クプリーン(読み)くぷりーん(その他表記)Александр Иванович Куприн/Aleksandr Ivanovich Kuprin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クプリーン」の意味・わかりやすい解説

クプリーン
くぷりーん
Александр Иванович Куприн/Aleksandr Ivanovich Kuprin
(1870―1938)

ロシアの作家。ペンザ県の貧しい官吏の家に生まれる。陸軍士官学校在学中から文学に熱中。卒業後数年間軍務につくが、1894年に退役。その後はさまざまな職業を転々として豊富な創作素材を蓄え、それを簡潔な口語的文体で巧みに物語化した。まず二つの中編『モローフ』(1896)と『オレーシャ』(1898)で文壇に認められ、チェーホフゴーリキー親交を結び、短編『サーカスにて』(1902)がトルストイからも賞賛されて自信を深める。そして日露戦争の最中、反戦思想をテーマに、皇帝(ツァーリ)軍隊の非人間性、将校たちの腐敗堕落と残忍さを迫真的に描いた長編『決闘』(1905)を発表して読書界にセンセーションを巻き起こした。さらに次の長編『ヤーマ』(1909~15)では、ある大都市の売春地帯における娼婦(しょうふ)たちの恐るべき悲惨な生態をルポルタージュ的手法で描出するとともに、彼女らを救済しようとする「慈善家」たちの偽りのモラルを痛烈に批判して世界的にも有名になった。このほか、ロシアの将校に化けて潜入した日本軍スパイが寝言で「万歳!」と叫んだために正体がばれてしまう物語『ルィブニコフ大尉』(1906)、学生運動で逮捕され自白したことを恥じて自殺する大学生を扱った『生活の河』(1906)など、多くの好短編がある。1919年にパリ亡命、37年に許されて帰国するが翌年病死。

[箕浦達二]

『昇曙夢訳『決闘』(1931・新潮社)』『昇曙夢訳『ヤーマ(魔窟)』(創元文庫)』『昇曙夢訳『生活の河』(創元文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「クプリーン」の意味・わかりやすい解説

クプリーン
Aleksandr Ivanovich Kuprin
生没年:1870-1938

ロシアの小説家。幼年士官学校を終え,軍務につくが,数年でやめる(1894)。以後しばらくは,雑多な職を転々としながら,新聞に時事的な風刺文や印象記(オーチェルク)を書く生活が続いた。やがてチェーホフやゴーリキーの知遇を得,1902年から雑誌《知識》に作品を発表するようになる。そのころから豊富な経歴を生かした,中・短編小説が続々と生まれ,《サーカスで》(1902)はL.トルストイの賞讃を得た。注目を集めた《決闘》(1905)は,閉鎖的で暗澹たる軍人生活に恋をからませている。特に優れているのは,物語作者としての手腕が発揮された《ルイブニコフ大尉》(1906)と《柘榴石(ざくろいし)の腕輪》(1911)の2編。前者は,日露戦争当時ペテルブルグでロシアの退役軍人になりすましていた日本人スパイの話。後者は,下級官吏の上流社会の婦人に捧げる純愛の物語。さまざまな恋,あるいは夫婦の型が散りばめられ,世紀末ロシアの〈デカダンス〉の雰囲気が味わえる。娼家の実態を描いた《ヤーマ》(1915)も名高いが,煽情的でどぎつい。革命後はフランスに亡命,見るべき作品はない。37年ソ連に帰るが,病を得ていて,1年後に世を去った。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クプリーン」の意味・わかりやすい解説

クプリーン
Kuprin, Aleksandr Ivanovich

[生]1870.9.7. ペンザ
[没]1938.8.25. レニングラード
ロシアの小説家。零落した貴族の家に生れ,モスクワの陸軍幼年学校,士官学校を卒業後,多くの職を遍歴し,1890年代から作家活動を開始。 L.トルストイ,A.チェーホフ,M.ゴーリキーなどの強い影響を受け,批判的リアリズムを基調に 19世紀末から 20世紀初めのロシアの悲劇的な時代を再現した多くの作品を残した。代表作『決闘』をはじめ,軍隊生活をもとにした作品が多い。また『貪欲の神』 Molokh (1896) ,『生活の川』 Reka zhizni (1902) ,『ヤーマ』 Yama (09~15) など,資本主義下における個人の不自由,卑俗な生活の醜悪さ,偽善的なモラルなどを暴露し批判した作品が多い。十月革命後パリに亡命,37年に帰国。

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