日本大百科全書(ニッポニカ) 「サウスオール」の意味・わかりやすい解説
サウスオール
さうすおーる
Ivan Francis Southall
(1921―2008)
オーストラリアの児童文学作家。ビクトリア州のカンタベリー生まれ。イギリス空軍パイロットとして第二次世界大戦に参戦。戦後、作家生活に入り、オーストラリアの人と風土に深く根ざした作品を発表した。『ヒルズ・エンド』(1962。『嵐の中の子どもたち』という訳もあり)では、子どもたちがつらい経験のすえにやっとたどり着いた村は、洪水で跡かたもなく大人も皆無、子どもたちは恐怖に打ちのめされながらも生き延びる道を切り開いていく。『燃えるアッシュ・ロード』(1965。オーストラリア年度児童図書賞受賞)では、ブッシュでキャンプをしていた3人の少年が過って火事を起こしてしまう。火はあっという間に燃え広がり老人と子どもだけの集落へと迫っていく。このように初期の作品においては、災害や事故で極限状態に追い込まれていく子どもたちを緊迫感をもって描いている。サウスオールはその後、1人の子どもの心の動きに焦点を据え作品化する手法をとり始める。障害児の心の自立を描いた『風船をとばせ!』(1968)、田舎(いなか)の親戚の家に遊びにやってきた都会育ちの少年が、そこに住む子どもたちとの間で対立を深め、予定を切り上げ100マイルの道のりを歩いて帰ろうとする『ジョシュ――ライアン・クリークの3日間』(1971)など、激しくかつ細やかに変化していくリアルな心のドラマが読者を引きつける。サウスオールは『ジョシュ』でカーネギー賞を受賞し、オーストラリア児童文学の第一人者という評価を名実ともに得た。
[佐藤凉子]
『小野章訳『ヒルズ・エンド』(1976・評論社)』▽『久米穣訳『フォックス・ホール――真夜中にただひとり』(1977・評論社)』▽『久米穣訳『風船をとばせ!』(1982・評論社)』▽『小野章訳『ジョシュ――ライアン・クリークの3日間』(1982・評論社)』▽『小野章訳『ぼくは逃げない』(1982・偕成社)』▽『小野章訳『燃えるアッシュ・ロード』(偕成社文庫)』