業的暴露によって肺がんのリスクが高まると報告されています。また、肺がんの既往歴や家族歴、年齢なども肺がんのリスクを高めるといわれています。

●病気の特徴
 比較的お年寄りに多く発病します。現在、日本人の死因の第1位はがんですが、そのなかでも肺がんはもっとも多くなっています。病気にかかった人の数は大腸がんのほうが多いにもかかわらず、肺がんによる死亡が多いのは、それだけ治療困難な病気であることを示しています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]予防として禁煙を励行する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 喫煙は肺がんの原因の一つで、喫煙しない人と比べて3~5倍肺がんになりやすく、禁煙すると、喫煙を継続している人と比べて肺がんになる危険性が減少します。禁煙した期間で減少率は異なり、15年間以上禁煙した場合、喫煙者に比べて肺がんになる危険性が90パーセント減少すると報告されています。これらのことは、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(1)~(6)

■小細胞肺がん
[治療とケア]化学療法と放射線療法を併用する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 小細胞肺がんは診断がついた時点で片方の肺だけに見つかることはまれで、全身のいろいろな部分に転移していることが多いので通常外科治療を行うことは少なく、行うとしても単独では行いません。化学療法、放射線療法を組み合わせた治療を行います。
 限局期の治療において、化学療法と放射線療法を併用した場合は、しない場合に比べて約14パーセント死亡を減少させ、3年生存率が4~7パーセント改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただしこの報告は全身状態のよい症例に限られており、治療前の全身状態がよくない限局期の症例では効果は明確にはされていません。一方、進展期の小細胞がんでは、全身状態の悪化が肺がんによるものであり、治療効果によって全身状態の改善が得られる可能性があれば、化学療法単独治療や放射線との併用療法により生存率を改善することが明らかにされています。(7)(8)

[治療とケア]予防的全脳照射を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 小細胞がんで、初期治療で完全緩解が得られた場合には、脳転移予防のため脳全体への放射線照射(予防的全脳照射)を行うことが、信頼性の高い臨床研究で効果が確認されています。(9)

■非小細胞肺がん
[治療とケア]早期発見、早期切除を基本に、病期(病気の進み具合)に応じた治療をする
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] Ⅰ~Ⅱ期の治療は手術が基本になります。肺がん全体の5年生存率は35~40パーセントですが、臨床病期ⅠA、ⅠB、ⅡA、ⅡB期ではそれぞれ82.0パーセント、66.1パーセント、54.5パーセント、46.1パーセントという生存率が報告されています。(10)
 Ⅲ期で手術ができない患者さんのうち、状態がよい患者さんの場合には、放射線療法と化学療法を併用したほうが、放射線療法のみの場合よりも生存率がよくなると報告されています。(11)~(13)
 Ⅳ期では、患者さんの状態がよい場合は、全身化学療法を行った場合、最良の緩和ケア(がんを治すのではなく患者さんの苦痛を取り除くためのケア)だけを行った場合に比べて、平均1.5カ月生存期間が延びたと報告されています。これらのことは、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(14)(15)

 



[治療とケア]がん性胸膜炎(きょうまくえん)には、胸水(きょうすい)吸引後、癒着(ゆちゃく)療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 全肺がんの7~15パーセントの患者さんで経過中に悪性胸水(がん性胸膜炎の別称で、がん細胞が胸腔(きょうくう)内にばらまいたように発生し、胸水を生じたもの)を認めます。組織型のなかでは腺がんがもっとも多いといわれています。呼吸困難がある場合には、胸水を抜きとったあとに癒着療法を行います。癒着療法は、胸水の原因となっているがんのまわりにより強い炎症をおこして癒着させ、胸水がたまる腔をなくしてしまうもので、胸腔に強い炎症をおこさせる化学物質を注入します。癒着療法の成功率は約70パーセントといわれ、副作用として痛みが平均23パーセント、発熱が平均19パーセントにおこると報告されています。こうしたことは、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(16)~(19)

[治療とケア]脳転移には放射線療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 肺がんは脳転移の頻度が高いがんです。とくに小細胞肺がんは症状があまりなく、脳に転移した状態で発見されることも多いため、患者さんの全身状態や年齢、症状を考慮し、放射線療法を行います。全脳照射が一般的で、症状の緩解が70~90パーセントの患者さんでみられ、対症療法として有用であるという報告があります。(20)
 また、脳転移が単発である場合には、ガンマナイフなどの定位手術的照射または手術が推奨されており、全脳照射の併用は脳内再発率は下げても生存率への寄与は明確でないとされています。(21)

[治療とケア]骨転移には、放射線療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 肺がんの骨転移は進行非小細胞肺がんでは約30~40パーセントに生じるとされます。もっとも多い症状は疼痛(とうつう)で、肺がんの骨転移症例の約80パーセントに認められるという報告もあります。未治療の骨転移がある非小細胞肺がんでは、可能なら全身治療としての化学療法を導入すべきです。骨転移に対する放射線治療の有効率(除痛効果)は50~80パーセントと高く、症状緩和を目的とした放射線治療はきわめて重要と考えられます。(22)
 脊椎(せきつい)転移があり、四肢の麻痺や感覚障害などの脊髄圧迫症状がおこった場合には、緊急の放射線治療の対象になります。

[治療とケア]骨転移にゾレドロン酸水和物またはデノスマブの投与を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 骨転移のある場合は、ビスフォスフォネート(BP)製剤であるゾレドロン酸水和物や、デノスマブの投与を行うことにより、病的骨折や脊髄圧迫、高カルシウム血症などの合併症の発現率の軽減と発現までの期間を延長させることがいくつかの質の高い研究で証明されています。(23)~(26)

[治療とケア]がん化学療法に伴う好中球減少症(こうちゅうきゅうげんしょうしょう)にはG-CSF製剤を用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] G-CSF製剤の使用によりがん化学療法の副作用でおこる好中球減少症(白血球の一種である好中球が減少し、感染症を合併しやすくなる)による発熱は68パーセントから38パーセントへ減少したと報告されています。このことは信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし死亡率を減らす効果は認められませんでした。アメリカ臨床がん学会では、慎重に使用するよう勧めています。(27)(28)

[治療とケア]抗がん薬使用時、とくにプラチナ製剤使用時にはあらかじめ制吐薬(せいとやく)を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] プラチナ製剤を含んだがん化学療法に伴う嘔吐(おうと)に対しては、5-HT3受容体拮抗薬、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬、NK-1受容体拮抗薬の併用が推奨されています。(29)(30)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗がん薬
[薬名]ブリプラチン/ランダ(シスプラチン)(31)(32)+ラステット/ベプシド(エトポシド)(33)~(35)またはトポテシン/カンプト(イリノテカン塩酸塩水和物)(33)~(35)またはナベルビン(ビノレルビン酒石酸塩)(36)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] プラチナ製剤のシスプラチンに、エトポシド、イリノテカン塩酸塩水和物、ビノレルビン酒石酸塩のいずれかを組み合わせた2剤併用療法の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。

[薬名]タキソール(パクリタキセル)(37)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって、非小細胞肺がんに効果のあることが確認されています。

[薬名]タキソテール(ドセタキセル水和物)(38)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非小細胞肺がんのⅢ期またはⅣ期で、シスプラチンによる治療を行ったあとの患者さんに効果があったことが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。

[薬名]パラプラチン(カルボプラチン)+ラステット/カンプト(エトポシド)(39)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非小細胞肺がんのⅢ期またはⅣ期で、カルボプラチンとエトポシドを併用した場合、緩和ケアのみの患者さんと比較して効果のあったことが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。

[薬名]ジェムザール(ゲムシタビン塩酸塩)+パラプラチン(カルボプラチン)(40)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] ゲムシタビン塩酸塩は、カルボプラチンと併用することで非小細胞肺がんのⅣ期の患者さんに効果のあることが信頼性の高い臨床研究で確認されています。

[薬名]イレッサ(ゲフィチニブ)またはタルセバ(エルロチニブ塩酸塩)またはジオトリフ(アファチニブマレイン酸塩)+ブリプラチン/ランダ(シスプラチン)(41)~(46)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 分子標的薬といわれるゲフィチニブ、エルロチニブ塩酸塩、アファチニブマレイン酸塩はプラチナ製剤と併用することで進行非小細胞がんの患者さんに効果のあることが、信頼性の高い臨床研究で確認されています。

[薬名]ザーコリ(クリゾチニブ)(47)(49)
[評価]☆☆☆
[薬名]アレセンサ(アレクチニブ塩酸塩)(48)(49)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ALK阻害薬と呼ばれるクリゾチニブとアレクチニブ塩酸塩は、ALK遺伝子が作りだす酵素の働きを阻害することで肺がんの増殖を止めようとする分子標的薬です。いずれの薬も、進行非小細胞がんの非扁平上皮がんという組織型でALK遺伝子に変異がある患者さんに効果があることが臨床研究で確認されています。

がん性胸膜炎の癒着療法に用いる薬
[薬名]ピシバニール(抗悪性腫瘍溶連菌製剤)(50)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ユニタルク(タルク)(51)(52)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] ピシバニールは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。2013年9月からわが国でもタルクの使用が可能になりました。

骨代謝改善薬
[薬名]ゾメタ(ゾレドロン酸水和物)(23)~(26)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ランマーク(デノスマブ)(23)~(26)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] いずれも病的骨折や脊髄圧迫、高カルシウム血症などの合併症の発現率の軽減と発現までの期間を延長させることが、いくつかの質の高い研究で証明されています。

G-CSF製剤
[薬名]ノイトロジン(レノグラスチム)(27)(28)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]グラン(フィルグラスチム)(27)(28)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] レノグラスチム、フィルグラスチムともに遺伝子組み換え型G-CSFであり、いずれも好中球を増加させる効果が信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

制吐薬
[薬名]リンデロン(ベタメタゾン
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]カイトリル(グラニセトロン塩酸塩)(29)(30)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]アロキシ(パロノセトロン塩酸塩)(29)(30)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]イメンド(アプレピタント)(29)(30)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 上記のどれかを組み合わせて使用することで、抗がん薬による吐き気がコントロールできることが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
がん細胞のタイプにより治療法が異なる
 肺がんは、どのような細胞のタイプなのかにより、治療方法が大きく異なります。小細胞肺がんでは、胸腔内に限局した小さい腫瘍(しゅよう)については放射線療法と抗がん薬を組み合わせた治療を行います。胸腔内にかなり広がっている場合は全身にがん細胞が広がっている可能性が高く、抗がん薬を用います。
 非小細胞肺がんでは、比較的限局している場合には手術を、そうでない場合には放射線療法や抗がん薬を組み合わせるか、またはそれぞれを単独に用いるのが一般的です。

