翻訳|samovar
ロシア特有の喫茶用湯沸器。飲茶の習慣が一般に普及した18世紀末,金属加工の中心地トゥーラで製造が始まった。材料は銅あるいは黄銅で,円筒形ないしは円錐形の容器の内部にパイプが立てられており,その中に主として木炭,ときには乾いた木株や松かさをつめて燃焼させる。近年はニクロム線を組みこんで電熱を利用するものが多い。家庭用では,容量が3lからせいぜい7l程度のものが普通であるが,レストランなどではさらに大型のものが用いられる。上蓋の上に急須をかけて紅茶を煮出し,グラスあるいは茶碗に半分ほど注ぎ,本体の下部から突出している栓をひねって熱湯を注ぎ足すのが通常の飲み方である。茶を煮るときあたりに芳香がただよい,水の沸騰が比較的に早いうえに保温の機能もすぐれているので,19世紀以来ロシア人に大いに愛され,食卓の上のサモワールは家庭団欒や来客歓待の象徴となった。
執筆者:中村 喜和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ロシア特有の湯沸かし器。サモワールという名前は「ひとりでに沸く」という意味で、ロシアでは19世紀ごろに紅茶の普及とともに広がった。ロシア以外にも、紅茶を飲用するイラン、トルコ、アフガニスタン、パキスタンなどで使われており、とくにこれらの国のチャイ・ハナ(茶店)や駅の屋台の道具となっている。
中央の鉄製の筒に木炭などの燃料を入れ、その周囲にある水槽の水が温められる仕組みとなっており、水は上部の蓋(ふた)をとって補給し、外側のコックをひねって湯を出す。濃いめに出した紅茶のポットを燃料の筒の上で保温し、各自のカップに注ぎ分け、湯を注いで薄めて勧める。外側には銅、真鍮(しんちゅう)、銀、錫(すず)などが用いられ、美しい装飾を凝らしたものから実用的なものまで、さまざまなものがある。近年は加熱に電気ヒーターを取り付けたものが広まっている。
ロシアでは食後や夕食前の4時ごろがティータイムとなっているが、それ以外にも何回となくサモワールを用いて紅茶を飲む。したがって寒さの厳しい生活のなかで、いつでも温かい飲み物を飲むことができるたいせつな器具とされてきた。名産地としては、モスクワ郊外のトゥーラがよく知られている。
[河野友美]
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