オレーシャ(その他表記)Yurii Karlovich Olesha

改訂新版 世界大百科事典 「オレーシャ」の意味・わかりやすい解説

オレーシャ
Yurii Karlovich Olesha
生没年:1899-1960

ソ連邦作家。エリザベトグラード(現,キーロボグラード)で,ポーランドの没落貴族を父として生まれる。ロシア革命後,オデッサからモスクワに出て新聞の編集部に勤め,社会戯評を書いたが,作家としての彼の出世作になったのは長編羨望》(1927)である。以後数年のうちに長編童話《三人の太っちょ》(1928),短編集《恋》(1929),戯曲《善行目録》(1931初演,演出メイエルホリド)などの秀作を発表した。独特で斬新な比喩が,初期の文体の著しい特徴である。彼はしばしば革命後の若い知識人の問題を主題として取り上げたが,スターリン時代にはその描き方が社会主義リアリズムからはずれるものとして,厳しく批判された。死後1965年に発表された自伝的回想一行たりとて書かざる日なし》は,不遇な晩年に彼が書き残すことのできた唯一の傑作だったと言えよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オレーシャ」の意味・わかりやすい解説

オレーシャ
おれーしゃ
Юрий Карлович Олеша/Yuriy Karlovich Olesha
(1899―1960)

ソ連で活躍したポーランド人の小説家、劇作家ウクライナのオデッサ(現、オデーサ)に育つ。1920年代ソ連知識人問題を扱った反写実的作風の長編『羨望(せんぼう)』(1927)で一躍名声を得、続いて革命のおとぎ話『三人のでぶ』(1928)を発表。社会主義建設期における新旧世界の相克を描いた『羨望』は、作者自身の脚色で『感情の陰謀』と題されワフタンゴフ劇場で上演。ほかに、実に詩的で特異な文体、反写実手法の名短編『愛』『サクランボの種子』など20編余りを書く。また、映画シナリオ(たとえばドストエフスキーの『白痴』など)も書く。自己の資質と芸術に誠実なあまり、1927年以降はほとんど沈黙。1930年代粛清リストにあがりながら奇跡的に免れた。残された自伝的メモの膨大なエッセイ『一行とて書かざりし日なし』(1965)は時代の芸術的証言であり、新しい形式のロマンである。

[工藤正広]

『木村浩訳「羨望」(『世界文学全集31』所収・1967・集英社)』『工藤正広訳『愛』(1971・晶文社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オレーシャ」の意味・わかりやすい解説

オレーシャ
Olesha, Yurii Karlovich

[生]1899.3.3. キロボグラード
[没]1960.5.10. モスクワ
ソ連の作家。 V.カターエフ,E.バグリツキーらとともに「オデッサ・グループ」の一員として登場した知識階級出身の作家。ソ連旧世界の個人主義的感情と新世界の「感情革命」の対立をテーマとする『羨望』 Zavist' (1927) ,大胆な実験的手法でデフォルメされた世界の展開と現実との間に揺れ動く人間感情を鋭く描いた『恋』 Lyubov' (27) ,またメーテルランクの『青い鳥』と並ぶすぐれた児童文学『三人のでぶ』があり,ほかに 20あまりの短編がある。

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百科事典マイペディア 「オレーシャ」の意味・わかりやすい解説

オレーシャ

ロシア(ソ連)の作家。オデッサに育つ。1920年代のソ連社会における新旧の対立を扱った《羨望》(1927年)で国際的に知られる。ほかに児童劇にも脚色された《三人の太っちょ》,晩年のエッセー集《一行たりとて書かざる日なし》などがある。

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