くる病・骨軟化症

内科学 第10版 「くる病・骨軟化症」の解説

くる病・骨軟化症(その他の代謝異常)

定義・概念
 くる病・骨軟化症とは,骨の石灰化障害により非石灰化骨基質(類骨)が増加した病態である.このうち,くる病(rickets)は骨端線の閉鎖以前に石灰化障害が発症することによるもので,骨の成長障害や骨・軟骨部の変形を伴う.骨軟化症(osteomalacia)は,骨端線の閉鎖後に発症したものであり,骨痛や筋力低下などを主症状とする.
分類
 表13-6-8に示すように,低リン血症を呈する場合と,とりわけ小児におけるビタミンD欠乏の一部で低カルシウム血症を呈する場合,そしてこれら以外の原因による場合に分けられる.
原因・病因
 大部分のくる病・骨軟化症では慢性の低リン血症が認められる.低リン血症の原因としては,おもにビタミンD作用障害,腎尿細管障害,FGF23関連低リン血症性くる病骨軟化症とリン欠乏があげられる.これら以外には,とりわけ小児でビタミンD欠乏で低リン血症よりは低カルシウム血症を主体とする例や,低リン血症などは認めないままで石灰化障害がもたらされる病態などがある.
1)ビタミンD代謝物作用障害:
かつては栄養障害や日光被曝の低下に起因するビタミンD欠乏によるものが主であったが,現在のわが国ではほとんど認められない.ビタミンD活性化障害によるものにはビタミンD-1αヒドロキシラーゼ(1αOHase)遺伝子変異により1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25-(OH)2-D)への活性化が障害されたビタミンD依存症Ⅰ型がある.通常,常染色体性劣性の遺伝形式をとるが,散発例もある.ビタミンDへの不応性に基づくものとして,ビタミンD受容体遺伝子の変異によりビタミンD作用が障害されたビタミンD依存症Ⅱ型がある.きわめてまれであり,世界中で20家系あまりが報告されているにすぎない.
2)腎尿細管障害(renal tubular disorder)
常染色体劣性遺伝を示し低リン血症とともに血清1,25-(OH)2-D高値,高カルシウム尿症などを呈するまれな遺伝性高カルシウム尿性低リン血症性くる病(hereditary hypophosphatemic rickets with hypercalciuria:HHRH)は,リン酸トランスポーターNaPi2c,2aあるいはNHERF1遺伝子変異に基づく.
 Fanconi症候群は腎近位尿細管でのリンやグルコース,アミノ酸,HCO3などの再吸収機能が広範に障害される病態である.その結果,低リン血症に加え,尿細管性アシドーシスⅡ型やビタミンDの活性化障害などによりくる病・骨軟化症をきたす.Clチャネル5遺伝子(CLCN5)遺伝子の変異により低分子量蛋白尿を呈するDent病の一部でも高カルシウム尿症,尿路結石症や尿細管リン再吸収の障害による低リン血症性くる病を示す例がある.
 腎遠位尿細管での酸分泌が障害された腎尿細管性アシドーシスI型では,血中OHイオンの低下による骨石灰化の抑制と骨吸収の亢進に加え,アシドーシスによる腎でのビタミンD活性化障害などによりくる病・骨軟化症をきたす.
3)FGF23関連低リン血症性くる病/骨軟化症(ost­eomalacia)(表13-6-9):
【⇨12-5-4)】に記されたように,FGF23はNaPi2a, 2c発現の抑制による腎尿細管リン再吸収の抑制や,ビタミンD-1α水酸化酵素発現の抑制による血清1,25-(OH)2-D濃度の低下を介する腸管リン吸収の低下などを介し,血清リン濃度を低下させる【⇨図12-5-10】.したがって,その作用過剰により腎尿細管でのリン再吸収の障害に加え,腸管リン吸収も障害され,低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症がもたらされる.
