液体が気化して蒸発するとき蒸気圧が温度とともに増大するが、蒸気圧が増して液体内部で気化がおきて泡になって表面に出て行く現象、すなわち液体が内部から気化する現象をいう。一般に沸騰は沸点よりやや高い温度でおこる。沸点は液相がその飽和蒸気と平衡を保って共存する温度であるが、飽和蒸気圧というのは平らな液面と接して平衡にある気相の圧力である。しかし液体内部にできる気泡は液体の凹面で囲まれているため、表面張力によって気泡内の圧力は液体の圧力より大きくなければならない。沸点に相当する飽和蒸気圧の気泡は表面張力のために押しつぶされてしまって気化することができない。このため、液体内部の気泡を気化させるためには、沸点よりもかなり高い温度にして気泡内の圧力が表面張力に打ち勝つようにしなければならない。このためきわめて純粋な液体は沸点よりかなり高い温度まで加熱しても沸騰しないままでいることができる。このような液体を過熱状態にあるといい、この現象を沸騰の遅れという。実際には容器の壁や液中のごみなどに吸着していた空気が解放されて泡となり、その中に液体が気化していって泡が成長することができるので、沸点よりごくわずか高い温度で沸騰することができる。過熱状態になって初めて突発的に沸騰し始める現象は突沸とよばれている。
揮発性の2成分からなる溶液が蒸気と平衡を保つ場合に、その蒸気圧が1気圧となる温度は溶液の組成に依存するので、この温度を組成に対して描いたものを沸騰曲線または蒸発曲線とよんでいる。沸点において液体が気体に変わるために必要な熱は潜熱の一種であり、気化熱または蒸発熱という。これは気体から液体になるときに放出される凝縮熱に等しい。
[平野賢一]
一定圧力のもとで液体を加熱すると,液体がある温度に達したときから,液体表面での気化(蒸発)のほかに液体内部からも気化が始まり,液体内に蒸気の気泡ができる。この液体内部から起こる気泡の形成を伴う気化現象を沸騰という。沸騰の起こる温度を沸点(または沸騰点。記号ではboiling pointの略でbp)という。1種類の物質だけからなる純粋液体では,一定圧力下における沸点は,その液体に固有な温度である。例えば水H2Oの沸点は1atmのとき,100.00℃であり,これは国際的な温度目盛を決めるのに使われている。通常,ことわりなしに沸点といえば,圧力1atmのもとでのものである。外圧を大きくすると沸点は上昇し,外圧が下がると沸点も下がる。前者のよい例は圧力釜であり,圧力をかけることによって調理温度を上げることができる。後者の例としては,高い山の上では,水がふつうよりも低い温度で沸騰するので米などをうまくたくことができないという現象があげられる。純粋液体では,圧力が一定であれば沸騰中の温度は一定に保たれるが,溶液の場合は気化の結果として濃度が変化するのに応じて沸点が移動する。溶媒の沸点は,不揮発性の溶質を溶かすと上昇するが,この現象を沸点上昇という。沸点上昇は,同じ溶媒の希薄溶液では,溶質の種類によらず同じモル濃度に対しては同一である。溶媒1kgに1molの溶質を溶かしたときの沸点上昇を,沸点のモル上昇と呼ぶ。
沸騰は,器壁の微小なくぼみ,または液体中のごみなどに付着した空気が解放されて泡となり,その内部に液体が気化していって,その圧力が外気圧に等しくなったときに始まると考えられている。泡の存在をできるだけなくすると,沸点以上の温度でも沸騰しないことがある。この現象は沸騰の遅れと呼ばれ,このような状態を過熱状態という。過熱状態の液体は突然爆発的に沸騰することがあり,この現象を突沸という。沸騰の型としては,おもなものは器壁の高温面で液体が直接蒸気になって気泡ができる核沸騰と,高温面で蒸気が連続な薄膜を形成する膜沸騰の二つがある。膜沸騰の場合は,蒸気の膜が熱の伝達を妨げるので,核沸騰の場合に比べ熱の伝わる速度は小さい。
→伝熱
執筆者:小野 嘉之
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…蒸発や昇華は液体や固体の表面からの気化であるが,液体の温度が上がり,圧力で決まる一定の温度(沸点)に達すると,液体の内部からの気化が起こる。これは沸騰と呼ばれる。気化は,一次相転移の一種で,温度一定の下で物質の密度が不連続に増す。…
※「沸騰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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