副作用の吐き気を抑える効果的な薬剤がある
 抗がん薬に伴う吐き気・嘔吐については、あらかじめ副腎皮質ステロイド薬やカイトリル(グラニセトロン塩酸塩)、アロキシ(パロノセトロン塩酸塩)、イメンド(アプレピタント)などを用いることで、かなり抑制することができます。

病態に応じた治療法がある
 がんが広がったり、転移したりすることでさまざまな合併症がおきてきますので、それぞれの治療を行います。
 肺がんの浸潤(しんじゅん)によるがん性胸膜炎には胸水を吸引した後、起炎薬のピシバニール(抗悪性腫瘍溶連菌製剤)やユニタルク(タルク)を使用し、癒着療法を行います。脳転移には放射線療法を、骨転移には放射線療法あるいは骨代謝改善薬のゾメタ(ゾレドロン酸水和物)やランマーク(デノスマブ)を使用します。がん化学療法に伴う好中球減少症にはG-CSF製剤のグラン(フィルグラスチム)やノイトロジン(レノグラスチム)の使用など、それぞれの病態に有効な治療法が確立されています。
 しかし、あくまでもなにもしない場合やそのほかの治療法に比べて一時的に症状を軽減できる可能性が高いことをいっているにすぎず、残念ながら、多くの患者さんでは、完全に治癒することは望めないのが現状です。

抗がん薬の再評価が進められている
 近年、抗がん薬の有効性を、その副作用との兼ね合いで本当に使う価値があるかどうか、検証しようとする臨床研究が多く行われつつあります。それらの結果によっては新たな治療法が開発されたり、従来ある治療法が比較されたりして、標準的な治療法はこれからも変化していく可能性が高いと思われます。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肺がん」の意味・わかりやすい解説

肺がん
はいがん
lung cancer
pulmonary carcinoma

定義

肺にみられるがん(悪性腫瘍(しゅよう))。肺は呼吸にかかわる重要な臓器である。鼻や口から取り込まれた空気は、気管を通り、左右の肺で枝分かれを繰り返し(気管支)、酸素と二酸化炭素の交換を行う肺胞に至る。肺がんとは、空気の通り道となる気管、気管支、肺胞の一部の細胞がなんらかの原因でがん化したものである。がん細胞の組織形態から「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に大別され、非小細胞肺がんはさらに三つの組織型(腺(せん)がん、扁平(へんぺい)上皮がん、大細胞がん)に分類される。もっとも発生頻度が高いのが腺組織を由来とする腺がんで、全肺がんの約6割を占める。一般に小細胞肺がんは進行が速く、脳やリンパ節への転移をきたしやすい一方で、化学療法や放射線療法に対する感受性が高い(効きやすい)ことから、経過や予後、治療方針が大きく異なる。そのため、それ以外の組織型のがん(非小細胞肺がん)と区別して分類されている。

 肺周囲は大きな血管が集中する部位であり、そのため肺がんは他のがんに比べて比較的転移しやすい特徴をもつ。進行したがん細胞は隣接した臓器に限らず、血管やリンパ管を経由して、遠い臓器まで広がっていく。とくに転移しやすい部位として、リンパ節、脳、肝臓、副腎(ふくじん)、骨などがある。

[渡邊清高 2018年10月19日]

疫学・病因(危険因子)

統計

肺がんは日本人のがん死亡原因の第1位である。死亡者数は1950年代より増加が続いており、日本における2016年(平成28)の肺がんによる死亡者数は7万3838人にのぼる。このうち男性は5万2430人、女性は2万1408人で、それぞれがん死亡全体の23.9%、14.0%を占めている。部位別にみると男性の死因の第1位、女性では大腸がんに次いで第2位の死亡者数となっている。年齢階級別の死亡率をみると、男性では40歳代後半、女性では50歳代前半から増加し始め、加齢とともに急増する。日本人が生涯のうちに肺がんになる確率は男性10%、女性5%である。

 2013年に新たに肺がんと診断された数(罹患(りかん)全国推計値)は11万1837人。うち男性は7万5742人、女性は3万6095人で、それぞれがん罹患全体の15.2%、9.9%を占める。部位別の罹患数では男性は胃がんに次いで第2位、女性は乳がん、大腸がん、胃がんに次ぐ第4位となっている。年齢階級別罹患率は死亡率と同様に40歳代後半から増加し始め、高年齢ほど高くなる。罹患者は女性よりも男性が2倍以上多い。

 肺がんの死亡率および罹患率には、出生年代による違いがみられる。1930年代後半~1940年代前半生まれの層は他の出生年代に比べて、死亡率・罹患率ともに低くなっている。この年代は第二次世界大戦後の物資不足の時代に喫煙を開始しやすい年齢を過ごしていることから、他の年代層よりも生涯喫煙率が低いことが要因と考えられている。

 がん診療連携拠点病院等院内がん登録(2015年全国集計)における臨床病期の分布をみると、胃がんや大腸がんなどと同様に、高年齢ほどTNM分類による病期(ステージstage)が進行したがんが多い傾向がある。もっとも頻度が高い腺がんを含む非小細胞がんは約半数が0期とⅠ期の早期がんで発見されるが、小細胞がんの0期とⅠ期は全年齢層を通じて1割程度にすぎない(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。

[渡邊清高 2018年10月19日]

要因

肺がんは、喫煙と発症との関連が非常に大きいがんである。非喫煙者に比べて喫煙者が肺がんになるリスクは男性で4.4倍、女性で2.8倍と高くなる。組織型でみると、扁平上皮がんは男性で12倍、女性で11倍であるのに対し、腺がんでは男性2.3倍、女性で1.4倍であり、組織型により喫煙によるリスクの程度が大きく異なる。喫煙開始年齢が若く、喫煙量が多いほどリスクは高まり、一方で禁煙によりリスクは低減する(禁煙年齢が低いほど効果は大きい)。非喫煙者も受動喫煙によりリスクが増加する(非喫煙女性の肺がんのリスクは、夫からの受動喫煙がない場合に比べて、ある場合では1.3倍に高まるという統合的な研究分析の結果による)。

 喫煙以外では、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)、職業的曝露(ばくろ)(アスベスト、ラドン、ヒ素、クロロメチルエーテル、クロム酸、ニッケルなど)、大気汚染(PM2.5)、肺がんの既往歴や家族歴(直系の親族に肺がん罹患者がいること)、年齢が発症のリスクを高めると考えられている。また、肺結核の診断後2年以内の肺がんリスクは約5倍になると報告されている。

[渡邊清高 2018年10月19日]

分類

病理組織学的分類

日本における肺がんの組織学的分類は、日本肺癌(がん)学会が編集する「肺癌取扱い規約」をもとに行われるのが一般的である。肺がんは、がん細胞や組織の形態から小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別され、非小細胞肺がんは腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに組織分類される。また、最近は分子標的治療薬の進歩に伴い、薬剤の治療選択の点から、非小細胞肺がんを非扁平上皮がんと扁平上皮がんに区別しつつある。

 もっとも発生頻度が高い腺がんは肺の末梢(まっしょう)部分である肺野に発生しやすく、比較的症状が出にくいという特徴をもつ。喫煙との関連がとくに強いことで知られる扁平上皮がんは気管支が分岐する肺の入り口付近(肺門部)に発生しやすく、咳(せき)や痰(たん)、血痰などの症状が現れやすいがんである。小細胞がんの発症頻度は比較的低いが、がん細胞の増殖が速く、脳や骨などの遠隔臓器に転移しやすいという特徴を有する。その他、腺扁平上皮がん、神経内分泌腫瘍、肉腫様がんなどの組織型も存在する。

[渡邊清高 2018年10月19日]

浸潤・転移様式

肺を原発巣とするがんは、主気管支、臓側(ぞうそく)胸膜に浸潤し、胸壁、横隔膜、縦隔胸膜、壁側(へきそく)胸膜などに広がっていく。ガス交換の場である肺は豊富な血流を有するため、肺がんは遠隔転移がおこりやすいがんとして知られている。進行したがん細胞は周囲の組織を破壊しながら増殖し、原発巣である肺や隣接臓器に留まらず、血液やリンパに乗って遠隔臓器に転移していく。肺がんが転移しやすい部位にはリンパ節、脳、肝臓、副腎、骨などがある。原発巣とは反対側の肺に転移する場合もある。

 同様の理由で、肺は大腸がん、腎がん、乳がんなどの他の臓器のがんが転移しやすい臓器でもある。肺にできた「原発性肺がん」に対して、他臓器から転移したがんを「転移性肺がん」とよぶ。

[渡邊清高 2018年10月19日]

症状・症候

肺がんは早期の段階ではほぼ無症状である。病状の進行とともに咳、痰、嗄声(させい)(かすれ声)、血痰、発熱、呼吸困難、胸痛などの呼吸器症状が発現するが、いずれも肺がんに特異的な症状ではない。ある程度進行しても症状がみられないこともあり、検診の際の胸部X線検査やCT検査で発見されることも少なくない。

 腫瘍が産生する特殊な物質や免疫反応によって生じる「腫瘍随伴症候群」の発現頻度は他臓器がんに比べて比較的高い。腫瘍随伴症候群の症状には、肥満、ムーンフェイス(満月様顔貌(がんぼう))、食欲不振、神経症状(筋力低下、筋緊張低下、運動失調、健忘など)、意識障害などがある。

[渡邊清高 2018年10月19日]

検査・診断

検査・診断

(1)肺がん検診
40歳以上を対象に、年1回の肺がん検診の受診が推奨されている。問診、胸部X線検査のほか、50歳以上で喫煙指数(1日喫煙本数×年数)が600以上の該当者には喀痰(かくたん)細胞診(痰を採取し、その中にがん細胞があるかどうかを確認する検査)が行われる。胸部X線検査の肺がん検出感度は60~80%とされ、自覚症状の乏しい肺野部のがんの検出に優れる。喀痰細胞診の検出感度は40%程度であるが、胸部X線検査に喀痰細胞診を追加することで、胸部X線検査単独に比べて、早期がんの割合、切除率、5年生存率が上昇することが確認されている。

(2)肺がんの診断
胸部X線検査で異常が確認された場合、胸部CT検査の施行が推奨されている。胸部CT検査では、がんの大きさ、性質、周辺臓器への広がりなどの把握が可能であり、肺がんの病期診断に不可欠な検査である。造影剤を併用することで、リンパ節転移の有無や脈管との位置関係を明らかにすることができる。

 腫瘍マーカーとしては、腺がんについてはCEA、CA19-9、CA125、SLXが、扁平上皮がんではSCC、CYFRA21-1が、小細胞肺がんに対してはNSE、ProGRPがよく用いられるが、偽陰性や偽陽性の問題もあり、肺がんの検出を腫瘍マーカー単独で行う状況にはない。