 a)X染色体優性低リン血症性くる病:わが国では散発例が半数以上を占めるが,X染色体優性低リン血症性くる病(X-linked hypopphosphatemic rickets:XLHR)ではエンドペプチターゼPHEXに変異が認められている.PHEXは腎尿細管リン再吸収を抑制する何らかの因子(phosphatonin)を不活性化すると考えられたが,FGF23の不活性化には関与しない.しかし本症では未知の機序で血中FGF23が著明高値を示し,これが腎尿細管NaPi2の発現低下や細胞膜からのエンドサイトーシス促進をきたし尿細管リン再吸収が抑制され低リン血症がもたらされる.
 b)常染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症:常染色体優性低リン血症性くる病(autosomal dominant hypophosphatemic rickets:ADHR)では,FGF23遺伝子の変異が存在することが明らかとなった.FGF23は179Argと180Serの間で切断され不活性化されるが,本症ではこのFGF23の不活性化が障害され低リン血症性くる病がもたらされる.ただし,本症患者でも血中活性型FGF23が上昇していない例も存在する.
 c)常染色体劣性低リン血症性くる病・骨軟化症:常染色体劣性低リン血症性くる病・骨軟化症(autosomal recessive hypophosphatemic rickets:ARHR)には,少なくとも異なる遺伝子の変異に基づく2つの病型がある.ARHR1はDMP1(dentine matrix protein 1)遺伝子の変異に基づく病態で,血中FGF23濃度の上昇によりADHRと類似の病態を呈するが,FGF23が高値を呈する機序は不明である.ARHR2はENPP1 (ectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 1)遺伝子の変異に基づく.ENPP1は細胞外ピロリン酸の生成に主要な役割を果たしヒドロキシアパタイト結晶の形成を強力に抑制し,その不活性化変異は乳幼児期に致死的となりうる全身の動脈石灰化(GACI)をきたす場合がある.
 d)腫瘍性低リン血症性骨軟化症:おもに中胚葉系由来の腫瘍に同様の低リン血症性ビタミンD抵抗性骨軟化症を合併する例があり,腫瘍性低リン血症性骨軟化症(tumor-induced osteomalacia:TIO)とよばれる.原因腫瘍は頭頸部や四肢の骨軟骨部良性腫瘍であることが多い.これらの腫瘍からはFGF23が過剰分泌される.多量のFGF23のかなりの部分が切断・不活性化されずに腎尿細管などに作用するため,血清1,25-(OH)2-Dの低下や低リン血症性骨軟化症を発症すると考えられている.
病理
 骨表面の類骨層が増大するとともに,テトラサイクリン二重標識により評価した石灰化速度の遅延が認められる.
病態生理
 骨はⅠ型コラーゲンを中心とする基質に,Ca,リン,OHよりなるヒドロキシアパタイト(Ca10(PO46(OH)2)結晶が沈着し形成される.したがって,これらのイオンの血中濃度が結晶形成に必要な物理化学的濃度を下回れば骨の石灰化が障害され,くる病・骨軟化症を呈する.低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症では,近位尿細管や腸管上皮細胞でのリン再吸収がNaPiの発現低下や細胞膜からの細胞内移行などにより低下し,低リン血症をきたす.活性型ビタミンDは腸管でのCa,リン吸収の促進作用などを介してCa・リンイオン積の維持に必須であるばかりでなく,骨芽細胞の分化・機能への作用を介して石灰化に必要な基質蛋白や細胞膜成分の産生調節などに関与する.このためビタミンD作用の低下によりくる病・骨軟化症がもたらされる.
臨床症状
 くる病では,骨成長障害による低身長や肋骨念珠(rachitic rosary),二重関節(四肢骨端部の腫大)など骨軟骨部の変形,筋力低下や骨痛などを認める.先天性のビタミンD依存症では1歳前後で症状が出現するものが多い.ビタミンD依存症Ⅱ型では全身脱毛の合併がみられる.
 遺伝性低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病は,生後1〜2年で四肢の変形とりわけ下肢のO脚変形,歩行障害,歩行遅延などで受診する例が多い.筋力低下は通常みられない. 腫瘍性低リン血症性骨軟化症など成人発症例では,骨痛や筋痛・筋力低下などが主症状となる.
