改訂新版 世界大百科事典 「ギーターンジャリ」の意味・わかりやすい解説
ギーターンジャリ
Gītāñjali
インド,ベンガル地方の詩人タゴールの代表詩集(1910)。原題は《ギタンジョリ(〈歌の捧げ物〉の意)》。一般には,1912年にW.B.イェーツらの勧めによりイギリスで出版された,タゴール自身の英訳になる同名の詩集を指す。この英訳詩集により翌13年,タゴールは東洋人として初めてのノーベル文学賞を受賞した。この英語版はベンガル語版《ギタンジョリ》の翻訳というよりも,むしろ初期・中期のさまざまなベンガル語詩集から神秘的抒情性をもつ作品を選び出し,自由に散文訳してまとめたという性格が強い。これに対し,ベンガル語版はすべてが韻文詩でその大部分が歌曲となっており,内容的にも,神と自我をめぐる深い思索に満ちた祈りの歌,陰翳に富んだ自然の歌,悲痛な愛国の詩など,はるかに多様な広がりをもっている。日本では,英語版の翻訳は1914年に始まり,増野三良,山室静などの訳を通して宗教抒情詩人としてのタゴールのイメージを定着させた。近年になってベンガル語版の翻訳も始まったが,まとまったものとしては渡辺照宏の文語訳(1961)があるのみである。
執筆者:大西 正幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報