 一部の手術例を除き、治療開始前に組織あるいは細胞を調べる組織・細胞診断を行う。組織・細胞診断の方法には経気管支生検(気管支鏡(内視鏡)を鼻または口から肺に挿入し、がんが疑われる部位の細胞や組織を採取する検査)、経皮針生検(皮膚表面から細い針を肺に刺して細胞や組織を採取する検査)、胸腔(きょうくう)鏡下生検(胸部を小さく切開して、胸腔鏡(内視鏡)で肺や胸膜、リンパ節の組織を採取する検査)、開胸生検(手術で胸部を開いて細胞や組織を採取する検査)などがある。また、薬物療法を行う場合には効果予測のためのバイオマーカー検査を行う。採取した組織の上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異やALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子の有無、PD-L1タンパクの発現の有無により、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の使用が検討される。

 そのほか、がんのリンパ節や遠隔臓器への広がりを調べるため、CT、MRI、超音波、骨シンチグラフィPET-CTなどの画像検査が行われる。

[渡邊清高 2018年10月19日]

病期分類

適切な治療法の選択のためには、がんの進行の程度を病期に分類することが重要となる。日本においては、「肺癌取扱い規約」(日本肺癌学会編)の病期分類や、国際対がん連合(UICC)のTNM分類に基づいて病期分類が行われている。がんの大きさと広がりを示すT因子、リンパ節転移を示すN因子、遠隔転移を示すM因子を判定し、これらの組合せで進行度を示す病期が決定される。肺がんの病期は0期、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期に大別される。転移がみられない限局がんはⅠ期、肝臓、骨、脳などへの遠隔転移を認める場合にはⅣ期となる。

 小細胞肺がんについては、TNM分類のほか、予後と治療方針を反映する分類として限局型(LD)と進展型(ED)の2期に分類する。LDは、病巣が同側胸郭(きょうかく)内に加え、対側縦隔、対側鎖骨上窩(じょうか)リンパ節までに限定され、かつ悪性胸水や心嚢水(しんのうすい)(心臓を包む膜内に体液が貯留した状態)を有さないもので、この範囲を超えて進行したものがEDとなる。

[渡邊清高 2018年10月19日]

治療

肺がんの治療は、外科療法(手術)、放射線療法、薬物療法が三本柱である。治療法は、がんの組織型や病期分類、患者の希望や心身の状態などを勘案して決定される。「肺癌診療ガイドライン」(日本肺癌学会編)には、非小細胞肺がん、小細胞肺がんが別項で扱われ、各臨床病期において推奨される治療法の樹形図が示されており、これらを参考に治療が進められる。

[渡邊清高 2018年10月19日]

外科療法(手術)

手術は非小細胞肺がんの標準的な治療法であり、臨床病期Ⅰ期~Ⅲ期の一部に対して行われる。肺葉切除術に、縦隔リンパ節郭清(かくせい)(リンパ節の切除)を加える術式が標準的である。術後再発は局所よりも遠隔転移が多いため、Ⅰ期~Ⅲ期の一部に対しては原則として術後補助化学療法が施行される。ただしこれらの手術施行の可否には、呼吸機能、心機能をはじめとする術前の全身状態が大きく影響するため、個々の患者ごとに慎重に適応が検討される。

 小細胞肺がんは、切除可能な早期に発見されることはまれである。臨床病期Ⅰ期の全身状態が良好な症例に対して、術後の抗がん剤治療(シスプラチン+エトポシド併用療法)の有用性が報告されている。

(1)肺葉切除術
根治を前提に、がんの大きさや広がり、発生部位、呼吸機能、心機能を含む全身状態、手術に伴う負担、術後の影響などを考慮し、切除範囲が決定される。

 肺は大きく右肺と左肺に分かれ、さらに右肺は上葉、中葉、下葉に、左肺は上葉、下葉に分かれる。通常はがんが存在する肺葉に限定して切除する肺葉切除術が選択される。

 患者の体力が手術に耐えられない場合、あるいは早期発見の場合には肺葉の一部のみを切除する縮小手術が選択されることもある。縮小手術には、がんのある肺区域のみを切除する区域切除と、がんのある一部分のみを切除する部分切除(楔状(けつじょう)切除)がある。

(2)リンパ節郭清
日本においては、切除可能な非小細胞肺がんに対しては、がんの切除範囲周辺の肺門縦隔リンパ節についても同時に摘出(郭清)するのが一般的である。摘出したリンパ節の転移の有無により、手術後の薬物療法や放射線療法の追加が決定される。

(3)胸腔鏡下手術
近年では、小さい手術創から小型のビデオカメラと光源、手術器具を胸腔内に挿入して切除を行う胸腔鏡下手術が選択されることが増えてきている。臓器の切除範囲とリンパ節郭清の範囲、全身状態などを考慮し、適応が検討される。開胸による手術に比べ術創が小さく、術後の痛みが少なく、術後の回復や呼吸機能への影響が小さいことが利点としてあげられる。一方でリンパ節郭清や再建技術のむずかしさから、開胸手術より合併症の発生率がやや高くなる可能性が指摘されている。

[渡邊清高 2018年10月19日]

放射線療法

体外から高エネルギーのX線を照射してがん細胞を死滅させる治療である。根治を目的にしたものと、骨や脳への転移によっておこる疼痛(とうつう)(痛み)などの症状を緩和する目的で行われるものに分けられる。

 非小細胞肺がんでは、併存疾患などの医学的理由で手術ができないⅠ・Ⅱ期および薬物療法が非適応のⅢ期に対して、根治を目ざした放射線照射が行われる。健常部位の被曝による肺障害を避ける意味でも、体幹部定位放射線照射など、線量の集中性を高める高精度照射技術が向上してきている。

 小細胞肺がんの限局型に対しては、脳転移の予防を目的とした予防的全脳照射が行われるほか、薬物療法と併用する「化学放射線療法」が生存率を改善するとの報告もある。

 肺がんの脳転移、骨転移に対しては、痛みの緩和や骨折予防を目的とした「緩和的放射線療法」が行われ、生存期間の延長やQOL維持に寄与している。

[渡邊清高 2018年10月19日]

薬物療法

外科療法や放射線療法は、がんが発生した局所に対しての治療効果を期待して行われるが、抗がん剤による治療は身体の広い範囲のがん細胞を攻撃する全身療法である。根治的な手術に引き続いて、潜在的な微小転移に対する治療を行うことにより将来の再発を予防する目的で行われたり(術後補助化学療法)、根治はむずかしいものの、症状緩和や生存期間の延長、QOLの維持・向上を目的として行われる(緩和的薬物療法)。非小細胞肺がんでは病期に応じて手術や放射線療法と組み合わせたり、単独での薬物療法が行われる。また、一般に遠隔転移をきたしやすく悪性度の高い小細胞肺がんに対しても、抗がん剤の治療効果は比較的高く、殺細胞性の抗がん剤を用いた薬物療法が治療の主体となることが多い。限局型の小細胞肺がんに対しては、抗がん剤と放射線を併用した治療(化学放射線療法)が行われる。

(1)殺細胞性抗がん剤(抗がん剤治療)
がん細胞が増殖していく過程に作用したり、がん細胞の分裂を阻害したりすることで、がん細胞の増殖を抑える薬剤である。細胞分裂が盛んな正常細胞にも作用するため、血液毒性(白血球・好中球の減少、貧血、血小板減少など)、倦怠(けんたい)感、嘔気(おうき)・嘔吐(おうと)、粘膜炎や口内炎などの粘膜症状、下痢などさまざまな副作用が発現する。

 非小細胞肺がんに対して行われる抗がん剤治療として、手術前に薬物療法を行うことがあり、臨床病期Ⅰ~ⅢA期の術前にプラチナ製剤を含む薬物療法を行うことで、プラチナ製剤を含まない薬物療法より生存期間の延長が期待できる。一方、手術後の薬物療法は、術後の微小な残存病変による将来の再発や遠隔転移を防ぐことにより、治療効果をさらに高め、生存期間の延長を目的として行われる。外科療法後の術後補助化学療法としては、術後の病理病期がⅠA期で腫瘍径2~3センチメートルおよびⅠB期に対してはテガフール・ウラシル配合剤(UFT)療法が検討される。術後病理病期Ⅱ・ⅢA期の完全切除例に対してはシスプラチン(CDDP)併用化学療法で生存率の改善が見込まれることから、適応の患者には推奨された治療となっている。一方、完全切除による手術の実施が困難な臨床病期ⅢA・ⅢB期に対しては、胸部放射線療法と併用する化学放射線療法が治療の第一選択である。この際には、プラチナ製剤と殺細胞性の抗がん剤の併用による治療(カルボプラチン+パクリタキセル併用療法、シスプラチン+ドセタキセル併用療法、シスプラチン+ビノレルビン併用療法など)が行われる。

 小細胞肺がんは、限局型のⅠ期で手術が可能な場合は、シスプラチン+エトポシド併用療法が術後化学療法として行われる。Ⅰ期の手術不能症例は化学放射線療法の対象となる。進展型に対しては、シスプラチン+イリノテカン併用療法の抗がん剤単独治療が標準治療となるが、副作用や年齢などに応じて、シスプラチン+エトポシド併用療法、カルボプラチン+エトポシド併用療法など、使用する抗がん剤の選択がなされる。

(2)分子標的治療薬
がんの増殖に関与する特定の分子を標的にして、その働きを阻害することで治療効果を発揮する薬剤である。切除不能な進行および再発がんのうち、おもに非小細胞肺がんの非扁平上皮がん(腺がんなど)の治療に使用される。特定の遺伝子変異などを標的にするため、効果は個々のがんの特徴に左右される。このため組織型が非小細胞肺がんの非扁平上皮がんの場合は、治療開始前に遺伝子変異の有無の確認が必須(ひっす)となる。手順として、非扁平上皮がんでは、がんの増殖に関わるEGFR遺伝子変異およびALK融合遺伝子陽性の有無、ROS1融合遺伝子陽性の有無を確認し、全身状態や年齢を考慮したうえで一次治療に使用する薬剤が選択される。EGFR遺伝子変異を認めた場合にはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブによる治療効果が期待できる。ALK融合遺伝子陽性の場合はALKチロシンキナーゼ阻害薬であるアレクチニブ、クリゾチニブ、セリチニブを、ROS1融合遺伝子陽性にはROS1チロシンキナーゼ阻害作用をあわせもつクリゾチニブを使用することで効果が期待できる。また、血管内皮増殖因子VEGFを阻害する作用を有するベバシズマブやラムシルマブを抗がん薬に併用することもある。BRAF遺伝子変異を有する場合にはダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法が行われることがある。

