翻訳|rock crystal
普通、結晶形の明瞭(めいりょう)な石英のことをいうが、本来は無色透明で、きずのない結晶に対して使われる。古代においては、水晶は水が凍ってできたものと信じられていたらしく、英名のクリスタルという語は氷を意味するギリシア語に由来している。
[松原 聰]
結晶形は六角柱状で端は2種類の面が交互に現れる六角錐(すい)状をしているのが基本である。これに何種類かの結晶面が柱面と錐面の境界部に現れることがある。柱面には柱の伸びの方向と垂直の方向に無数の平行な条線が発達している。この条線は錐面には現れない。錐面のうち1種類のみが異常に発達すると、端が三角形にみえる。
結晶構造上、対称軸はもつものの、対称面と対称心がない。しかし、右手と左手の関係(実物と鏡に写った像との関係)のような対をなす結晶が存在し、右型(右水晶)と左型(左水晶)に区別される。水晶はある一定の方向から圧力を加えると、誘電分極をおこして帯電するため、水晶発振器などに利用される。ほかに光学プリズムなどにも使われるが、これらの用途に適する無色透明で、きずのない大型結晶は天然に少なく、現在ではほとんど合成水晶に頼っている。
水晶では双晶が普通にみられる。おもに、伸長方向と平行な軸(c軸)の回りに180度回転した関係で二つの結晶が組み合わさったドフィーネ双晶(右水晶どうし、左水晶どうしの2種類)、左右水晶がc軸と平行に反射の関係で組み合わさったブラジル双晶がある。また、日本産の水晶として詳しく研究された日本式双晶は、2個体が互いに84度34分傾いて結合しているもので、しばしば大きな平板状結晶をしてハート型になる。山梨県牧丘(まきおか)町(現山梨市)の乙女鉱山(閉山)のものが世界的に有名である。
水晶はきわめて普通にみられる結晶鉱物で、とくに花崗岩(かこうがん)中の石英脈、花崗岩質ペグマタイトの空隙(くうげき)によく産する。ほかに、金属鉱脈や変成岩中の石英脈の空隙に、またあらゆるケイ酸分に富む岩石の空隙にみられる。日本では山梨県甲府付近、岐阜県苗木地方、滋賀県田上(たなかみ)地方などで良晶を産するが、工業用や装飾用に利用されることはほとんどない。
[松原 聰]
水晶は古代より装飾品として愛用されてきており、外観によっていろいろな名がつけられて次のとおり親しまれている。
(1)黄水晶(きずいしょう)(シトリンcitrine) 黄ないし黄褐色透明なものをいう。色の原因はコロイド状に分散した含水第二酸化鉄の微粒子によるものとされている。天然での産出は比較的まれで、マダガスカル、ブラジルなどに知られる。黄水晶はアメシスト(紫水晶)や煙(けむり)水晶を熱することによって容易に得ることができるため、宝石市場に出ている黄水晶(シトリンあるいはシトリン・トパーズとよんでいる)のほとんどは熱処理品と思って間違いない。天然の黄水晶には、熱処理した紫水晶のような赤みがないのが普通である。研磨したものは、本物のトパーズ(黄玉(おうぎょく)。宝石店ではしばしば黄水晶のことをトパーズと称して売っている)と区別しがたいので注意が必要である。
(2)草入り水晶 水晶にはしばしば他の鉱物が含有されている。このうち、針状ないし繊維状の結晶が多数含有されているものを草入り水晶とよぶことがある。結晶の種類としてはルチル(金紅石)、電気石、角閃石(かくせんせき)がもっとも普通である。ルチル入りのものは、ブラジルやマダガスカルからよく産し、赤褐色ないし黄色を呈する。毛状のルチルが入っているものはビーナスの毛髪石などとよばれ、かつてヨーロッパで人気を得た。日本産のものはほとんど電気石や角閃石であることが多く、山梨県などでよく産出した。ほかにコケのような緑泥石を含んで緑色にみえる水晶や液体包有物がよくみえる水晶(水入り水晶)などは広い意味でこのグループに入る。また、結晶成長の際、微細な他鉱物が成長面上に付着することがある。これが断続的に行われると、結晶内にいくつも境目がみえてくる。これを山入り水晶、英語ではファントム・クォーツ(幻の水晶)あるいはゴースト・クォーツ(幽霊水晶)とよんでいる。
(3)黒水晶 煙水晶のうち、ほとんど真っ黒なものをいい、装飾品とされる。モリオンmorionとよぶことがある。
(4)煙水晶 わずかに煙がかったものから濃い黒色のものまである。また、一つの結晶でも色の濃淡が著しいことがある。熱すると色がなくなるが、ある種の煙水晶では色の消える前に黄褐色ないし黄色になることがある。多くの黄水晶はこうしてつくられたものである。煙色になる原因としては、ケイ素を置換してアルミニウムが入ることにより、陰イオンに欠陥が生じて光を吸収するためと考えられている。また実際放射線を無色透明な水晶に当てると煙色になるところから、天然の煙水晶は放射能によって無色透明な水晶から二次的にできたともいわれている。煙水晶はおもに花崗岩質ペグマタイトから産し、世界的に産地は多い。日本では岐阜県苗木地方によく産出する。
(5)紅水晶 淡桃ないし桃、紅桃色をした水晶で、産出はきわめてまれである。色の原因はルチル(金紅石)やアルミニウムの置換によるものと考えられる。
このほか、古くから知られ2月の誕生石ともなり、水晶中もっとも高価なアメシストなどがある。
[松原 聰]
『秋月瑞彦著『山の結晶――水晶の鉱物学』(1993・裳華房)』
水晶は石英の俗称で,狭義には結晶の外形が見える無色透明な石英をさす。古くは中国や日本で水精とも書いた。ギリシア時代には水晶はもと氷であったと考え,同じ言葉(クリュスタロスkrystallos)で呼んだ。これが結晶を意味する英語crystalの語源となっている。ヨーロッパとはまったく独立に,同じような考え方は中国,日本,その他の国にも存在した。水精という名はこのようにしてできたものであろう。
