水神(読み)すいじん

精選版 日本国語大辞典 「水神」の意味・読み・例文・類語

すい‐じん【水神】

〘名〙 水をつかさどる神。水の神。水伯(すいはく)
菅家文草(900頃)五・左金吾相公、於宣風坊臨水亭餞別奥州刺史「城門存慰嘱関吏、江渡平安祈水神
※歌謡・姫小松(1705‐06)下「川にはすいじん谷には木霊(こだま)」 〔史記‐始皇本紀〕

み‐な‐かみ【水神】

〘名〙 (「な」は「の」の意) 水をつかさどる神。水の神。すいじん。
※後撰(951‐953頃)恋一・五八五「みな神に祈るかひなく涙河うきても人をよそに見る哉〈よみ人しらず〉」

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デジタル大辞泉 「水神」の意味・読み・例文・類語

み‐な‐かみ【水神】

《「な」は「の」の意の格助詞》水をつかさどる神。すいじん。
「―に祈るかひなく涙川うきても人をよそに見るかな」〈後撰・恋一〉

すい‐じん【水神】

水をつかさどる神。飲み水や田の水などを支配する神。水伯。

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改訂新版 世界大百科事典 「水神」の意味・わかりやすい解説

水神 (すいじん)

水はあらゆる生命の生成と存続にとって不可欠の存在であるところから,世界各地においてそれ自体が超自然力を保持するものとみなされる例は多く,さらに水(雨,海洋,河川,井戸など)をつかさどる独立の神格が崇拝される例も多い。トロイア人がスカマンドロス川Skamandrosの聖なる力を信仰し,牛や馬を供犠として深みに投じたことや,ガンガーガンジス川)が清浄力をもつとされ,古代から現代にいたるまで沐浴する者が後を絶たず,遺骨が投棄されることはよく知られている。水を支配・統御する独立の神(霊)として有名なものにシュメールの水神エンキ(バビロニアではエア),アッカドにおける雨の神としてのアダドまたはハダドエジプトのナイル川を支配する神のハピHapi,さらに,ギリシアの海洋神ポセイドン,ローマの海神ネプトゥヌス,インドをはじめ日本も含むアジア各地で崇拝されている水神ナーガNāga=竜神などがある。水神のパンテオン(万神殿)における地位と力は民族,社会によって異なるが,ところによっては高い地位と影響力をもつことがある。アフリカのカラバリKalabari族の水霊water spiritsは,死霊と英雄霊に伍して,彼らの生活に著しい影響力をもつ。すなわち水霊は村を囲んでいる河川や溜池を所有し,カラバリ族の生存を左右し,しばしば女性に憑依(ひようい)して予言するという。

 水神の中でも重要な存在は雨の神である。雨は降らなければ困るし,降りすぎても困るという二重性を有する。同様に雨の神も,雨をもたらすとともに多雨を止めるという二重の働きを備えていることが多い。タイやミャンマー農耕民が崇拝する雨神ウパゴータUpagothaの像は,雨が降らないときに水辺の塔から外に出され,輝く太陽に向けて置かれる。太陽と正反対の神が太陽と対面し,結合することにより雨がもたらされるとされるのである。また多雨で困っているときにもウパゴータの像が連れだされ,供物をささげたうえで,その頭が水に漬けられる。これで雨が上がると信じられている。雨乞い儀礼として,着飾った人たちが互いに身体に水をかけ合う習俗は各地に見られる。
執筆者:

日本でも,水のもつ威力や霊力に対する信仰は古くより形成されており,日本神話では罔象女神(みつはのめのかみ),闇罔象(くらみつは),高龗(たかおかみ),闇龗(くらおかみ),水分(みくまり)の神などと記されている。水神の実態は複雑多様であるが,もっとも典型的なのは農耕社会における水田稲作民にとっての守護神である。水神は豊穣をもたらす神であり,田の神と同一視されている。一般には,水田の用水堰か水田のほとりの石祠に祭られている。また山中の水源地に水分(みくまり)神として祭られる場合は,山の神と同一視される。したがって水神は,田の神や山の神と一体化していて,3者をそれぞれ明確に区別できなくなっている。飲料水を供給する井戸や泉,川の洗濯場などにも水神が祭られている。この水神は,水田稲作とは直接関係ないが,生活用水の守護神としての性格をもっており,各家ごとに祭られる屋内神として伝承されている。

 水神の表徴として代表的なのは河童である。水の妖怪であるが,水神が河童の姿をとったと想像される民間伝承は多い。また水神は,竜やヘビ,ウナギ,サル,クモなどの姿をとると信じられている。とくにヘビは,東アジア,東南アジアに共通して,水神の使令とみなされてきた。中国の竜神(りゆうじん)信仰は,日本の水神にも影響を与えており,水神と竜神は一体化している事例が多い。