 一次治療の効果が減弱したり、副作用で薬剤の使用を中止した場合でも、全身状態が良好な患者については二次、三次治療を行うことで、予後やQOLの改善につながる。この際には、一次治療と異なる薬剤や組合せが選択肢となる。臨床試験の結果からは、ドセタキセル、ペメトレキセド、エルロチニブに二次治療薬としての有効性が示されている。

 一方、扁平上皮がんにおいては、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子陽性、ROS1融合遺伝子陽性、BRAF遺伝子変異の有無によって、それぞれのキナーゼ阻害薬による分子標的治療の可能性が検討される。

(3)免疫チェックポイント阻害薬
2015年には、非小細胞肺がんにおいて免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(オプジーボ)が、引き続いてペムブロリズマブ(キイトルーダ)、アテゾリズマブ(テセントリク)が承認された。がん細胞は、人体の免疫機構(身体から異物を排除しようとする機能)にブレーキをかけ、免疫機構から逃避することで増殖していくが、免疫チェックポイント阻害薬はそのブレーキ機構が働かないように作用することで、本来の免疫作用を回復させ、がんを排除させようとする薬剤である。進行小細胞肺がんの二次治療において、標準治療のドセタキセルと比較した試験では、扁平上皮がんおよび腺がんの生存率を有意に改善する結果が得られている。一方で、発現頻度は低いが、間質性肺炎、甲状腺機能異常、劇症型糖尿病、重症筋無力症など免疫関連の有害事象(副作用)が確認されており、薬価も高額である。日本肺癌学会は、免疫チェックポイント阻害薬の有用性や安全性は全身状態が良好な患者を対象にした臨床試験の結果であり、患者の年齢等にも配慮し、安易な使用を控えるよう緊急声明を出している(2015年12月18日)。これらを背景として、免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するための検討や、殺細胞性の抗がん剤を併用した治療についての臨床試験が行われるなど、新たな治療方法の開発が精力的に行われている。また2018年には同時化学放射線療法後のデュルバルマブ(イミフィンジ)による地固め療法が新たに承認された。

[渡邊清高 2018年10月19日]

経過・予後

診断・治療後の禁煙と禁煙の継続は原則である。また、治療後間もない時期は肺炎をおこしやすく、急な発熱や息苦しさが出現したときには早めの受診が勧められる。

 治療後の経過観察は5年が一つの目安となる。受診や検査の間隔は肺がんの進行度や治療内容によって異なるが、当初はおおむね1~3か月ごと、病状が安定したら半年~1年ごとに定期検査を受け、再発の有無などを確認する。定期通院時には問診・診察のほか、血液検査、尿検査、胸部X線検査、その他必要に応じてCT・MRI検査、骨シンチグラフィなどが行われる。

 全国がんセンター協議会の調査による生存率をみると(2018年集計)、2007~2009年に肺がんの治療を受けた患者の5年相対生存率は、臨床病期Ⅰ期で81.8%、Ⅱ期で48.4%、Ⅲ期で21.2%、Ⅳ期で4.5%となっている。ただし、現在発表されているこの成績は、約10年前の診断および治療による結果であり、現在の治療成績はより改善していると考えられる。

[渡邊清高 2018年10月19日]

その他

全国がん遺伝子診断ネットワーク(SCRUM-JAPAN)

2002年に日本で発売された分子標的治療薬ゲフィチニブ(イレッサ)の登場を契機に、肺がんの原因遺伝子異常が次々に判明している。日本人の肺腺がん患者の4~5割にみられるEGFR遺伝子の変異により、細胞増殖シグナル経路が持続的に活性化され、発がんに関与していることが明らかになり、そのメカニズムを治療標的として逆に利用することが分子標的治療の背景になっている。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブにより増殖経路が抑制されることが明らかとなって以降、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子のほか、RET融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、HER2遺伝子変異、MET遺伝子変異と、肺がんの原因となる遺伝子異常が次々に判明し、各遺伝子異常への効果が期待される薬剤の開発が進んでいる。一方で、それぞれの遺伝子異常をもつ患者は限られるため、治療効果が期待できる遺伝子変異と治療効果を評価検証するための登録の枠組みが必要となる。肺がんの発生に関連する遺伝子異常を効率よくスクリーニングし、治療効果が期待できる患者が当該の治験や臨床試験に参加しやすくなることを目的に立ち上げられたシステムとして、2013年より「全国肺がん遺伝子診断ネットワーク(LC-SCRUM-Japan)」が始動し、2015年には大腸がんの遺伝子スクリーニングネットワークと統合し、「SCRUM-JAPAN」として稼働している。

[渡邊清高 2018年10月19日]

呼吸リハビリテーション

おもに肺の切除手術を行う際に、治療に伴う合併症を予防し、後遺症を抑えて術後回復や早期の社会復帰を図ることを目ざして、手術前から「呼吸リハビリテーション」が開始される。開胸による手術では、痛みや麻酔の影響で呼吸が浅くなり、排痰(痰の排出)が悪くなり、肺炎をおこす可能性が高くなる。そのために、手術前から腹式呼吸や深呼吸、排痰方法を練習することで、術後でもスムーズに痰を排出できるようになる。喫煙者ではとくに痰の量が多いため、早期の禁煙が重要である。術後は早期の離床や体位変換に加え、歩行や呼吸訓練などのリハビリテーションが積極的に行われる。

 また、術後の痛みが浅い呼吸の原因になる可能性があるため、鎮痛薬による疼痛コントロールも積極的に行われる。

 このように、術前から継続的に行われる呼吸リハビリテーションにより、効果的な排痰や呼吸方法に慣れるとともに、筋力や持久力をつけることができる。

[渡邊清高 2018年10月19日]

『日本臨床腫瘍学会監修『入門腫瘍内科学』改訂第2版(2015・篠原出版新社)』『日本肺癌学会編『EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2016年版』第4版(2016・金原出版)』『〔WEB〕国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』』『〔WEB〕全国がんセンター協議会『全がん協生存率調査』』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

家庭医学館 「肺がん」の解説

はいがん【肺がん Lung Cancer】

◎できる場所と種類で程度がちがう
[どんな病気か]
[症状]
[検査と診断]
◎治療後の生活を考え、最適の方法を
[治療]

[どんな病気か]
 肺の中にできる悪性の腫瘍(しゅよう)を肺がんといいます。正確にいうと、気管にできたものが気管(きかん)がん、気管支にできたものが気管支(きかんし)がんで、さらにその先の肺内にできたものだけを肺がんという場合もあります。
 気管支や肺の内面をおおう細胞を、上皮細胞(じょうひさいぼう)といいます。
 悪性細胞の種類による名前でいうと、この上皮細胞から発生した悪性の腫瘍を肺がんと呼び、結合組織から発生した悪性腫瘍は肺肉腫(はいにくしゅ)と呼びます。しかし、肺肉腫ができることは非常にまれで、ふつうは気管から気管支、肺に至る部分に発生した悪性腫瘍を肺がんといっています。
■原発性(げんぱつせい)肺がんと転移性(てんいせい)肺がん
 ここまでに説明した肺がんは、発生した場所が呼吸器であることから、原発性肺がんといい、上皮性の悪性腫瘍のことです。
 ところが、骨肉腫(こつにくしゅ)とか子宮がん、乳がん、胃がん、腎(じん)がんなど、からだの各所にできた悪性腫瘍から飛び火(転移)して、肺に悪性腫瘍ができることがあります。
 この悪性腫瘍には、骨肉腫のように、上皮細胞から発生したものではないものも、子宮がんなどのように、上皮細胞から発生したものもあります。これらをすべてまとめて、転移性(てんいせい)肺腫瘍、あるいは転移性肺がんと呼びます。
■小細胞(しょうさいぼう)がんと非小細胞(ひしょうさいぼう)がん
 肺がんのがん細胞は悪性の上皮細胞ですが、この細胞のなかで、とくに悪性度が高いがん細胞があります。それが小細胞がんで、ほかのがん細胞に比べて細胞が小さいため、小細胞がんと呼ばれています。これは驚くほど早く大きくなり、転移するのも早いという特徴があります。
 もう1つの特徴は、化学療法や放射線治療が比較的よく効くことです。そのため、腫瘍が3cm以上の大きさになっていたり、大きさが3cm以下でも、リンパ節が腫(は)れていて小細胞がんと診断がついた場合は、手術よりも、まず化学療法や放射線治療を行なうのがふつうです。
 そのため肺がんを、がん細胞の種類によって、小細胞がんと小細胞がん以外のがん(非小細胞がん=扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、腺(せん)がん、大細胞(だいさいぼう)がんなど)に分け、小細胞がんか、非小細胞がんかによって治療方針を決定しています。
●転移
 がんが肺に発生し、しだいに大きく発育していくと、周囲のリンパ管や血管を侵食して、がん細胞はリンパ液や血液の中に流れ込み、発生したところとはちがった場所に流れ着き、そこで増殖し大きくなっていきます。これを転移といいます。
 転移には、リンパ管を通って広がるリンパ行性(こうせい)転移と、血管を通って広がる血行性(けっこうせい)転移の2種類があります。
 リンパ行性転移は、つぎのようにして広がります。がんの周囲のリンパ管ががんによって侵食されて、リンパ管に流れ込んだがん細胞は、まず肺の中のリンパ節にとらえられます。
 ここである程度発育すると、がん細胞はさらに流れ出して、肺に血管や気管支が入る肺門部(はいもんぶ)というところにある、肺門リンパ節(N1)でとらえられます。つぎに、左右の肺の間の仕切りである縦隔(じゅうかく)にある、縦隔リンパ節(N2)でとらえられ、さらに、鎖骨(さこつ)の上にある鎖骨上窩(さこつじょうか)リンパ節(N3)でとらえられます(図「がんの原発巣と転移」)。
 この3段階の免疫の防御網を突破すると、がん細胞はくびのところから静脈に入って血流にのり、全身に血行性の転移をおこします。くびの静脈に入るまでがリンパ行性転移です。
 血行性転移では、病巣(びょうそう)の近くの血管を破って血液に入ったがん細胞が一気に心臓を通って全身に散らばり、肺、腎臓、副腎、脳、肝臓、骨などに新しいがん病巣をつくっていきます。
 リンパ行性転移とちがい、リンパ節という防御網がなく、いきなり遠方に転移する(遠隔(えんかく)転移)のが特徴です。
 血管を侵食するのが早いと転移もおこりやすく、そのようながん細胞は悪性度が高いといいます。先ほどの小細胞がんがこれにあたります。
●病期(びょうき)
 肺がんの大きさの分類とリンパ節転移の状態、また遠隔転移があるかないかを組み合わせて、患者さんの病気の時期(進行の程度)を判定するのが病期です。これによって治療の方針が決まります。
 大まかにいうと、図「肺がんの大きさと場所による分類」のように、肺がんの最大の直径が3cm以下の群(T1)、直径3cm以上か、がんが肺門部にまで広がっている群(T2)、肺を取り囲む胸壁(きょうへき)や横隔膜(おうかくまく)にまでがんが広がっている群(T3)、気管、食道、心臓などの重要な器官にまでがんが広がっていたり、がん細胞を含んだ悪性胸水(きょうすい)が胸中にたまる群(T4)、の4つに分けます。
 リンパ節転移は、先ほどのように、リンパ節転移がない群(N0)とN1、N2、N3の4群に分けます(図「がんの原発巣と転移」)。遠隔転移の場合は、転移あり(M1)と転移なし(M0)の2群に分けます。以上を組み合わせ、病期が決定されます(表「肺がんの病期」)。
 肺がんは、早期がんと進行がんに分けられます。早期がんというのは、Ⅰ期とⅡ期、進行がんはⅢA期からⅣ期をいいます。早期がんとⅢA期までが手術の対象になります。
 ⅢB期では、リンパ節転移が進んでいたり、重要な臓器ががんでおかされているため、手術が困難で、たとえ切除できても、これで完全に治ったと外科医が納得できる手術は困難です。

