日本大百科全書(ニッポニカ) 「コモンウェルス文学」の意味・わかりやすい解説
コモンウェルス文学
こもんうぇるすぶんがく
英語圏文学ともいい、かつてイギリスの自治領か植民地であった土地で、第二次世界大戦後に独立した諸国、すなわちオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、インド、パキスタン、スリランカ、マレーシア、シンガポール、アフリカ、カリブ海域・西インド諸島などにおいて、英語で表現される文学の総称である。これらの国では、独立後も公用語もしくは準公用語として英語が使用されており、所によってピジン・イングリッシュとかクリオール・イングリッシュといった特異な英語を発達させている。いずれの地域の文学も長らく大英帝国の支配下にある間に、自ら喪失し、もしくは喪失を強いられたアイデンティティを回復するために、ルーツを探り、新しい環境のなかでそれを再創造しようとする傾向が強い。つまり、独立とともに目覚めた主体性を、独立後の新たな情況のなかでどのように構築していくかという問題が、その文学のおもなテーマとなっている。これから国づくりにかかるこれらの地域の文学は、従来ヨーロッパ中心の近代文明の周辺にあっただけにその汚染を免れており、その意味で停滞ぎみの欧米文学にかわる可能性を秘めた「新しい文学」として注目される。
この「新しい文学」が市民権を得て定着する過程は、1942年、ペンシルベニア州立大学(アメリカ)の英文科に「英国自治領および植民地の文学」というコースが開設されたことに始まる。カナダ、オーストラリア、南アフリカに輩出した優れた白人作家たちを扱った文学講座である。やがて1960年前後にアジア、アフリカに続々と独立国が誕生するに及んで、大きな質的変化が生じ、64年にリーズ大学(イギリス)で「共通文化の統一性と多様性」というテーマのもとに開かれたコモンウェルス文学会議の成功に力を得た学者、作家たちは、ただちに研究団体「コモンウェルス文学言語研究学会」を設立した。リーズ大学を本拠に、1965年から機関誌『コモンウェルス文学ジャーナル』が発刊され、68年のオーストラリアでの第1回国際大会を皮切りに、以後2年置きにジャマイカ、デンマーク、インド、フィジーで同大会は開かれ、第6回大会は1983年にカナダで開催された。大学における講座もリーズ大学に次いで世界各国で開講される一方、コモンウェルス文学言語研究学会自体も研究の活性化と多様化に伴いブロック別の系列化が進み、ヨーロッパ支部、南太平洋支部、カナダ支部などが設置されて、各支部が独自の機関誌をもつに至っている。
[土屋 哲]
『土屋哲・平野敬一編『コモンウェルスの文学』(1983・研究社出版)』