改訂新版 世界大百科事典 「サモエード諸語」の意味・わかりやすい解説
サモエード諸語 (サモエードしょご)
Samoyed
ウラル語族はフィン・ウゴル語派とサモエード語派に大別される。後者に属する言語群をサモエード諸語という。サモエード語派は北方語群と南方語群に分かれる。
ロシアにおける現在の公称と括弧内に従来用いられた旧称をあげれば,北方語群には(1)ネネツNenets語(ユラク・サモエードYurak-Samoyed語),(2)エネツEnets語(エニセイ・サモエードYenisei-Samoyed語),(3)ガナサンNganasan語(タウギ・サモエードTavgi-Samoyed語)がある。ネネツ語は北東ヨーロッパから西シベリアの北極海沿い,北ドビナ川からエニセイ河口にわたる広い地域で約2万9000人によって話されている(ネネツ族)。行政的にはネネツ自治管区とヤマロ・ネネツ自治管区に属する。ツンドラ方言と森林方言に分かれる。エネツ語はネネツ語に近く,エニセイ川下流のドゥジンカの南と北で話され,話者は300人あまりとされる。ガナサン語はタイミル半島すなわちタイミル自治管区で用いられ,言語人口は1000人あまりである。
また南方語群は(4)セリクープSel'kup語(オスチャーク・サモエードOstyak-Samoyed語),(5)カマシKamassi語(サヤン・サモエードSayan-Samoyed語)から成る。セリクープ語は,東はエニセイ川から西はオビ川の中流にわたるあたり,北はタス川,南はケット川に至る地域で話されていて,タス,ティム,ケットなどの方言に分かれ,4300人あまりが用いている。カマシ語はかつて南部シベリアのサヤン山脈付近でも話されていたが今は消滅している。
サモエード語はフィンランドのカストレンM.A.Castrénが調査し,文典(1854)と辞典(1855)を著したが,現地人のプロコフィエフG.N.Prokof'evも文法概説(1937)を書いている。フィンランドのレヒティサロT.LehtisaloやハンガリーのハイドゥーHajdú P.,ソ連のテレシチェンコN.M.Tereshchenkoらにより言語研究が進められ,口承文芸を中心とした豊富な言語資料が集められている。最近ではサモエード語の雑誌や文芸作品も出ている。
言語の構造をみると,たとえばネネツ語には声門閉鎖音に無声/ʔ/と有声//の別がある。例:/veʔ/〈国〉,/ve/〈犬〉。名詞は7格に変化し所有語尾をもつ。ɳano-da-md〈君(が使うはず)のボートを〉では,予定変化語尾-da-の後に二人称単数の所有語尾の目的形-mdが付加されている。また名詞も述語変化をなす。例:man'xan'ena-mz’〈私は 狩人-だった〉。語順は主語+目的語+動詞の順である。例:nis'ajunpadar-mʔ pada〈父が 手紙-を 書いた〉。
執筆者:小泉 保
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報