[症状]
 肺がんの三大症状として、せき、たん、血たんがあります。これらは、比較的肺がんが小さいときから自覚される症状です。肺がんそのものによる症状としては、胸や背中が痛む、食事が飲み込めない、顔や上半身が腫(は)れるなどの症状が出てきます。
 このほかに、リンパ節転移の症状として、声がかすれる、くびやわきの下にグリグリが触れるという症状が現われます。
 遠隔転移の典型的な症状は、頭痛です。頭が痛いので脳外科を受診したら、肺がんの脳への転移が見つかったという患者さんがたくさんいます。
 しかし、ここで注意しなければならないのは、肺がんの患者さんの20%近くが、異常な症状をまったく自覚していないことです。逆にいえば、症状が出る段階では、肺がんは相当に大きくなっているといえることです。
 この段階で治療しても、なかなか成果はあがりません。最近、アメリカの研究などから、「検診はお金がかかるばかりで、そのわりに効果が少ないのでむだだ」という説も出ていますが、臨床医としては、皆さんに、症状が出ないうちに、できるだけ肺がんの検診を受けていただきたいと考えています。

[検査と診断]
 肺がんを診断するための検査には間接的な方法と直接的な方法とがあります。間接的方法とは、患者さんの状態をみて、今までの経験から、肺がんが疑えると判断することです。直接的方法とは、からだの組織の一部分をとり出して顕微鏡でみて、がん細胞を確認するものです。
 間接的な方法の代表的なものは、胸部X線写真です。背中から腹部の方向に放射線を当てて撮影(背腹写真)するのがふつうです。フィルムは患者さんと対面する方向で観察します。
 さらに詳しく観察するために、右斜め、左斜め、真横の3種の写真も追加撮影します。これらを、まったく正常な胸部の写真と比較して、異常があるかないかを判断します。
 この胸部X線写真で、およそ2cm以上の丸い形のがんの陰影が発見できます。
 ただし、陰影が2cm以下だと、発見はとてもむずかしくなります。また、周辺がぼんやりした陰影や心臓、横隔膜にかくれる陰影も背腹写真だけでは発見がむずかしく、ほかの3種類の写真もみる必要があります。
 つぎに行なわれる間接的な方法は胸部CT写真です。ふつうは、X線の単純撮影による背腹写真で異常な陰影が見つかった場合に、この写真を撮ります。異常な陰影があれば、CT撮影をし、詳しく調べておくことが必要だからです。
 CT写真はふつう、1cmごとに胸部の輪切り(スライス)像を25~30枚ほど撮影し、背腹写真で異常と判断した陰影が、どのくらいの大きさで肺のどの部分にあるか、また肺門部や縦隔リンパ節が腫れていないかどうか観察します。
 最近はCT装置が普及し、早く撮影できるようになったため、いつまでもせきが続いたり、たんに血がまじる場合には、背腹写真で異常がなくてもCT撮影をすることが多くなりました。そのため1cm以下の小さな肺がんが偶然に発見されることも以前に比べて多くなっています。
 つぎに間接的な検査法は腫瘍マーカー(「腫瘍マーカー」)です。これは、がん組織の一部分がこわれて血液の中に流れ込むと増えるたんぱく質の一種を、アイソトープ(同位元素(どういげんそ))などを使ってはかるものです。
 このたんぱく質が正常よりも多い場合、がんが疑われるわけですが、腫瘍マーカーの値が異常に高くても、それだけで肺がんとは断定できません。別のがんかもしれないからです。
 ずいぶんいろいろな腫瘍マーカーが開発されたため、健康保険では一度に検査できる項目数が制限されています。
 つぎに、直接的な検査法でもっとも代表的なものは、たんの中にがん細胞があるかどうかを調べる細胞診(さいぼうしん)です。たんがどうしても出ないという人は困りますが、洗面のときに、せきといっしょにたんが出れば、きれいな容器にとり、その日のうちに検査します。
 いつたんが出るかわからない人のために、保存用の防腐剤の入った容器にたんを入れてもらうこともありますが、そのたんは、せきをして出たものでなければなりません。つばを出したり鼻汁をすすって出したものでは正確な検査ができません。血たんが出たときはかならず細胞診検査をします。
 直接的検査法の2番目は、気管支鏡検査です。これは一種の内視鏡で、改良されて胃カメラよりも細くしなやかになっています。先端には組織をとるための小さなクリップがついています。
 トウガラシからウイスキーまで受け入れられる胃とちがい、せいぜいたばこの煙ぐらいしか通らない気管支の中に入れるため、検査中は、せきが出たり息苦しく感じます。局所麻酔をしても、少しばかり苦痛があります。
 しかし、この気管支鏡検査は、気管支の中を観察し、飛び出しているがんの一部をとって顕微鏡観察にまわしたり(気管支鏡下生検(きかんしきょうかせいけん))、気管支鏡の中を通したワイヤーブラシを使って直接は見えない肺の奥の腫瘍から細胞をとってきて(ブラッシング)、顕微鏡観察ができるため、きわめて重要なものです。血たんがあれば気管支鏡検査を受ける必要があります。
 直接的検査法の3番目は、吸引針生検(きゅういんはりせいけん)と呼ばれるものです。鎖骨の上の腫れたリンパ節や胸壁の腫れた部分を針で刺し、中身を吸い上げながら引き抜いてきます。危険のないよう、針で刺せる部位をCT装置で確認して、からだにマークをつけ、針で刺す、CTガイド下針生検という方法もあります。
 このようにして、本当に悪性のがん細胞がみられるのか、あったとすればそれが小細胞がんなのか非小細胞がんなのか、非小細胞がんならどのような種類のがん細胞なのかをみきわめてから、治療の方法が決定されるわけです。

[治療]
 ここでは原発性肺がんの治療について解説します。
 肺がんでも、胃がんの場合と同じく、すっかり切り取って(切除)しまうのがいちばんよいのです。しかし、肺は呼吸機能を担う、もっとも重要な臓器の1つですから、いくらでも切除していいというものではありません。
 そこで、安全に切除できるかできないかを判断するため、手術前に検査(術前(じゅつぜん)検査)を行ないます。一般的な検査のほかに、肺の物理的な能力をみる肺機能検査と、動脈血ガス分析(血液に酸素や二酸化炭素がどのくらいあるかをみて肺の生理学的能力をみる)がたいせつなものです。その成績でどのくらい肺を切除できるか、手術後の生活も考えて、決定されるからです。
 また、肺がんだけ全部切除できたと喜んでも、がん細胞が脳や骨など、からだの各所に転移していたら、なんにもなりません。そのために、アイソトープを使ったRI検査や磁気を使ったMRI検査によって、転移していないか、がん細胞の追跡を行ないます。
 非小細胞がんで、手術が可能と判断できれば手術が行なわれます。
●非小細胞がんの治療
●小細胞がんの治療
●退院後の注意
●手術後の注意
●肺がんの早期発見

●非小細胞(ひしょうさいぼう)がんの治療
 第1に選択する治療法は手術です。手術ができないと判断された場合は、放射線を当ててがん細胞を攻撃する放射線療法か、薬剤によってがん細胞を攻撃する化学療法になります。これらをさまざまに組み合わせることもあります。
 手術 呼吸器外科で高齢者というのは、以前は65歳以上でしたが、それが70歳となり、現在では75歳から80歳までを高齢者といいます。
 80歳以上は超高齢者で、年齢により、からだの予備の力が少なくなるため、年齢も手術をするかしないかの判断材料の1つになります。
 しかし、痛い思いをするのは本人ですから、結局は家族ではなく、本人の意志によって手術を受けるか受けないかを決めるべきです。
 肺がんの病期のところで説明したように、病期がⅠ期およびⅡ期の早期肺がんは当然、手術の対象になります。
 進行がんのⅢA期の肺がんでも、縦隔リンパ節と脂肪をすべて切除する手術を行ないます。しかし、巨大な縦隔リンパ節転移があると切除できません。
 ⅢB期で問題になるのは、がんが食道、気管、大動脈にまで広がり、あるいは反対側の縦隔リンパ節にまで転移しているため、右側の肺がんでも、左の胸も開けなければならないことがあり、手術がむずかしくなります。
 そこまで大きな手術をして、本当に患者さんに利益があるのか、呼吸器外科医の間では議論が続いています。
 Ⅳ期は血行性転移がある場合ですが、肺がんから肺に転移がある場合でも、その転移の数が1個なら両方を切除すると、意外に手術の成績がよいことがわかっています。医師は、そういう説明をして、患者さんの承諾をえて手術をすることがあります。
 手術の方針は、できるかぎり健康な部分を残すように努力します。手術法は、肺を切除する大きさによって、肺区域(はいくいき)切除、肺葉(はいよう)切除(一葉、二葉)、肺全葉(はいぜんよう)切除の3種類があります。
 肺葉というのは、気管が枝分かれするにしたがい、右肺は3つの部分(3枚)に分かれ、左肺は2つの部分(2枚)に分かれます。この1枚あるいは右なら2枚を切除するのが肺葉切除で、片側の肺を全部切除するのは全葉切除といいます。
 呼吸器外科医は、手術の結果を、治癒(ちゆ)手術、非治癒手術と大きく2つに分けて説明します。
 治癒手術とは、がん細胞をきれいに取り除いて、再発する可能性が低い場合をいいます。
 縦隔リンパ節などに転移があって、再発する可能性が高いと考えられる場合には、非治癒手術と説明します。
 非治癒手術の場合には、再発を可能なかぎり防ぐため、手術をした後に化学療法や放射線治療をするように勧めることがあります。
 放射線治療 手術ができない場合、あるいは非治癒手術の場合に行なわれます。薬による化学療法とのちがいは、放射線があたった部分にしか効果がないことです。
 副作用は、放射線によるやけどと、からだを細菌の攻撃から守る白血球の減少です。
 縦隔のやけどでは、食物を飲み込むと痛いという症状が出ます。また、肺のやけどでは、からせきが続くという症状があります。しかし、これらの症状は最近、薬によってかなり軽くすることができるようになっています。
 化学療法 使用する抗がん剤には、いろいろな種類がありますが、多くの場合、1種類だけを使用することはありません。というのも、抗生物質のように、1つですばらしい効果があがる抗がん剤は、今のところないからです。
 がん細胞の種類によって多少のちがいはありますが、2種類か3種類の薬を組み合わせ、しかも副作用が少なくなるよう工夫して使われます。
 放射線治療でも同じですが、0~4までの段階に分けられる一般状態(PS)のうち、0~3までの患者さんが化学療法の対象になります。自分で身のまわりのことができず、1日中横たわっている患者さんは対象になりません。年齢はとくに問題にはならず、この病期と患者さんの全身状態を示す一般状態によって決まります。化学療法も副作用がありますから、結局は、患者さん本人の意志によって受けるか受けないかを決めることになります。
 化学療法や放射線治療を行なった後の効果を判定する目安としては、著効(ちょこう)、有効、不変、進行という4種の表現が使われます。
 著効というのは、観察できるすべての腫瘍がほぼ完全に消え、その消失している期間が4週間以上ある場合です。
 有効というのは、少なくとも4週間ほど、腫瘍の縦と横をかけた積が50%以上小さくなった場合です。
 不変というのは、小さくなった割合が50%未満の場合です。
 進行というのは、縦と横の積が25%以上大きくなった場合です。
 化学療法にも副作用があります。手術のような痛みはありませんが、著効となるような化学療法のプログラムでは、それだけ副作用も強くなります。
 患者さんが自覚する副作用で、もっとも苦しいのは、吐(は)き気(け)と食欲不振です。そのほか、下痢(げり)や脱毛もあります。
 血液検査で、細菌などの攻撃からからだを守る白血球が、ふつうは1mm3の血液中に3000個以上あるべきなのに、2000個以下になることがあります。これが白血球の減少です。
 こういった化学療法の副作用を少なくするための努力が重ねられ、最近では、吐き気や下痢も抑えられ、白血球の減少もおこらないように薬を使うことができるようになりました。しかし、いろいろな努力がされてはいるものの、脱毛の防止については、今のところ、あまり有効な方法がありません。

