ヒトに有益な作用をもたらす生きた微生物群や、そうした微生物群を生きた状態で含む食品。1989年、イギリスの微生物学者ロイ・フラーRoy Fullerは、プロバイオティクスを「腸内の細菌群のバランスを整えることにより宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義した。2001年に国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)のワーキンググループは、「十分な量を口から摂取すると、健康に益をもたらす微生物群」と定義したが、定義不十分という意見もある。プロバイオティクスは、生物の共生を意味する「probiosis」を語源とし、病気になった際に活発化する微生物の発育を阻害もしくは死滅させる目的で摂取する抗生物質(アンチバイオティクスantibiotics)に対比した概念である。つまり、有用な微生物を生きたまま腸内に届けることで、細菌のバランスを整えて腸内環境を改善するという予防的概念である。乳酸菌やビフィズス菌(ビヒダス菌)が代表的な微生物群である。さらに、それらを含む食品もプロバイオティクスとよばれる。食品は多岐にわたっており、伝統的な味噌(みそ)、糠(ぬか)漬けなどの植物性乳酸菌や、ヨーグルト・乳酸菌飲料などが含まれ、これらは世界各地に存在する。
2010年以降、ヨーグルト製品等の研究や製品開発の成果発表がとくに活発化している。背景には、乳酸菌等を生きた状態で腸まで到達させる技術の発達や、個別の微生物株の特徴的な機能の解明が進んだことなどがあげられる。こうした研究の成果は、「機能性ヨーグルト」と称される製品群の登場からもうかがえる。実際に、胃腸の不調、花粉症などに有用な製品等が販売されている。この傾向はさらに拡大すると予測される。
[飯野和美]
『上野川修一・山本憲二監修『世紀を越えるビフィズス菌の研究――その基礎と臨床応用から製品開発へ』(2011・公益財団法人日本ビフィズス菌センター)』▽『光岡知足著『人の健康は腸内細菌で決まる――善玉菌と悪玉菌を科学する』(2011・技術評論社)』
(的場輝佳 関西福祉科学大学教授 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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