ヨーロッパでは17~18世紀ころから,crystalという語を水晶だけではなく多面体の外形をもつ物質の総称に用いるようになった。石英(クォーツquartz)という語ははじめヨーロッパの一部で用いられたが,しだいに17~18世紀以前にcrystalと呼んだものをさすようになった。
執筆者:津末 昭生
単に水晶といえば無色透明なものをいい,ときに区別のため特に白水晶という。色のついたものは黄水晶(シトリン),茶水晶(スモーキー・クォーツ),紫水晶(アメシスト)など別の名称で呼ばれ,宝石として使われる。水晶の結晶中にルチルや電気石(トルマリン)の針状結晶が内包されているものは針入り水晶といい,緑色の緑泥石や角セン石などが内包されるときは,草状に見えるところから草入り水晶と呼ばれる。酸化マンガンの内包によって樹枝状模様を示すものはデンドリティック・クォーツの名で呼ばれている。数種ある水晶の双晶のうちで,日本式双晶は山梨等に産し,俗に夫婦(みようと)水晶あるいは矢羽根形水晶などといわれ珍重される。
水晶は世界各地で産出するが,工芸用に向く大きさと完全さを備えた水晶の産地は限られている。ヨーロッパでは古くからマダガスカルとスイスの水晶が工芸品の材料として用いられており,中国ではビルマ(現,ミャンマー)北部のものが用いられたようである。現在では品質,産出量の点でブラジルが第一であり,マダガスカルがこれに次いでいる。日本の水晶産地としては,かつては山梨県乙女鉱山,水晶峠,岐阜県苗木地方が著名であったが,今はほとんど採掘されず,大正の半ばころ輸入が開始されたブラジル産の水晶がもっぱら用いられている。ただし集中加工産地としては甲府市が世に広く知られている。水晶の用途は,装身具としてよりも水晶発振子,振動子材料としてのほうが多くなっており,工業用には熱水法による人工単結晶が使われている。
執筆者:近山 晶
水晶は〈冬の雪がもっとも固く氷結した場所で発見されるので,氷の一種であることは間違いない。さればこそギリシア人はこれをクリュスタロス(ギリシア語で〈氷〉と〈水晶〉の両義がある)と呼んだのだ〉と書いているのは大プリニウス(《博物誌》第37巻)である。実際,ローマ時代には水晶はもっぱら万年雪のあるアルプスから産したのだった。水晶が凝固した水だという説は,こうして16,17世紀にまで及んでいる。プリニウスはまた,〈なぜ水晶は六角の面をもって形成されるのか。その理由を見つけ出すのは容易ではない〉ともいっている。鉱物の結晶という現象に関する,もっとも素朴な疑問がこれであろう。
古代インドの鉱物学では,水晶は大地の子宮のなかで成長する一種の鉱物の胎児だった。ダイヤモンドがすでに成熟した胎児だとすれば,水晶はまだ未熟の状態にある胎児なのである。同じような考え方はヨーロッパの錬金術にもあって,あらゆる地上の果実と同様に,鉱物もまた地中で熟するものだと信じられていた。〈ガラスが1000年たてば水晶になり,水晶が10万年たてばダイヤモンドになることは明白である〉とユゴーも書いている。
13世紀のアルベルトゥス・マグヌスは,〈火をつけたいと思ったら,水晶をとって陽光にあて,これに燃えやすいものを近づければよい。やがて太陽がきらめき,火が燃えつくだろう〉と書いている。水晶はまたヨーロッパで,いわゆる〈クリスタル・ゲージングcrystal gazing(水晶凝視)〉と称せられる,一種の占いにも利用されたことを指摘しておこう。
執筆者:澁澤 龍
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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無色透明,結晶形の美しい石英の一般名.ペグマタイト中には巨大な結晶として産出する.結晶形の違いにより右水晶と左水晶とがあり,それぞれ右旋性と左旋性である([別用語参照]旋光性).格子定数 a = 0.49130,c = 0.54046 nm.密度2.65 g cm-3.紫外線をよく通し,レンズ,プリズムなどとして光学器械に用いられる.紫外線透過限界は180~200 nm.石英ガラスの原料になるが,石英ガラスと異なり加熱により破損しやすい.古くより高周波の発振器として用いられ,電子時計の発振器として一般にも普及している.主な産出地はブラジル.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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【鉱物の諸性質】
[形態]
鉱物が自由な空間において結晶した場合は,本来その鉱物の示す規則正しい対称性をもつ凸多面体の結晶形態を示し,この場合を〈自形〉を示すという。岩石の空隙(晶洞)中に熱水より生じた水晶の結晶はその例である。これに対し,岩石を構成する鉱物の多く,例えば花コウ岩中の石英などは,他の鉱物の間をみたして結晶し,〈他形〉を示している。…
… 鉱物,特に宝石,貴石の人工鉱物化はかなり古くから試みられたが,実質的に開始されたのは近代化学の勃興と軌を一にし19世紀からである。特に有名なものは,ルビー,ダイヤモンド,水晶の研究である。ルビーの研究はフランスのベルヌーイA.V.L.Vernuilにより行われ,火炎溶融法(ベルヌーイ法)によって19世紀末に成功している。…
※「水晶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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