日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルカディア」の意味・わかりやすい解説
アルカディア
あるかでぃあ
Arkadia
ギリシア南部、ペロポネソス半島中央部の県。古代にアルカディアとよばれた地域とほぼ重なる。県都トリポリス。面積4419平方キロメートル、人口10万2700(2003推計)。平均標高1500メートルの丘陵地帯で、最高峰はパルノン山(マレボス山頂で1937メートル)。アルゴス湾西岸沿いに64キロメートルの海岸線をもつほかは、高い山や峡谷が他県との間を分けている。長く孤立した地域であったが、現在はアルゴス―トリポリス―カラマタ鉄道が貫通する。県都トリポリスを中心とする大幹線道路も整っている。おもな産業は農業と牧畜である。G・K・チェスタートン、P・シドニーなどによって多くの小説や詩に描かれ、牧歌的理想郷の代名詞とされている。
[真下とも子]
歴史
この地の方言には古い要素が残存しており、言語学的には興味ある地域である。しかし、政治上はあまり重要な役割を果たさなかったと考えられ、ミケーネ時代の遺跡はごくわずかしかない。紀元前6世紀よりアルカディアの諸都市は強引にスパルタの支配を受け、何度かこれに反抗を試みたが失敗した。前4世紀テーベの助力のもとに、ポリビオスの出身地で有名なメガロポリスを設立し、アルカディア同盟を結成したが、まもなくマケドニアの支配に服した。前235年にはアカイア同盟に加入、ローマと戦ったが敗れ、ローマに服属した。アルカディアは諸市間の内紛があって古代ギリシア世界で指導的役割を果たせなかった。しかし、古典期、ヘレニズム時代は傭兵(ようへい)の供給地ならびに諸神の崇拝地として、さらに牧歌的理想郷として有名になった。
[真下英信]