クラショー(英語表記)Richard Crashaw

改訂新版 世界大百科事典 「クラショー」の意味・わかりやすい解説

クラショー
Richard Crashaw
生没年:1613-49

イギリス詩人,宗教家。父はピューリタニズムに近い牧師であったが,クラショー自身はケンブリッジ大学在学中からしだいにカトリックに近づいた。その信仰のゆえに大学を追われたのち,はっきりとカトリックに改宗し,パリに亡命。続いてイタリアへおもむき聖職を得たが,まもなく病没した。詩集《教会への歩み》(1646,48)は,宗教詩人としての先輩であり,敬虔なる国教会派信者であったG.ハーバートの詩集《教会》への真摯な傾倒を示し,英国国教会の敬虔主義的な要素がカトリシズムにつながりやすい側面を表している。クラショーの詩は,ごく若いころの恋愛詩と,それ以後の宗教詩とを合わせて,17世紀イギリスの形而上詩の伝統の一翼を担っているが,その想像力の背景には〈反宗教改革〉または〈バロック〉の,官能性のはげしい燃焼がある。したがっておなじ形而上詩でも,国教会派詩人の作品がイギリス的で抑制されたトーンを保つのにくらべ,クラショーのそれは大陸的で奔放華麗な印象をあたえる。〈バロックの守護聖人〉とも呼ばれるマグダラマリアをたたえた《泣き女The Weeper》などは,白熱した信仰の告白と,グロテスクなまでに誇張された形而上派的奇想用法によって,クラショー詩の,そしてイギリス・バロック文学の代表例と呼べるだろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラショー」の意味・わかりやすい解説

クラショー
くらしょー
Richard Crashaw
(1613?―1649)

イギリスの形而上派詩人(メタフィジカル・ポエット)、宗教詩人。J・ダンの形而上詩などに比べ内面の緊張や哲学的錯綜(さくそう)の深さに欠けるといわれることもあるが、イギリス文学ではバロック感覚を最大限に示す詩人である。そのイメージはカトリックの伝統に深く根ざし、十字架にかけられたキリストを想(おも)って涙するマグダラのマリアを「かの女(ひと)は燃える噴水か、はてまた涙する炎か」と形容し、涙の尽きない彼女の両の眼を「二つの歩く浴槽、二つの涙の動き/携帯用の簡便な二つの大海原」(詩「涙する人」から)と表現するように、感覚的、官能的な、身ぶりの大きいイメージを重厚に積み重ねて、カトリックの法悦境を歌い上げた。

[河村錠一郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クラショー」の意味・わかりやすい解説

クラショー
Crashaw, Richard

[生]1613頃.ロンドン
[没]1649.8.21. イタリア,ロレト
イギリスの形而上詩人。ケンブリッジ大学に学び,1635年フェローの地位を得,国教会派の聖職についたが,内乱 (1642~51) により,43年ケンブリッジを去った。以後オランダ,フランスに亡命生活をおくり,カトリックに改宗。 49年ローマ教会に地位を得,任地ロレトにおもむくが,まもなく没した。詩集に『聖なる警句』 Epigrammatum Sacrorum Liber (34) ,『聖堂への歩み』 Steps to the Temple with the Delights of the Muses (46,48増補) ,『わが神に捧げる歌』 Carmen Deo Nostro (52,死後出版) など。バロック的要素の濃い作品が多い。

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