日本大百科全書(ニッポニカ) 「クレビヨン」の意味・わかりやすい解説
クレビヨン(Claude-Prosper Jolyot de Crébillon)
くれびよん
Claude-Prosper Jolyot de Crébillon
(1707―1777)
フランスの小説家。劇作家クレビヨンを父とし、通称はクレビヨン・フィスCrébillon fils(フィスは「息子」を意味するフランス語)。二流の好色作家と誤解されていたが、再評価の著しい作家。彼の本領は、人間の心理に潜むあいまいさや虚偽の皮を、繊細な文体で一枚ずつ剥(は)ぎ取っていくところにある。唯一のテーマは恋愛で、恋愛は精神と心情の欺瞞(ぎまん)を助長するからである。彼の大半の小説は、隠されていた主人公(多くは宮廷貴族)の欺瞞があらわにされる一瞬のテーマのバリエーションとなっている。『M***侯爵夫人の***伯爵への手紙』(1732)、『***侯爵夫人の***侯爵への手紙』(1768)、『心と気の迷い』(1736)の代表作のほか、『空気の精』(1729)、『網杓子(しゃくし)』(1734)、『ソファ』(1740)、『夜と瞬間』(1755)、『炉端のはずみ』(1763)などがある。
[植田祐次]
クレビヨン(Prosper Jolyot de Crébillon)
くれびよん
Prosper Jolyot de Crébillon
(1674―1762)
フランスの悲劇作家。ボルテールの華々しい活躍があったにもかかわらず、18世紀には第二のラシーヌ待望論が絶えなかった。これを背景に登場したのがクレビヨンで、『イドメネ』(1705)の成功に自信を得て、法曹界を捨て悲劇作家となった。しかし、『クセルセス』(1714)は失敗し、名声回復には『ピュロス』(1726)を待たねばならなかった。アカデミー会員に選ばれ、検閲官も務めた。息子の小説家クレビヨンに対しては「私の最大の駄作は息子」と許していた。
[植田祐次]