 水神の祭りは,6月と12月に集中しているが,とくに夏に中心が置かれている。夏の水神祭の中心は,祇園や津島の天王信仰にもとづいている。これは都市社会にあって,水害や流行病の発生しやすい時期に,災厄を追い払い浄化する意図で営まれたものである。12月の場合は,12月1日に水神に餅をささげる川浸餅の行事が普遍的であった(川浸り)。水神はしばしば女神しかも少童をもつ母神として表現されており,水辺にあって水神に奉仕した巫女の姿を想定する考え方がされている。すなわち水神は,世界的な母子神信仰の問題に関連しているのである。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水神」の意味・わかりやすい解説

水神
すいじん
water gods

水の神。河川,湖,池,泉,井戸の中に住む神であり,灌漑用水や堰の守護神であり,水難防止,雨乞いに際して崇拝される神である。水の力を神観念のなかにとらえ,この神を畏怖し,親しみ,また供物を捧げて祈り,懇願してきた。オーストラリアでは,水神が池や水辺を荒すといい,立入り禁止の池に入ると水神に襲われ命を落すと伝えられている。グリーンランドには,人に害を与える水神を去らせるため,泉の水は飲まないという定めがある。アメリカインディアンは,五大湖やミシシッピ川などのほとりで水神に供物を捧げる。病は水からという観念から,水神の意をやわらげるのである。一方,ヒンドゥー教徒の間では,川は生ける人格的存在であって,彼らは川に親しみ,ここで誓約し,沐浴して清めている。水神は神話のなかにもみられ,ヘラクレスの敵は水神アケロスであり,アケロスの力を恐れて人々はこれに供物を捧げた。また東南アジア,中国などでは,水は稲作になくてはならず,豊穣を祈って水神を迎え,盛大な祭宴を催している。日本でも水神はやはり水田稲作農耕と深くかかわっており,井戸神・川神などとして祀られてきた。水神の祭りは一般に6月や 12月に行われるが,祇園,津島などの天王祭と結びついた厄祓い的性質をもつ夏の祭りもある (→天王信仰 ) 。またヘビや河童などとして祀られることも多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水神」の意味・わかりやすい解説

水神
すいじん

水の神。『日本書紀』には水神として罔象女(みずはのめ)の神名がある。水は日常の生活に欠くことのできないことはいうまでもないが、日本では農業とくに水田稲作のために水神に対する信仰が重んぜられている。水神は水のある場所によって川の神、泉の神、滝の神、池の神、井戸神などの名で信仰されている。土地によって期日は異なるが、それぞれ祭祀(さいし)が行われている。稲作に関してもっともたいせつな田の神は、日の神と水の神との間に生まれたと田植唄(うた)に歌われている。

 全国各地で共同の水源を利用している家々では水神講をつくって、講員が順に講元を務めて水神を祀(まつ)っている。岡山県では七夕(たなばた)に水神を祀り井戸替えをする所が多く、正月若水をくみに行くときに水神に供え物をする。熊本県下では春秋の彼岸(ひがん)に川祭りを行っており、水神はナスが好きといわれて、これを供え物としている。水の神については多くの伝説・昔話がある。水神は女神で水底で機(はた)を織っているという機織淵(はたおりぶち)などの伝説がある。民間伝承では水神を蛇体と伝えている例が多く、そのほかウナギ、タニシなどを水の主(ぬし)としている所もある。河童(かっぱ)は水神の零落した姿といわれており、九州では川祭りをするとき河童を水神として祀っている所がある。

[大藤時彦]

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百科事典マイペディア 「水神」の意味・わかりやすい解説

水神【すいじん】

水の神。稲作と関係深く田の神と親近性を示し,春は川,秋は山に帰るとも,田の水口にいるともいう。女神や母子神,またヘビ,カエル,魚,河童(かっぱ),【みずち】(角のある竜),竜などの姿をとる。水神の祭は6月に多く,雨乞い,大水・疫病防止,豊作を祈る。特に天王祭(天王信仰)が有名。水分神(みくまりのかみ)は山頂で麓の水の分配をつかさどる。
→関連項目民族スポーツ

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普及版 字通 「水神」の読み・字形・画数・意味

【水神】すいしん

河伯。

字通「水」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の水神の言及

【タニシ(田螺)】より

…すなわち水界から送られた小童が幸運をもたらすという日本に多い霊験譚(たん)のモティーフに属する。また,これを水神の姿として雨乞いをしたり,火災を防いだ奇瑞ありとしてタニシを食用にしない土地もあった。一説には不動尊を守護したとして眼疾を祈ると霊験があるともいい,多くの水についての信仰が複合しているらしい。…

