改訂新版 世界大百科事典 「サンギータラトナーカラ」の意味・わかりやすい解説
サンギータ・ラトナーカラ
Saṅgīta Ratnākara
13世紀インドの音楽理論書。著者のシャールンガデーバŚārṅgadeva(1210-47)は祖父の代に,カシミールから南方のヤーダバ王家の支配するデーバギリ(現,ダウラターバード)に移転した侍医の家柄に生まれる。そのため,アビナバグプタらのカシミール派美学の伝統と無縁ではない。本書の目的は,多分に当時の学術書の定型句ではあるが,苦からの脱却,法(ダルマ)の維持,名声の獲得,解脱の四つであり,全7巻からなる。第1巻は音組織,第2巻は旋律の構造について,第3巻はプラキールナprakīrṇa(雑)と題されているが,主として言語の問題を扱う。第4巻はプラバンダprabandhaと称される,当時,演劇から独立して発達した,高度に芸術的な歌曲様式の楽理を示す。第5巻はターラ(拍子),第6巻は器楽演奏の方法,第7巻は舞踊術についてで,体系的に述べられている。インド中世の芸術音楽の理論的集大成である本書は高く評価され,特にイスラム系音楽の影響を受ける直前のインド音楽を知るうえでの貴重な文献である。
執筆者:島田 外志夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報