精選版 日本国語大辞典「蟹」の解説
かに【蟹】
〘名〙
① 甲殻類十脚目短尾下目に属する節足動物の総称。体は一枚の甲羅(こうら)でおおわれた頭胸部と縮小した腹部からなっている。腹部は普通七節あるが、筋肉が退化していて運動器官としては役に立たない。しかし、雌はこの内側に卵を抱いて保護する。五対の脚のうちの第一脚は、はさみになっていて餌をとったり攻撃などに役立つ。多くの種類が横這いで運動する。卵は雌の腹部に付着して発生がすすみ、ゾエア幼生になって卵から孵化(ふか)し、浮遊生活をしながらメガロパを経て幼ガニになる。脱皮のたびに成長する。ほとんどが海産で、純淡水産のものは日本ではサワガニただ一種である。日本特産のタカアシガニは世界最大のカニで、はさみ脚を開いた両脚の長さが三メートル以上になる。世界に約五〇〇〇種がいて、日本にはそのうちの約一〇〇〇種ほどがすむ。ガザミ、ケガニ、ズワイガニなど水産資源として重要なものが多い。かね。横行介士。《季・夏》
※古事記(712)中・歌謡「この迦邇(カニ)や いづくの迦邇(カニ)、百伝(ももづた)ふ 角鹿(つぬが)の迦邇(カニ) 横去らふ 何処(いづく)に至る」
② ①のように、横に歩き、あるいは広がってすわること。また、その人をいう。蟹行(かいこう)。「屋台店のかにをきめる」
③ 遊女が客の目をぬすんで間夫(まぶ)に忍び逢いに行くこと。横番(よこばん)を切ること。
※雑俳・末摘花(1776‐1801)三「けいせいは間夫のへのこでかにに成り」
④ 男根をはさむの意で、女陰、また娼婦(しょうふ)をいう俗語。
⑤ =かにくそ(蟹屎)①
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「ここら昔より、君達に仕うまつりつるに、程大きに、かにといふ物夢ばかりつき給はぬこそなけれ」
⑥ 小児の水瘡(みずかさ)。
⑦ 紋所の名。①を図案化したもの。蟹、丸に真向き海蟹、面蟹などがある。

⑧ 人形浄瑠璃で用いるかしらの一つ。①の甲羅(こうら)のように横に広がった顔つきで、ちゃり役に用い、愚直な男のものと端敵(はがたき)のものとの二種類がある。
⑨ 生け花の花留(はなどめ)の一つ。金属製で、①の形をしたもの。
[語誌](1)「霊異記‐中・八」に載る蟹蛙報恩譚の背景には、蟹には祝福性の強い霊威が備わっているという信仰があると考えられている。また、脱皮を繰り返す蟹の生命力から生じた蟹の霊威への信仰のあらわれとされている。
(2)民話「猿蟹合戦」で蟹が柿の種を育てるのも、小正月の行事である成木責め(果樹の実りを予祝する)との関連が考えられている。
(2)民話「猿蟹合戦」で蟹が柿の種を育てるのも、小正月の行事である成木責め(果樹の実りを予祝する)との関連が考えられている。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報