検査成績・診断
1)X線所見:
くる病では骨端線の横径拡大(fla­ring),骨端線の境界不鮮明化(fraying),骨幹端中央部の杯状陥凹(cupping),骨端線幅の増大,骨端核の希薄化,骨皮質と骨梁の菲薄化などが,大腿骨遠位端,脛骨近位端,橈骨・尺骨遠位端,脛骨・腓骨遠位端などにみられる.骨軟化症の進行例では偽骨折(Looser’s zone)が肋骨や肩甲骨などにみられることがある.
2)血液検査所見:
ビタミンD作用の低下によるものでは,血中Ca,リンの低下,骨型アルカリホスファターゼ(BAP)の上昇,二次性副甲状腺機能亢進症などが認められる.尿中Ca,リンも低値を示す.ビタミンD欠乏によるものでは血清25-(OH)-D濃度の低下,ビタミンD依存症Ⅰ型では血清1,25-(OH)2-Dの低下,ビタミンD依存症Ⅱ型では逆に血清1,25-(OH)2-Dの上昇が認められる.
 低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病では腎尿細管リン再吸収能(TmP/GFR)と血中リン濃度の低下が認められる.血中Caは正常低値を示し血中PTHも多くの場合正常である.血清1,25-(OH)2-Dは低リン血症の存在にもかかわらず正常範囲内の値を示す.本症では他の尿細管機能異常を伴わないが,腫瘍性低リン血症性骨軟化症ではアミノ酸尿,腎性糖尿などの尿細管機能異常や血清1,25-(OH)2-Dの低下をしばしば伴う.
 くる病・骨軟化症の鑑別診断フローチャートを図13-6-9に示した.
治療・予防
1)ビタミンD作用障害:
ビタミンD欠乏症には日光浴の奨励や天然型ビタミンD含有食の摂取などの生活指導に加えビタミンD製剤の服用を勧めるが,現在処方薬はなく薬局で購入する.吸収不良症候群などによりなお供給が不十分な場合には活性型ビタミンD製剤を使用する. ビタミンD依存症Ⅰ型は,生理量の活性型ビタミンDの補充により治療可能である.小児では0.05 μg/kg/日,成人では1〜2 μg/日程度の1α-OH-D3で,1,25-(OH)2-Dではほぼこの半量の投与で改善が得られる.ビタミンD依存症Ⅱ型には大量の活性型ビタミンDを投与するが,投与量は症例により大きく異なる.また治療中に自然緩解する例も存在する.
2)FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症:
成長期の小児では,血清リン濃度が高値に維持されることが成長軟骨の石灰化や骨形成の維持に重要な意義をもっている.したがって,低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病に対しては活性型ビタミンDと経口リン製剤を投与し,血清リン濃度の維持に努める.小児では0.1〜0.3 μg/kg/日程度の比較的大量の1α-OH-D3,あるいはこの半量程度の1,25-(OH)2-D3から投与を開始し,血清リンが2.5 mg/dL以上で,かつ高カルシウム血症,高カルシウム尿症をきたさない(Ca/Cr比0.3以下)範囲で維持量を決定する.症例により維持量にかなり相違があり,血清リンの上昇が不十分な症例も多い.リン製剤の併用により成人では活性型ビタミンDの必要量が減少し少量で維持が可能となる例もあるが,1/3以上の例に腎石灰化症を合併し,腎不全に至る場合や,三次性副甲状腺機能亢進症により高カルシウム血症をきたす例もある.したがって,これらは本質的な治療とはなり得ず,抗FGF23抗体の投与など,FGF23の作用過剰に拮抗する治療法の開発が望まれる.[松本俊夫]
■文献
福本誠二,大薗恵一,他:ホルモン受容機構異常調査研究班.2011年度報告書.
Hori M, Shimizu Y, et al: Minireview: Fibroblast growth factor 23 in phosphate hoeostasis and bone metabolism. Endocrinology, 152: 4-10, 2011.
特集・リン代謝.Clinical Calcium, 19: 945, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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