日本大百科全書(ニッポニカ) 「グロテスク」の意味・わかりやすい解説
グロテスク
ぐろてすく
grotesque 英語
grotesque フランス語
一般的には、怪奇な、気味悪い、ぎょうぎょうしく風変わりな、などの意味をもつ形容詞であるが、美術用語としては、西洋の装飾モチーフの一つで、異様な人物、動植物、鳥や虫、楽器や文房具、仮面などの形象を曲線でつないだ文様をさす。その呼称は、古代ローマの庭園にしばしばつくられた人工の洞窟(どうくつ)(グロッタ)に由来する。グロテスクは、ルネサンス期のイタリアで、室内装飾、家具、織物や陶器の装飾モチーフとして流行し、16世紀以降、ヨーロッパ全域に広まった。ラファエッロによる、バチカン宮ロッジア(建物の内部につくられたアーケード)の壁面はグロテスクの典型とされ、多くの模倣作を生んだ。
17世紀ごろから、グロテスクは、文様についてのみでなく、文芸上の一つの概念や性格を表す語としても使われるようになった。シュレーゲル、ジャン・パウル、ユゴーなどのロマン主義者は、グロテスクを、古典的な形式美に対立する新しい美的概念として重視した。コメディア・デラルテのような民衆劇の誇張された演技、ボッシュやカロの絵画がもつ無気味さなどが、この観点から再評価された。今日では、グロテスクは、不可解な内的世界を顕在化するものとして、文学、芸術の重要な一面となっている。
[友部 直]