【雨乞い】より

…マレー半島やスマトラ島,ジャワ島の一部では,猫を水につけると雨が降ると伝えられている。 日本の雨乞いには,鉦や太鼓をうちならし,念仏踊などをして,ひでりをもたらした邪霊を追い散らす雨乞踊のほかに,千焚き,千駄焚きといって,山上に薪をたくさん積み上げ,火を焚いて騒いだり,水神が住むと伝える池や泉の水をもらいうけ,これを氏神や水源地にまいたりする型がある。また百升洗いといって,升をたくさんあつめて,これを水神が住む池で洗ったりすることもある。…

【井戸】より

…古代の井戸には,霊的な存在がおり,聖なる水が管理されているという信仰が強かった。井戸には井(戸)神,水神の信仰が伴って,民俗信仰を形成している。記紀では,水神を,罔象女(みつはのめ)と記し,井神は〈御井の神〉または〈木の俣(また)の神〉などともいって,別個の神格としている。…

【川】より

…ガンガーは彼の額から7筋に分かれて地上に流れ落ち,その一つがガンガー川になったのだという。洪水神話【吉田 敦彦】
【日本における川の支配と民俗】
 古代社会では,川は律令制的な公私共利の公水として用益されたが,反面〈禁河〉に代表されるような王権による漁労(狩取川漁),交通,用水などの独占利用も行われた。後者の系譜をうけて,中世の権門寺社による荘園制的な河川支配が成立した。…

【川浸り】より

…中国地方ではぼた餅を膝などに塗りつけると川で転ばぬといい,関東ではこの日の早朝,子どもが川にしりをつけると河童にさらわれないと伝えており,水難を防ごうとする意識がうかがわれる。餅やだんごのほか,小豆,粥,ナス漬などを食べる土地もあるが,本来これらは水神への供物であったと考えられる。ちょうど半年おいた6月1日の行事(氷の朔日)に類似する点が多く,水神との関係が強調されるが,農業暦の上でさほど重要な時期ではないことから,正月を迎えるに先だち,川で水垢離(みずごり)をとったことに由来するという説もある。…

【川開き】より

…納涼開始を祝うとともに,水難者の供養や水難事故防止を願っての水神祭をも兼ねた行事。7月中旬から8月上旬にかけて各地の河川で行われる。…

【山水】より

…唐末に風景という用語もあるが,それは風と光とを意味し,中国人は自然をそこまで非実体化し抽象化することはなかった。《山海経(せんがいきよう)》は山々に神々が住むことをいうが,竜身,蛇身,魚身の神々も多く,山神であると同時に水神でもあろう。神話的世界の神としては洪水神が最も古いが,夏系の鯀(こん)や禹が魚身から熊に変じて治水を行ったとか,竜身の共工という洪水神をもつ羌(きよう)族は嵩(すう)岳を祖神とするといったように山神・水神は対をなしているようで,苗系の女媧(じよか)・伏羲(ふくぎ)の説話のように破壊と復活を意味し,山水は神と帝,聖と俗といった観念でとらえられていたかもしれない。…

【滝】より

…また《三代実録》貞観2年(860)閏10月17日の条には,伊予国の従五位上の滝神に,従四位下を授けたとある。とくに水の落下地点である滝壺は,滝の神または水神の棲み家であり,聖視されている。滝壺近くに,よく不動や弁天が祀られているのは,滝の神格の具体的な表示である。…

【梵鐘】より

…これは常陸府中(茨城県石岡市)の寺に男鐘と女鐘があり,熊坂長範が女鐘を三叉沖に投げ込み,そのため男鐘を慕って泣くのだと伝えている。 これらはそれぞれ水にまつわって鐘の霊異と関連し,水神の祭事場を暗示する伝説といえる。また雨乞いの際,池沼に鐘を投ずることは,各地で実際に行われていた。…

【水】より

…このように考えると,水は文明の発生,発展のみならず伝播のうえでも,見逃すことのできない大きな役割を果たしてきたといわねばならない。【山田 達夫】
[水と宗教]
 水には古来,聖なる力が備わっていると考えられ,そこから水神信仰と祓浄信仰が生じた。前者の水神は,シリアのアスタルテ,バビロニアのイシュタル,ペルシアのアナーヒター,そして日本の罔象女神(みつはのめのかみ)などにみられるように女神の姿をとることが多く,生産と豊熟の源泉とみなされ,主として農耕・灌漑の守護神として崇拝された。…

※「水神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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