コヤスガイ (子安貝)
タカラガイ類の別名であるが,とくに大型のハチジョウダカラガイMauritia mauritianaを指すことが多い。タカラガイ類は形が卵形で背面は丸く膨らみ,美しい模様があり,腹面は殻の口が狭く細くなり,両側の縁に歯のような刻みがある。形がふつうの巻貝と変わっているほか,女性器に形が似ているところから,妊婦がお産をするときこれを握っていると安産すると信ぜられ,コヤスガイの名もそれによる。また《竹取物語》にはかぐや姫が〈いそのかみの中納言には,燕のもたる子安のかひひとつとりて給え〉と条件を出した文がある。もちろんツバメの巣の中にタカラガイのあるはずもないが,当時でも美しいタカラガイをもつことがあこがれであったことがわかる。この類の属名の一つCypraeaも女性器を意味する語である。
執筆者:波部 忠重
民俗
宝貝とも呼ばれ,形に大小あり色彩もさまざまであるが,下面が女性の陰門に似ており,背面に光沢があって美麗な点は共通している。その形態から安産の御守となると考えられ,産婦に握らせたりまくらもとに置く風習が見られた。しかし,本土ではその習慣は比較的少なく,沖縄諸島ではノロ(祝女)などの宗教的女性が緒につらぬいて首にかけており,神聖な呪物として考えられていたことが,もとのこの貝の意味を示すのではないかと考えられる。《竹取物語》の中にもこの貝が出ており,子安貝はツバメが南方からもたらすものと信じられたらしい。この考えは現代の中国山地にもあって,ツバメの巣の泥を壊して見ると,その中から必ず小さな貝が出てくる。それが子安貝だと老人は伝えているのである。中国では子安貝は秦代より前にはきわめて貴重視され,貴珠,珍宝として賞せられて通貨にも使用された。漢字において財貨を意味する文字の多くが,その一部に貝を含むのはこの痕跡で,中国南部雲南地方では明代まで宝貝が通貨であり,その供給源として琉球諸島から〈海巴〉の名で子安貝が大量に輸出されていた。
→タカラガイ
執筆者:千葉 徳爾
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コヤスガイ
こやすがい / 子安貝
cowry
cowrie
軟体動物門腹足綱タカラガイ科に属する巻き貝の異名で、とくに大形のハチジョウダカラガイなどをさすことが多い。古くは『竹取物語』にもその名がみえる。名のとおり安産の御守りにもされていた。
[奥谷喬司]
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コヤスガイ(子安貝)【コヤスガイ】
タカラガイ科の貝の別名,とくにハチジョウダカラガイを指すことが多い。
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世界大百科事典(旧版)内のコヤスガイの言及
【貝】より
…コメガイはニホンマメシジミのことで,これが米粒を思わせるためである。コヤスガイ(ハチジョウダカラガイ)を妊婦が握っていると安産するといわれるのも,コヤスガイの殻口が女性の陰部に似ていることからの連想と思われる。
[染料]
地中海沿岸のフェニキアでは前10世紀ころからシリアツブリボラやツロツブリボラの鰓下腺(さいかせん)から紫色の染料をとっていた。…
【貨幣】より
…
【貨幣の経済学】
[貨幣の定義・機能]
貨幣とは,通常次の三つの機能を果たすものと定義される。すなわち,(1)決済手段(支払手段)としての機能,(2)価値尺度としての機能,(3)価値貯蔵手段としての機能である。貨幣の決済手段としての機能とは,広く社会で行われるさまざまの経済取引に際し,その取引の決済が貨幣の移転を通じてなされることを意味している。また,価値尺度としての貨幣の機能とは,取引される多様な財・サービスの価格を貨幣の単位,たとえば円やドルで表示することによって,それらの財・サービスの交換比率を統一的に表現することを可能としていることを示している。…
【交易】より
…特定の個人あるいは集団の間で価値あるものを互恵的に[交換]する体系のこと。交易は大別して,[貿易]など経済上の生活必需物資の交換(この場合には市場の形成に関連する)と儀礼的に交換する場合とに類別できようが,前者は貨幣を媒介とする商業的レベルで,また,後者は直接的な物々交換に重点を置いて行われることが多い。したがって,経済的交易は貨幣経済の発展を前提とした交易であるのに対し,儀礼的交易は物品に対する等価意識や呪術的認識が前提となる。…
【タカラガイ(宝貝)】より
…紀伊半島以南~熱帯太平洋,インド洋の潮間帯下の岩礁にすむ。[コヤスガイ](子安貝)ともいい,これを握っていると安産するといわれる。またウマノクボともいうが,これはウマの雌の性器の意である。…
※「コヤスガイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」