●小細胞(しょうさいぼう)がんの治療
 肺の小細胞がんは、あっという間に大きくなります。そのため、小細胞がんとわかれば、病期がⅠ期でリンパ節転移がなければ手術しますが、それ以外の病期なら、まず化学療法を行なうのがふつうです。
 非小細胞がんに対する化学療法とちがい、化学療法が非常に著効であることが多く、放射線治療も著効することがしばしばあります。直接的な診断法でⅠ期以外の小細胞がんということが確定すれば、まず化学療法を行なうのが一般的で、効果を確認した後に手術で切除することもあります。

●退院後の注意
 肺がんは比較的に進んだ状態で発見されることが多く、治療が終わっても、再発の心配はないと断言できません。そのため医師は、退院のときに、毎月とか3か月ごとに外来に来るように指示します。
 外来では、受診のたびに胸部X線写真や血液の検査を行ない、アイソトープによる骨の検査や、年に1~2回はCT撮影をして、転移がおこっていないか、再発していないかを確認します。
 肺がんでは、治療が終わって退院しても、こうした経過観察が非常にたいせつです。以前は、退院後も抗がん剤を飲み続けると再発が少ないと考えられていましたが、抗がん剤で別の場所にがんがおこりやすくなるという説もあり、患者さんに説明して、飲むか飲まないか決めてもらうように変わりつつあります。
 転移がおこったことがわかれば、すぐに治療を行ないます。肺に転移がおこれば、もう一度手術する場合もあります。多くの転移があれば、化学療法を行ないます。骨盤など、手術できない場所に転移した場合は、放射線治療をすることもあります。

●手術後の注意
 以前は、肺の手術は大きな手術だから、退院後は自宅で静かに寝ていなければならないと思われていました。しかし、肺がんにかかる患者さんは50歳代以上の人が多く、静かに寝ていれば元気になるどころか、しだいに食欲もなくなり、からだがおとろえてきます。
 手術のあとが痛みますが、ゆっくりと腕を動かし、また、ゆっくり歩くように心がけて生活することです。
 歩くことで、少なくなった肺活量の回復も早まります。傷の痛みは、温めると軽くなります。

●肺(はい)がんの早期発見
 肺がんになると助からないと思われていましたが、手術の成績をみても、Ⅰ期の肺がん、とくに直径が1cm以下の小さな肺がんなら、5年後も元気に暮らしている人が100%です。
 胃がんもそうですが、肺がんも早期に発見しなければ、治療も思うようにできません。まず、早期に見つけ、治療を受けることです(コラム「肺がんの早期発見」)。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「肺がん」の解説

肺がん
はいがん
Lung cancer
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 肺にはいろいろな種類の悪性腫瘍が発生しますが、その大半は肺がんです。肺がんは、気管支や肺をおおっている細胞(上皮細胞)から発生するものです。一方、上皮以外の細胞から発生するものに、悪性リンパ腫、がん肉腫(にくしゅ)肺芽腫(はいがしゅ)悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)などがあります。

 肺がんは、小細胞(しょうさいぼう)肺がんと非小細胞肺がんに大別されます。肺がん全体の約10~15%が小細胞肺がん、残る85~90%が非小細胞肺がんです。小細胞肺がんと非小細胞肺がんとでは、病気の特徴や薬の効きめが大きく異なっています。両者をきちんと区別することで、治療法を決めたり、予後(肺がんが治るかどうか)を予測します。

 小細胞肺がんは、増殖のスピードが速く、見つかった時にはすでに他の臓器へ転移していることが多い、極めて悪性度の高いがんです。その反面、抗がん薬や放射線が比較的よく効きます。したがって、多くの場合、手術ではなく、抗がん薬や放射線で治療を行います。

 非小細胞肺がんは、小細胞肺がんに比べると増殖のスピードは若干遅いものの、抗がん薬や放射線が効きにくいがんです。早期に見つかり手術で完全に取り除くことができれば、十分に治る見込みがあります。

原因は何か

 がんは、遺伝子異常の蓄積によって生じます(コラム)。では、遺伝子の異常は何を原因として生じるのでしょうか。遺伝子に異常を与える刺激の代表的なものは、発がん物質、放射線、紫外線、慢性の炎症などです。

 肺がんの原因の第一はたばこです。たばこの煙のなかには、4000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち約200種類は有害物質で、40種類以上は発がん物質であるということが知られています。これらの発がん物質が複合的に作用して肺がんをつくります(これを化学発がんと呼びます)。つまり肺がんは、たばこの煙という発がん物質によってできるがんです。

 たばこ以外にも、体質(遺伝的素因)、大気汚染、食事、職業などさまざまなものが肺がんの発生に影響を与えることが示されていますが、たばこの影響の深刻さに比べるとわずかなものにすぎません。

 肺がんは世界中で急激に増加しています。日本においても、1998年には胃がんを抜いてがん死亡の第1位になりました。2016年人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報部)によれば、肺がんの死亡者数は年間7万3800人(男性5万2400人、女性2万1400人)でした。増加傾向は今後も続くと推測されています。その背景にあるのは、禁煙対策の遅れと社会の高齢化です。急増する肺がんの予防と治療をどのように行うかは、21世紀の大きな国民的課題と考えられます。

症状の現れ方

 肺がんに特有の症状というものがあるわけではありません。また、肺という臓器は極めて鈍感な臓器です。そこに早期発見が難しいわけがあります。

 表16に肺がんでみられる臨床症状をあげてありますが、これらの多くは肺がん以外の呼吸器疾患でもみられるものです。しかし、明らかな原因がないのに咳や痰が2週間以上続く場合や、痰に血が混じる時は、早めに医療機関を受診するべきです。

検査と診断

 肺がんが疑われた時に受ける検査には、一般の検査に加えて以下のようなものがあります。

喀痰(かくたん)検査

 喀痰検査は、苦痛なしに肺の局所の病気を調べるのに非常に有用な検査です。がん細胞の有無を調べると同時に、結核菌や細菌検査など、他の病気の区別も行うことがあります。

②腫瘍マーカー

 さまざまな腫瘍マーカーがありますが、肺がんの腫瘍マーカーでは、小細胞肺がんに対するプロGRP、NSE、非小細胞肺がんのなかでは、腺がんに対するCEA、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんに対するシフラ、SCCが代表的なものです。

 ただし、これらの腫瘍マーカーは良性の疾患でも上昇することが知られており、この数値が高いからといってがんがあると判断することはできません。あらかじめ異常な数字を示した場合に、治療効果や再発の有無を判定することに用いられています。

③気管支内視鏡検査

 ある程度の苦痛と危険を伴う検査ですが、肺がんであるかどうか、肺がんだとした場合にどこまで進んでいるかを判定するためには欠かすことのできない重要な検査です。カメラで気管支内部を観察するとともに、病巣から直接細胞や組織を採取して詳しい検査をします。苦しい検査といわれてきましたが、最近では麻酔下に苦痛なく実施されることが増えてきました。

④CT検査

 従来の胸部X線検査に比べ、肺のほとんどすべての領域を正確に調べることができます。また、リンパ節の転移などもかなり正確に判断することができます。肺がんがあるかどうか、どの程度進行しているかなどを調べるための最も重要な検査のひとつです。

 最近は、ヘリカルCTという、極めて小さな病変も検出できる装置が開発され、検診や精密検査に威力を発揮しています。

⑤MRI検査

 磁力を検出することで病変の存在や、その性質を調べる検査です。この検査が肺がん診療にとくに力を発揮するのは、縦隔(じゅうかく)という肺に隣接した臓器へのがんの浸潤(しんじゅん)を調べたり、脳、骨、骨髄(こつずい)へのがんの転移を検出する際です。より詳細な検査が必要と考えられた場合に、場所を絞って調べることが一般的です。

⑥骨シンチグラフィ

 全身の骨への転移の有無を一気に調べることができるため、病期を決定して治療法を選択する際に行う検査です。

⑦超音波検査

 手軽に実施できて、副作用もまったくない検査です。胸水のたまり具合をみたり、肝臓や副腎などの腹部への転移を調べる際に使われます。

⑧換気血流シンチグラフィ

 肺は呼吸を維持するために欠かすことのできない臓器です。手術によって病巣を切除する場合、残った肺で十分に呼吸ができるかどうか予測することは極めて重要です。肺機能検査と併用してこの検査を行うことで、手術後の肺機能を予測することができます。切除範囲が広くなる場合や、元々の肺機能が不良な患者さんに実施されます。

