コクゾウムシ(その他表記)Sitophilus zeamais

改訂新版 世界大百科事典 「コクゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

コクゾウムシ (穀象虫)
Sitophilus zeamais

甲虫目オサゾウムシ科の昆虫。グラナリアコクゾウムシとともにgrain weevilと呼ばれ,世界に広く分布する穀類の大害虫イネコムギオオムギトウモロコシなどのイネ科植物の種子をはじめ,干しイモ,ソバビスケットなどの乾燥・加工食品も食害する。成虫は赤褐色から黒褐色で上翅に赤黄色の4紋がある。体長3.5mm内外。成虫は3月下旬~10月下旬ごろまで活動する。1年間に3~4回発生するが,東北地方や北海道では1~2回の発生。成虫は主として精米,精麦しないコメ,ムギに産卵する。穀粒口吻こうふん)で小穴をあけ,1卵ずつ産みつける。産卵は通常1穀粒に1卵であるが,成虫の密度が高まると2卵以上も産むことがある。しかし成育できるのは1個体のみである。幼虫は穀粒の内部に食い入り,穀粒内で成長する。からだは白色で,著しく肥満し,胸脚を欠く。穀粒内で蛹化(ようか),成虫となって脱出する。穀粒内は空洞となり,指でおせばくずれる。卵から成虫までの期間は20℃で約52日間,25~27℃で約30日間。羽化後,約1週間で産卵を始め,最初の1ヵ月間に最も多く産む。雌1匹の産卵数は平均60粒(平均380粒とする記録もある)。成虫の寿命は4ヵ月前後で長い。越冬は主として成虫であるが,幼虫が穀粒内で越冬することもある。成虫の越冬場所は倉庫周辺の木材や石の下など。幼虫の天敵としてコクゾウコバチが知られる。コクゾウムシに類似するココクゾウムシS.orizaeは体長約2mm。コクゾウムシと同様の被害を与えるが,繁殖に伴い穀物の温度を30~35℃まで上昇させることが知られている。グラナリアコクゾウムシS.granariusは体長が3.5mm内外。穀類の大害虫で輸入穀類に発見されるが,日本にはまだ定着していない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コクゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

コクゾウムシ
こくぞうむし / 穀象虫
[学] Sitophilus zeamais

昆虫綱甲虫目オサゾウムシ科に属する昆虫。世界各地に分布している貯蔵穀類の害虫であるが、とくに貯蔵米(まい)に多く、日本ではもっとも多い種である。体長2.3~3.5ミリメートル。体は細く、黒褐色ないし赤褐色、上ばねの肩部と後方に鈍い赤紋がある。口吻(こうふん)は長く前方へ突き出し、雌では光沢があってすこし下方に反るが、雄では隆起線と点刻があって光沢がない。前胸は密に点刻があり、上ばねには各数点の刻列と列間の隆起線がある。

 雌は穀粒に穴をあけて産卵し、幼虫は白くて太った柔らかい虫で、穀粒の内部を食べて育つ。1世代は盛夏のころで約1か月であり、年4回ぐらい発生し、大部分は成虫で越冬する。暖地では野外でもみられ、枯れ木の皮下の分解した部分などにいることもある。以前はヨーロッパに多いココクゾウの学名を誤ってあてていたが、この種はインドから記載されたものであることが判明した。

 ココクゾウS. oryzaeも米穀に多い種で、コクゾウムシによく似ているので区別がむずかしいが、体長2ミリメートル余りでやや小さく、褐色ないし赤褐色で上ばねの紋がなく、おもに幼虫で越冬し、コクゾウムシより湿気のあるほうを好むなどの違いがある。ヨーロッパでrice weevilとして害虫書などにあげられているのはこの種である。もう1種、米穀にみられる同属種として、褐色で光沢のあるグラナリアコクゾウS. granariusがあり、体長3~3.5ミリメートル、前胸背面の点刻は縦に長く、上ばねには深い縦の条溝がある。この種は後ろばねが退化していて飛べないが、壁面に止まるときの肢(あし)の粘着力は強く、貯蔵穀類中での生活にはより適応していると思われる。日本では1923年(大正12)にカナダから輸入された加州米で初めて発見されたが、一般には広がっておらず、定着してはいないようである。

[中根猛彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コクゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

コクゾウムシ
Sitophilus zeamais; rice weevil

鞘翅目オサゾウムシ科。体長 2.3~3.5mm。体は光沢のある赤褐色ないし黒褐色の長卵形で,頭部は細長く伸長する。前胸背には円形の点刻が密布し,上翅に赤褐色の紋が4個ある。また上翅にはあらい点刻のある縦溝があり,間室は縦溝より狭く,隆起する。後翅は発達している。米穀類の大害虫で,世界各地に分布する。近縁のココクゾウ S. sasakiiは本種に似ているが,体長 2.1~2.3mmの小型で,前胸は両縁平行で,点刻が少く,成虫の後翅は退化傾向がみられる。コクゾウムシより暖地に分布する。グラナリアコクゾウ S. granariusは体長3~3.5mm,体は光沢のある赤褐色ないし暗褐色で斑紋を欠く。前胸背の点刻は縦長で,上翅の縦溝は細いが深く,間室は縦溝より幅広い。後翅は退化している。米穀類の大害虫で世界各地に分布するが,日本では 1923年に輸入米から初めて発見された。

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百科事典マイペディア 「コクゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

コクゾウムシ

ゾウムシ科の甲虫の一種。体長3mm内外。黒褐色で,翅に淡い黄褐色の紋がある。ほとんど全世界に分布。幼虫は米,麦,トウモロコシなど貯蔵穀物類を食べる害虫で,成虫は年に数回,連続して発生する。成虫または幼虫で越冬。よく似た種類にココクゾウムシとグラナリアコクゾウムシがある。
→関連項目ゾウムシ

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「コクゾウムシ」の解説

コクゾウムシ
学名:Sitophilus zeamais

種名 / コクゾウムシ
解説 / 成虫は、野外では樹皮の下などで越冬します。1年に3~5回発生します。
目名科名 / コウチュウ目|オサゾウムシ科
体の大きさ / 3~4mm
分布 / 日本全土(世界共通種)
幼虫の食べ物 / コメ、ムギ、トウモロコシなどのこく物

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