クロストリジウム・ディフィシル症・感染症

内科学 第10版 の解説

クロストリジウム・ディフィシル症・感染症(Gram 陽性悍菌感染症)

(6)クロストリジウム・ディフィシル症・感染症
定義
 毒素産生性Clostridium difficileによる疾患である.病院・長期療養施設などに入院中の患者に,感染症治療のための抗菌薬投与などが引き金となり発症する.軽度な下痢症から偽膜性大腸炎,さらには中毒性巨大結腸症など幅広い疾病スペクトラムを示す.患者・保菌者の糞便が感染源となるアウトブレイクを起こす.
病因・疫学
 C. difficileは偏性嫌気性Gram陽性有芽胞桿菌である.毒素非産生株もある.芽胞は自然界(土壌,動物の腸管)に広く分布する.トイレなど病院内環境にも存在し,医療従事者の手指から検出できることもある.健康人の糞便の少なくとも3%以上から,入院患者の糞便からは最高で40%から分離される.
 経口的に侵入したC. difficileはデフェンシンが存在する小腸で,毒素が中和されている状態で存在し,通常は大腸内を通過するだけの運命にある.しかし,抗菌薬投与などにより細菌叢攪乱されている場合に大腸内での定着が可能となり,そこで異常増殖し,毒素を産生する.細菌叢の攪乱の詳細は明らかでないが,患者では健常人で優勢なバクテロイデス門の細菌が減少しているという.C. difficileが産生する毒素(CD毒素)としてはtoxin A(TcdA)とtoxin B(TcdB)が重要である.毒素産生株にはその両方を産生する株とTcdBのみを産生する株がある.どちらも臨床的に重要である.第三のトキシン(binary toxin)産生株の存在も知られている.
 入院中の患者全体の約2/3は入院後にC. difficileを獲得する.CDを獲得した入院患者の約1/3が大腸炎を発症する.リスクのある集団は,①1カ月以内に抗菌薬,プロトンポンプ阻害薬,抗ウイルス薬使用歴のある人,②65歳以上の高齢者,③重症な基礎疾患のある患者・免疫不全状態(移植患者)の患者,④腸管手術を受けた患者,⑤炎症性腸疾患など消化器病の患者,⑥周産期の女性,⑦C. difficile感染症の発症歴のある患者,⑧入院歴がある患者などである.抗菌薬は最も重要なリスク因子であるが,クリンダマイシン,広域セファロスポリン薬,ニューキノロン薬などが誘因となることが多いが,C. difficle感染症の治療薬であるメトロニダゾール(MNZ),バンコマイシンVM)も誘因となる.
 近年,外来患者にも本症がみられるようになった.外来患者の下痢症の3.9%(43/1091)が糞便中毒素陽性であったという報告がある.
病理
 C. difficileの産生するTcdAは腸管上皮を破壊し,さらにTcdBとともに炎症性サイトカインおよびロイコトリエンカスケードを活性化する.その結果産生されるTNF-α,IL-6,IL-8,IL-1β,ロイコトリエンB4,インターフェロン-γなどが,細胞透過性亢進,下痢を起こし,また上皮細胞アポトーシス,潰瘍形成,偽膜形成を起こす.
臨床症状
 下痢(軟便,水様便,粘液便,ときに血便)が一般的である.発熱腹痛白血球増加も20~50%の症例にみられる.合併症として,麻痺性イレウス,中毒性巨大結腸症,腸管穿孔がある.重症例では下痢がない場合がある.65歳以上の高齢患者あるいは免疫不全状態,呼吸不全,低血圧の患者で重症化しやすい.また,本症の治療薬であるMNZやVMによる治療を行った患者の約20%(10~25%)で再発がみられる.
診断・検査成績
 治療前に下痢便を検体としてTcdA,TcdBの検出を行う.市販のEIAによるキットを用いた毒素試験は簡便で,普及しているが,偽陰性が問題となっている.EIAによる偽陰性対策としてグルタミン酸脱水素酵素(GDH)の検出が有用である.糞便中CD毒素がEIAで陰性であっても,GDH試験陽性の場合には,C. difficileの培養検査と毒素産生性の確認などで精査する(図4-5-6).検査の迅速化を目指して,下痢便中の毒素遺伝子をリアルタイム PCRで検出する方法の実用化に向けての検討が進んでいる.内視鏡所見では,典型的には直径0.2~2 mmの明瞭な黄白色の隆起したプラークが粘膜に付着している所見が確認できる.
治療・予防
 正確な診断に基づき早期に治療を開始する.重要な院内感染症原因菌であるので,治療開始と同時に早期の院内感染防止の対策をとることが求められる.治療はまず使用中の抗菌薬の投与中止,さらにVMまたはMNZの投与となる.重症例では,VMの500 mgを1日4回経口投与(10~14日間)する.再発例の治療は困難な場合が少なくない.その場合,VM漸減療法が試みられる.欧米では不成功の場合には近親者の糞便希釈液の注腸(fecal biotherapy)も選択されている.イレウスの場合には,VMの結腸内投与とMNZの血管内注射が行われる.また,重症,または再発性の場合には,免疫グロブリン療法も試みられる.さらに,プロバイオティクスの投与が本症の予防,また治療目的で試みられている.ワクチンの開発研究が行われている.
VMやMNZの予防的投与の効果は明らかになっていない.[渡邉邦友]
■文献
Hookman P, Barkin JS: Clostridium difficile associated infection, diarrhea and colitis. World Journal of gastrpenterology, 15: 1554-1580, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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