⑨PET(ポジトロンCT)

 腫瘍細胞は、糖分の取り込みや消費パターンが正常細胞と異なっています。この性質を利用してがんであるかどうか、どこに病巣があるかを調べる検査です。

 良性・悪性の区別、リンパ節転移の診断、術後の局所再発の確認などにおいては、従来のCTに比べて、同等またはそれ以上の精度があるといわれています。

⑩バイオマーカー検査

 肺がんは、個別化医療がもっとも進歩した領域です。個別化医療とは、患者さん一人ひとりのがんの性質を調べて、もっとも有効な治療法・治療薬を選択する医療のことです。

 がんの性質を決める指標を、バイオマーカーと呼びます。バイオマーカーは、呼吸器内視鏡検査などで肺がんの組織を採取し調べることが一般的ですが、最近ではEGFR遺伝子異常(後述)の一部を血液で調べることも保険で可能となりました(これをリキッドバイオプシーと呼びます)。今後、多くのバイオマーカーが発見され、日常診療に登場すると予測されています。さらには、数百の遺伝子異常を一気に調べることのできる遺伝子パネル検査も登場間近です。後述しますが、バイオマーカー検査とこの結果に基づいたがん医療は今後のがん薬物療法の主流となるものと期待されています。

 以上、一見、非常に多くの検査がありそうですが、進行が速い肺がんをできるだけ早く診断し、早急に最適な治療法を決定するためには、複数の検査を一気にやってしまうことが一般的です。

治療の方法

 肺がんの治療法は、細胞型と進行度で決められます。細胞型というのは、前述の小細胞肺がんか非小細胞肺がんかということです。薬物療法が選択された場合には、バイオマーカー検査の結果を参考にします。

①小細胞肺がんの治療

 悪性度の高い小細胞肺がんの進行度は、がんが片方の胸部だけに限られている限局型と、それを越えて進んでいる進展型に分けられます。治療をしなかった場合の余命は、限局型で6カ月、進展型では2~3カ月にすぎません。

 限局型小細胞肺がんの治療は、放射線療法と、シスプラチン・エトポシドという2つの抗がん薬による化学療法を同時に併用することが標準的になっています。内臓の機能が正常で、重い合併症がない人では、中央生存期間(生存期間の中央値)は2年~2年6カ月、全体の4分の1の患者さんが治ることが国内外の臨床試験で明らかになりました。

 一方、進展型小細胞肺がんの治療成績は不良です。進展型では、病気が広がっているために放射線療法は適しておらず、抗がん薬による化学療法が選択されます。標準的治療法は、シスプラチンとイリノテカンの2剤併用、または、シスプラチンとエトポシドの2剤併用です。高齢者、腎臓の機能が低下した人、全身状態があまりよくない人では、シスプラチンの代わりにカルボプラチンが使用されます。

 なお、Ⅰ期(早期肺がん)で発見される小細胞肺がんはまれですが、手術で約50%程度の治癒が見込まれるとされています。

②非小細胞肺がんの治療

 非小細胞肺がんの治療は、Ⅰ、Ⅱ期のいわゆる早期肺がんでは手術(または手術と抗がん薬の併用療法)が、Ⅲ期の局所進行期がんでは抗がん薬と手術または抗がん薬と放射線の併用療法が、Ⅳ期の進行期がんでは抗がん薬が使用されます。

 Ⅰ期では60~80%程度、Ⅱ期では40~50%程度が治ります。Ⅲ期の一部は手術できることがありますが、治癒の見込みは15~30%程度、手術不能のⅢ期では、標準的な治療を受けた場合で10~15%程度です。

 Ⅲ期の場合、手術可能例では術前に抗がん薬を投与することで治癒の見込みが高くなることがわかっています。手術不能例では、放射線療法と抗がん薬の同時併用療法が優れているということが確立しています。

 Ⅳ期の進行期肺がんでは、治癒を期待するのは極めて困難です。ただし、抗がん薬の使用によって延命効果とQOL(生活の質)の改善が得られることが明らかになっています。最近は新しい治療薬として分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が登場し、治療成績が飛躍的に向上しています。

がん薬物療法の現在と未来

 従来からの薬物療法の薬剤は、(さつ)細胞性抗がん薬と呼ばれます。シスプラチンやカルボプラチンというプラチナ製剤に作用機序の異なる薬を併用するプラチナ併用療法が、長い間標準的治療法として用いられてきました。今でも重要な治療法ですが、以下に示すように、異なった作用機序をもつ2つの系統の治療薬が登場し、治療成績が飛躍的に向上しました。

 2004年に、肺がんの一部では、EGFR(がん細胞が増殖するのに必要なたんぱく質)の遺伝子異常があり、その遺伝子の働きを抑える薬(EGFR阻害薬)が著効することが報告されました。この遺伝子異常は肺発がんを強力に進めるということで、「ドライバー遺伝子」と呼ばれています。その後、ALK融合遺伝子、ROS-1融合遺伝子などのドライバー遺伝子が発見され、これに対する治療薬が承認されました。今後もさらに多くのドライバー遺伝子の発見と治療薬の開発が進む見込みです。

 さらに、2016年に肺がんに対する新規薬剤が承認されました。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれるもので、患者自身の免疫の力でがん細胞を攻撃させる薬です。①肺がんにおいて初めて「科学的に有効である」ことが証明された点、②「免疫関連有害事象」と呼ばれる副作用が生じる点、で従来の免疫療法とは大きく異なります。一部の薬は、PD-L1という分子が陽性の場合によく効くことが知られていますが、薬が有効ながんと無効ながんを見分けるバイオマーカー研究が進行中です。

肺がんは治るか?

 肺がんは治るか?といった質問に対しては、早期であれば治る見込みが十分にあるといえるでしょう。とくに手術可能なⅠ、Ⅱ期の患者さんでは治癒の可能性が高くなります。Ⅲ期であっても最新の化学放射線療法を受けることで、20%程度の患者さんは治癒することが期待されます。

 一方、Ⅳ期になると完全に治癒する見込みはゼロではないにしてもかなり低くなるのも事実です。以前は、進行期肺がんと診断された場合、生命予後はかなり悲観的でした(5年生存率1%未満)。しかし、ドライバー遺伝子陽性の人に有効な薬を使用した場合、5年生存率は30%、免疫チェックポイント阻害薬による初期の臨床試験の成績では16%という報告がされました。肺がんの治療成績は今後も飛躍的に向上することが期待されています。

 また、病気がひどく進行して体力が低下すると治療に耐えることができなくなります。しかし、その場合も決して治療法がなくなったわけではなく、痛みや呼吸困難を和らげるための支持療法や緩和(かんわ)医療が選択されることになります。(注:緩和医療は決して終末期医療ではなく、がん治療の初期から開始すべきであり、緩和医療の早期開始で寿命が延びることも証明されています。)

 つまり、肺がんの治療には終わりはなく、病気の進行度や病状につれて、その時に最も適した治療法が選択されるということになります。まずは、どのような場所でどのような医療が行われているのかを調べたり、問い合わせることが有用でしょう。

有用な患者情報

①病気に気づいたらどうする

 ぜひ、肺がんの専門病院を受診してください。

 最近は医療の内容が専門分化されています。肺がんの診断、治療はかなり専門性が高い領域です。

②インフォームド・コンセントとセカンドオピニオン

 インフォームド・コンセントとは、受ける医療行為について十分に理解できる説明を聞いたうえで、患者さんが自分の意思で自分が受ける医療の最終決定をするという制度です。病状や治療法の説明を受ける時は、必ず時間を約束して、身内のなかで重要な相談相手といっしょに聞いてください。わからないことは鵜呑(うの)みにせずに、必ず納得できるまで聞いてください。

 また、本当にその医療を受けるべきかどうか悩んだ時は、セカンドオピニオンといって他の専門家に第三者の立場から参考意見を求めることも可能です。主治医に遠慮せずに、セカンドオピニオンを聞きたい旨を申し出ると、必ず必要な資料を提供してくれるはずです。

③肺がんと診断された時の生活上の注意

 食事について特別な注意事項はありません。少量のお酒も大丈夫です。ただし、検査や治療上、苦しい思いをしたり合併症を起こすおそれがあるので、たばこはやめましょう。

④インターネットでの情報

 最近では、いろいろな情報をインターネットを通じて入手することができます。肺がん関連では、以下のウェブサイトがおすすめです。

・日本肺癌学会 一般の皆様へ(facebookからの動画サイトもあります)

 http://www.haigan.gr.jp/

・西日本胸部腫瘍臨床研究機構(WJOG)ホームページ 患者さんのサポート(よくわかる肺がん無料ダウンロード)

 http://www.wjtog.org/mainpage.html

・国立がん研究センターホームページ がん情報サービス

 http://www.ncc.go.jp/jp/index.html

・キャンサーネットジャパン

 http://www.cancernet.jp/

・がん情報サイト「オンコロ」

 https://oncolo.jp/



肺がん
はいがん
Lung cancer
(お年寄りの病気)

高齢者の特殊事情

 肺がんとは 肺から発生したがんの総称です。とくに高齢の男性では、がんのなかでも最も発生頻度が高く、日本では第1位です。

 肺がんには、顕微鏡で見たがんの組織の特徴から、腺がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、大細胞がん、小細胞がんなどの種類がありますが、臨床的には、その治療方法の違いから、小細胞がん、非小細胞がんと大きく2つに区別しています。

 今後ますます高齢化社会が進むことによって増加する病気であることは間違いありません。したがって最も重要なことは、ほかのがんと同じで早期発見、早期治療です。非小細胞がんで、早く見つかり治療をすれば5年生存率は50~70%ですが、肺内のリンパ節に転移した場合、5年生存率は30~50%に下がってしまいます。

 肺がんは進行が早く、転移もしやすいため、安らかな晩年の生活を大きく阻害する原因になります。とくに、ヘビースモーカーの高齢男性には、要注意の病気です。

原因は何か

 がん発生のメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、正常な肺に突然、がん細胞が出現する原因として、最も影響のあるものは喫煙とされています。肺がんの患者さんの8割は喫煙歴があるとの報告もあります。

 たばこの煙には約数千種類の物質が含まれていて、そのなかの発がん物質やスーパーオキサイド(活性酸素のひとつ)などによる遺伝子の傷害が、がん細胞の発生に関わっているものと思われます。また、高齢になるに伴って発生率が高まることから、加齢による遺伝子の修復機能の低下、個人のがん遺伝子の変異やたばこに対する感受性なども関与しているものと思われます。

