改訂新版 世界大百科事典 「ゴットフリート」の意味・わかりやすい解説
ゴットフリート
Gottfried von Strassburg
シュトラスブルク(現,ストラスブール)出身の中世ドイツ文学の代表的詩人。生没年不詳。彼が騎士でなかったのは確かなようであるが,身分についてはシュトラスブルクの官吏,学校の教師,学者,聖職者などさまざまな推測が行われている。彼の作とされる抒情詩もあるが,本領は叙事詩であり,未完の《トリスタンとイゾルデTristan und Isolde》(1210ころ)は中世ドイツ文学の代表作である。未完の理由は彼の死とも,詩作上の行詰りとも言われる。彼が作中で暗にウォルフラムのことを〈奇妙な物語の創作者〉などと嘲笑したのに対して,ウォルフラムが《ウィレハルム》の中で〈パルチバルをけなして自分の物語を引き立たせようとする者が多い〉と応酬した話は有名である。ゴットフリートはシュタイナハBligger von Steinachとアウエのハルトマンを詩作上の典範としているが,特に後者の詩文を〈水晶のような言葉〉と賛美している。ウォルフラムの難解で〈暗い文体〉に対し,彼の文体は〈明晰〉であり,言葉の美しさを生かしきった美的文体である。テュールハイムUlrich von Türheim(1195ころ-1250ころ)とフライベルクHeinrich von Freibergはそれぞれこの未完の作品の続きを書いた。ゴットフリートは中世後期の詩人をはじめ後代の詩人に大きな影響を及ぼし,16世紀のハンス・ザックスの悲劇《トリストラント》や,19世紀R.ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》のほかにも多くの作品の題材となっている。
執筆者:古賀 允洋
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