ギンザメ(読み)ぎんざめ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギンザメ」の意味・わかりやすい解説

ギンザメ
ぎんざめ / 銀鮫

軟骨魚綱全頭(ぜんとう)亜綱ギンザメ目の科や属の総称、またはその1種の名称。全頭類(ギンザメ類)Holocephali(英名chimaeras)は板鰓(ばんさい)類(サメ・エイ類)Elasmobranchii近縁であるが、鰓孔(さいこう)が1対(つい)しかないことで、鰓孔が5~7対ある板鰓類と区別できる。ギンザメ目Chimaeriformesには、ギンザメ科Chimaeridaeのほかに、テングギンザメ科Rhinochimaeridaeとゾウギンザメ科Callorhinchidaeの計3科がある。このうち、ゾウギンザメ科は南半球にのみ分布するが、ほかの2科は全世界に広く分布する。ギンザメ類は体内受精で、細長い卵殻に入った卵を産む。雄の腹びれ内縁には交尾器が1対あり、その先端が二叉(にさ)または三叉している。雄はさらに腹びれ直前と前頭部に棘(とげ)の生えた特殊な突起をもち、交尾のときこれらを用いて雌を押さえる。

 ギンザメ科(英名shortnose chimaeras)は吻(ふん)(鼻先)が丸く、剣状や馬蹄(ばてい)形の突起がないことが特徴である。さらにギンザメ科は臀(しり)びれのあるギンザメ属Chimaeraと、臀びれのないアカギンザメ属Hydrolagusに分類される。日本近海にはギンザメ属に3種、アカギンザメ属に5種が認められているが、分類学的に再検討をする必要がある。

 ギンザメ属のキマエラChimaeraという属名は、ギリシア神話のライオンの頭、ヤギの体、ヘビの尾をもち、口から火を吐く怪獣キメラChimera(キマイラ)に由来する。このギンザメ類はその独特の姿かたちから怪獣の名をつけられたが、行動は穏やかで、おもに深海(ときに2000メートルを超える)の海底付近に生息する。胸びれは非常に大きく、この胸びれで鳥のように羽ばたき運動をし、ゆっくりと泳ぐ。

 種としてのギンザメC. phantasma(英名silver chimaera)は、日本近海産のギンザメ科魚類のなかで、もっとも普通にみられる種類であり、体色が銀色で、体の前部側線が規則的に波状になっていることなどの特徴をもつ。生息水深は20~960メートルである。生殖方法は卵生。交尾期は春で、雄は雌の体に体を巻き付け、腹びれ前部や前頭部の突起で雌を押さえて交尾する。卵殻は黄褐色、長楕円(ちょうだえん)形で、その長径は160~270ミリメートルくらいである。北海道以南の太平洋東シナ海、南シナ海などに分布し、まれに日本海でもとれる。トロール網などで漁獲され、練り製品原料などとなる。種名ファンタスマphantasmaは「~の形したもの」の意で、「火吹き怪獣の形をした魚」の意味の学名が与えられている。国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、絶滅危惧(きぐ)種中の「危急」(VU)に指定されている(2021年8月時点)。

[仲谷一宏 2021年9月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ギンザメ」の意味・わかりやすい解説

ギンザメ
Chimaera phantasma

ギンザメ目ギンザメ科の海水魚。全長 1m内外。原始的体制をもつ全頭亜綱に属し,シルル紀にほかのサメ類から分化したといわれる。体は側扁し,尾鰭は先が糸状に延長している。鱗はない。雄には腹鰭の内側に1対の交尾器が,額上,腹鰭の前に各1個の把握器があり,交尾の際に使われる。水深 500m近くの海底にすむ。北海道から朝鮮,東シナ海に分布する。肉は練製品の材料となる。

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