 肺がんになる危険因子としては、喫煙、加齢(50歳以上)、家族歴、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)喘息(ぜんそく)じん肺特発性間質性肺炎(とくはつせいかんしつせいはいえん))の既往などがあげられます。

 とくに喫煙歴は重要で、①喫煙開始年齢が15歳以下であること、②喫煙量が多いことなどで、ますます肺がんを発症する確率が高くなります。また、他人のたばこの煙を慢性的に吸入すること(受動喫煙)も肺がんのリスクとされ、近年、非喫煙女性の肺がんも増加傾向にあります。

症状の現れ方

 肺がんは、症状が出る前に健康診断などで発見されることもありますが、多くは4週間以上続く(せき)喀痰(かくたん)血痰(けったん)、発熱、呼吸困難、胸痛などの呼吸器の症状をきっかけに発見されます。まれに、胸膜への転移(胸水貯留)や脳転移の症状(頭痛、吐き気、嘔吐)、骨転移(腰痛や胸痛)などで見つかることもあります。

 気管・気管支に発生するタイプの肺がんは、血痰や咳、呼吸困難などの症状が出やすく、早期に発見されることも多いのですが、肺の末梢に発生するタイプの肺がんは、がんが大きくなるまで無症状のことが多く、要注意です。

検査と診断

 まず肺がんは、胸部単純X線写真による異常の発見が診断のきっかけになります。次に、胸部CTを撮影して、肺における異常な影の厳密な位置とほかの臓器への広がりの程度、リンパ節転移の有無を調べます。

 確定診断のためには、がん細胞の証明が必要です。まず、痰を採取してがん細胞の有無を調べる喀痰細胞診を行いますが、これは陽性になる確率が低いため、たとえ陰性でも気管支鏡検査による生検(組織の一部を採取して調べる検査)が必要になります。また、CTで観察しながら経皮的針生検でがん細胞を採取する方法もあります。

 喀痰細胞診、気管支鏡検査などでがん細胞が証明されなかった場合は、CT画像の病変の大きさや特徴から強く肺がんが疑われるならば、全身麻酔で胸腔鏡下肺生検を実施して確定診断を行います。

 なお、気管支鏡検査の合併症として術後の気胸(ききょう)および肺炎、出血があるので、85歳以上の人、日常生活動作(ADL)が低下している人、心臓疾患の既往のある人は、術前に医師から検査のリスクについて説明を聞き、納得したのち受けるようにしてください。

 これらの検査で肺がんと診断された場合、転移の有無を調べる検査をします。一般的には脳MRI(CT)、腹部造影CT、骨シンチグラフィを行います。さらに、手術適応などの面からFDG­PETという検査を実施する場合もあります。

 また、血液中の腫瘍マーカーは、組織型の推定や治療効果の判定、再発の診断に役立ちます。

 高齢者において肺がんの診断を進めていくうえで重要なことは、少々時間がかかっても、身体への負担を考慮して負荷の少ない検査(以前の画像との比較、喀痰細胞診)を実施していくことです。

治療の方法

 肺がんの治療は、小細胞がんか非小細胞がんかによって大きく異なります(表5)。

●小細胞がん

 早期から全身に転移しやすく、進行が早い反面、化学療法(抗がん薬)や放射線治療がよく効くので、抗がん薬の全身投与が第一選択になります。高齢者で、病気の発症に伴って日常生活動作(ADL)が低下した患者さんでも、確実に治療効果が望めます。

 治療成績は、診断時に胸腔内にがんがとどまっていた場合(限局型:LD)で20~30%(5年生存率)、胸郭外に転移があった場合(広範型:ED)で10~20%(2年生存率)です。

 必要によって、転移がない時期に脳に放射線の予防的照射を実施する場合もあります。

●非小細胞がん

 病巣が肺の片側に限局している場合、まず手術による病巣の切除およびリンパ節の郭清(かくせい)が第一選択です。しかし、病巣と反対側のリンパ節にも転移が認められた場合は、抗がん薬の併用も必要です。

 診断時から転移が認められた場合、もしくは手術不能な場合は、抗がん薬と放射線治療が主体になります。しかし、ADLが低下した人は、治療に伴う身体的負担がむしろ有害になる可能性があるため、積極的な治療を行わないほうがよい場合もあります。

 化学療法、放射線治療いずれの場合でも、肺がんは完治が非常に困難ながんです。患者さんや家族はよく担当医と相談して治療方針を決めることが必要です(インフォームド・コンセント)。判断に悩む場合は、ほかの医療機関の専門医に相談することも必要です(セカンドオピニオン)。その場合は、必ず紹介状と資料を担当医に依頼したほうが円滑にいきます。

 近年、遺伝子工学の発展に伴い、がん細胞の増殖、転移を標的とした薬剤(上皮成長因子受容体阻害薬:イレッサ)が使用可能になっています。イレッサの特徴は、腺がん、女性、非喫煙者といった特定の患者さんで有効性が高く、またこれらはEGFR(上皮成長因子受容体)の遺伝子変異と密接に関連しています。EGFRの遺伝子変異は投与前にがん細胞より検査可能で、陽性であれば、70~80%でイレッサの奏効(生存期間の延長)が期待できます。イレッサに関する重い副作用として、間質性肺炎の発症が報告されています。

大賀 栄次郎


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「肺がん」の解説

肺がん

 肺がんは現在、日本人の間で非常に増えています。平成20年の肺がんによる死亡数は、全部のがんのうち、男性は第1位、女性は第2位(第1位は大腸がん)です。

 肺がんには大きく分けて、肺の奥のほうにできる末梢型がん(腺がんなど)と、肺の中心部(肺門部)や気管支の太い部分にできる肺門型がん(扁平へんぺい上皮がんなど)があり、日本人に最も多いのは腺がんです。

●おもな症状

 末梢型がんは、とくにありません。肺門型がんも早期のころはほとんどありませんが、最も高頻度な症状は、せき、たん、とくに血痰です。その他、胸痛、背部痛、息切れ、発熱、食欲不振、体重減少などがあります。

①胸部単純X線/喀痰細胞診/腫瘍マーカー

  ▼

②胸部CT/PET-CT/気管支内視鏡/生検/擦過細胞診

まず胸部単純X線撮影と喀痰細胞診

 まず最初に行う検査が胸部単純X線撮影(→参照)と喀痰かくたん細胞診(→参照)です。どちらも有効ではありますが、限界もあります。

 X線撮影は、末梢型がんを発見するのに有効ですが、早期の肺門型がんはX線に写らないため発見することはできません。さらに末梢型がんでも、1㎝以下のがんではまず発見することは困難です。

 一方、喀痰細胞診で発見できるのは圧倒的に肺門型がんで、末梢型がんではかなり進行しても血痰は出てこないため、発見することはできません。この検査は、一般的に数回繰り返して行います。

 腫瘍マーカー(→参照)は、シフラ、SCC、NSE、ProGRP、SLXが用いられています。

CT、内視鏡でさらにくわしく

 上記の検査でがんが疑われたら、胸部CT(→参照)、気管支内視鏡(→参照)でさらにくわしく調べます。

 胸部CTは精度が向上し、X線撮影ではわからない5mmくらいの小さながん、末梢型、肺門型どちらでも発見することができます。近年、定期検診などにも、この検査をとり入れようとする試みが始まっており、今後期待される検査のひとつです。

 気管支内視鏡は、おもに喀痰細胞診で肺門型がんが疑われたとき行う検査です。これは、内視鏡を入れても気管支の中までしかみえず、そのため末梢型がんは探し出すことができないからです。

 CT、あるいは内視鏡でがん細胞らしき病変をみつけたら、その一部を採取する生検せいけん、あるいは擦過さっか(ブラシで病変部を擦り取ること)によって病変部をとり出し、細胞検査でそれを調べて確定診断とします。

 近年ではPET-CT(→参照)が診断困難な場合に活用され、威力を発揮しています。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

食の医学館 「肺がん」の解説

はいがん【肺がん】

《どんな病気か?》


 肺がんは、ほかのがんとくらべて増加の傾向にあります。
 肺がんの原因が喫煙にあるということは明確ですが、喫煙のほかにも、排気ガスやダイオキシンなど、環境汚染に影響を受けやすいため、肺がんの罹患率(りかんりつ)も死亡率も減少しないのです。
 また、他人のタバコの煙(副流煙)を吸う受動喫煙のほうが、肺がんになりやすいという研究もあります。
 いずれにしても、タバコは「百害あって一利なし」。非喫煙者とくらべた場合、喫煙者の肺がん死亡率は、1日10本以下でも約2倍、20本で約6倍という調査もあります。
 せきが続いたり、血の混じったたんがでた場合などは要注意。かならず受診し、喀(かく)たん検査などを受けましょう。

《関連する食品》


○栄養成分としての働きから
 肺がんに有効な栄養素も、基本的にはがん全般に効果のあるものと同様です。なかでも、ビタミンAやB群の不足で発症しやすいともいわれているので、ホウレンソウやニンジンなどの緑黄色野菜やウナギ、アンコウの肝(きも)などの魚介類を積極的に摂取しましょう。パパイアのビタミンCも、肺がん予防が期待できます。
〈緑茶のカテキンは肺がん予防に有効〉
 発がん抑制効果や進行防止作用があるといわれる栄養素のなかで、動物実験により肺がんに効果があったとされるものが、カテキンです。もっとも効率的に摂取できるのは緑茶ですが、効果が期待できるのは、湯飲み茶碗で1日10杯以上。
 緑茶よりは少量ですが、カテキンは烏龍茶や紅茶にも含まれていますので、飽きがこないように、じょうずに組み合わせて飲むようにしましょう。

出典 小学館食の医学館について 情報

知恵蔵 「肺がん」の解説

肺がん

世界中で最も多いがんで、日本でも1993年には胃がんを抜いて男性のがん死亡率トップとなった。組織型から、小細胞がん、大細胞がん、腺がん、扁平上皮がんの4型に大別される。このうち、小細胞がんを除く3つは、予後や治療感受性がよく似ているので、非小細胞がんとして一括して扱われている。肺がんの最大の危険因子は喫煙で、特に小細胞がん、扁平上皮がんは喫煙と密接な関係にある。1日に喫煙するたばこの本数が多くて喫煙期間が長いほどリスクは高く、また、受動的に煙を吸い込む周囲の人もリスクが高い。初期は無症状だが、進行すると咳、血痰、胸痛などの症状が出る。早期発見が大切だが、通常のレントゲン撮影では発見しにくい。早期発見が可能なのは、ヘリカルスキャンCT検診。早期の治療成績は比較的よい(I期の5年生存率は50%以上)が、進行がんの場合は悪い(転移を伴うIII期以上は同10%以下)。手術ができない時または転移した時は化学療法を行う。

(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「肺がん」の解説

肺がん

 肺に発生したがん.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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