ツァーリ(読み)つぁーり(英語表記)царь/tsar’ ロシア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツァーリ」の意味・わかりやすい解説

ツァーリ
つぁーり
царь/tsar’ ロシア語

皇帝の意。ツァーtsarともいう。ラテン語のカエサルcaesarに由来し、15、16世紀からロシア革命までのロシアの君主をさす称号。中世ロシアでは、完全な独立国の君主を意味し、正式にはビザンティン帝国皇帝とキプチャク・ハン国ハンにのみ適用した。キプチャク・ハン国から独立して完全な主権を掌握したイワン3世が初めてこの称号を用いたが、常用語ではなく、普通「大公」ないし「ゴスダリ」(君主の意)の称号を用いた。この称号を正式に採用したのは、1547年イワン4世(雷帝)が即位したときからであり、以後ロシア君主の主たる公式称号となった。イワン4世がツァーリを称したのは、主権国家たる権威を内外に示すことと、独裁君主の性格を強調するためであった。1721年ピョートル1世(大帝)が正式に「インペラートル」(皇帝の意)の称号をとったあとも、慣用的にロシア皇帝は「ツァーリ」とよばれた。ブルガリアでも10世紀から14世紀に国王の正式称号として「ツァーリ」が用いられた。

[伊藤幸男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツァーリ」の意味・わかりやすい解説

ツァーリ
tsar'

ロシア皇帝のこと。ローマ皇帝の称号カエサルに由来する。中世ロシアでは,この称号は最高統治者,特に正教圏の首長たるビザンチン皇帝に用いられた。タタールの征服後は,タタール・ハンがロシアの文書で「ツァーリ」として言及されている。 1453年ビザンチン帝国の崩壊と 80年ロシアのタタールからの最終的解放後,モスクワ大公がみずからこの称号を冠するようになった。 72年イワン3世 (大帝)は最後のビザンチン皇帝の姪ゾエ・パレオロゴス (ロシア名ソフィヤ・パレオローグ) と結婚し,正教の保護者としてビザンチン宮廷の伝統と君主権の概念を継承した。 1547年イワン4世 (雷帝)はツァーリの称号を正式に採用したが,1721年ピョートル1世 (大帝) が元老院から「全ロシアの皇帝 (インペラートル) 」の称号を贈られてからは,これが彼とその後継者たちの正式の称号となった。

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