日本大百科全書(ニッポニカ) 「身ぶり」の意味・わかりやすい解説
身ぶり
みぶり
身体を動かして感情、意思、気分などを表すこと、またその身のこなしをいう。意味の似たような用語に上目、横目、流し目、目くばせ、あるいは舌出しのような顔での表情づくりがあるが、一般にこれらは身ぶりからは除外される。また舞台俳優のしぐさや、退屈なとき、1人のときに行ういろいろなしぐさや貧乏ゆすりなども身ぶりとはいえない。さらに、挨拶(あいさつ)や握手やVサインのように明らかに信号であるものも除外されよう。日本人は欧米人に比べて身ぶりが控え目なので、一般に大げさな身ぶりは外来語のゼスチュアを使う。
身ぶりとはどのようなときにするものなのだろうか。何かをしゃべりながら、いかにもそれが真実であるようにみせる身ぶりや、ことばの表現だけでは満足せずに、感情や気持ちや気分などを身体的表現で二重に表す身ぶりがある。また本当はいいたくない気持ちを表現するための身ぶりもある。ことばを使わない場合に、そっと身ぶりで自分の感情や意思や気分を表現する場合もあろう。このように、身ぶりとは身体を動かして視覚的に表現できるものなので、ことばのあるなしにかかわらず、なんらかの表現をするための手段といえよう。つまり、ことばの表現を同調強化させる場合もあるし、いっていることと逆のことを表現する場合もある。さらに困った気持ちや、てれくささや恥ずかしさ、あるいは自己顕示や喜怒哀楽の強調の表現の場合などもある。したがって、ボディーランゲージともいえよう。ただし、思考をひねり出すための身ぶり、しゃべっているとき、歌っているときの気分や感情の、調子どりするための身ぶりもある。
一方、王は王らしい身ぶり、大臣は大臣らしい身ぶり、警官は警官らしい身ぶり、商人は商人らしい身ぶり、物ごいの哀れそうな身ぶりなど、一種のステータスを表す身ぶりがある。また性差を表す身ぶりもある。このような身ぶりは、そのステータスの多くの人たちが行っている身ぶりが、長い間に経験的に形成された結果で、もともとは個人的なものであると思われる身ぶりも、実は社会化によって獲得伝承しているものである。すなわち、身ぶりには社会的パターンも存在することになる。また、社会環境で獲得伝承する身ぶりには、民族間で多少とも差異が生じる。
[奥野卓司]
『D・モリス著、藤田統訳『マンウォッチング』(1980・小学館)』