インド音楽における曲節,旋律。一つの楽曲を一貫して流れる旋律型。単なる楽曲構成の要素としての作曲された旋律を指すばかりでなく,各ラーガはそれぞれ異なった基本音列に属し,即興的変奏にも逸脱することなく表現される。ラーガは帰属する(1)基本音列,(2)使用音,(3)主要音,(4)装飾音の性格などによって分類される。
(1)基本音列 ラーガの帰属する基本音列は,北インド音楽と南インド音楽とでは理論を異にしている。北インドでは10種類の旋法が基本音列とされ,タートthātと呼ばれる。これらはオクターブの中に分けられる半音,全音,増2度音の音程の並び方の相異に基づく。南インドでは,オクターブの下半部と上半部との二つのテトラコルドに分け,両方に違った音程のもの6種類を定め,下半部と上半部とをそれぞれ別に組み合わせて,36種類の音列をつくる。それらの第4音を半音上げた音列を別に設定し,合わせて72種の基本音列(メーラカルタmelakarta)が得られる。各ラーガは,これら72のいずれかの音列に帰属される。北と南とでは名称も異なるわけで,たとえば,西洋の長音階に相当するものは,北ではビラーワルbilāval,南ではシャンカラーバラナśaṅkarābharaṇaと呼ばれる。
(2)使用音 基本音列は7音音列になっているが,実際のラーガは5音音列,6音音列のものがあり,しかも上行のときと下行のときとで,音の数が違っているものが多い。
(3)主要音 7音音列中のいずれの音を主要音(バーディー)とするかによって,旋法の性格が違ってくる。7音のどれもが,あるラーガにおける主要音となる可能性をもち,また経過的にしか使われない場合もある。主要音は一般に持続的である。これとは別に,ある音形を際だたせることによって段落感を生む場合もある。各音の使用頻度によって,ラーガの性格は,とくに緩い楽曲において大いに特徴づけられる。
(4)装飾音 総称してガマカgamakaと呼ばれるもので,音符の特徴ある細かい動きをいう。これらは多くの種類に分けられるが,そのうちのどの装飾音を主として取り入れるかも,ラーガの個性を決定する要素となる。
それぞれのラーガのもつ雰囲気は個性的なものであり,そのため演奏されるべき時期が問題とされ,とくに昼,夜などの各時間帯の指定もなされている。各ラーガは細密画などで具象化もされている。また歌詩の内容とも一致した情感をもったラーガは,その歌の音楽面を表現するためにふさわしいものとして選ばれ,演奏される。
→インド音楽
執筆者:島田 外志夫
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インド古典音楽の旋律面に関する総合的な理論。リズム面の理論ターラと並ぶインド古典音楽の二大理論とされる。ラーガは南北インドで多少内容に差があり、北ではラーグとよぶ。通常、上行・下行の音階によって構成音のみ示されるが、各ラーガは固有の音進行、装飾法、主音と副主音、特徴的な節回しなどをもち、それらによって細かく区別されている。とくに装飾法はラーガの本質といわれるほど重要視される。基本となるラーガは、南では72種のメーラカルタ、北では10種のタートからつくられる。メーラカルタ、タートとは、サ・リ・ガ・マ・パ・ダ・ニ(西洋音楽の階名ドレミに相当)の七音のうちサとパの音以外に変化記号をつけた七音音階で、これからつくられるラーガを親ラーガとよぶ。さらにこの七音音階から、サ音以外の音を欠いた五または六音音階、上行形・下行形がそれぞれ異なる音階、ジグザグ進行する音階などの派生ラーガが生まれる。基本ラーガと派生ラーガをあわせた数は、理論上何万にも上るが、実際演奏されるラーガは200~300ぐらいである。各ラーガにはヒンドゥー神の名称などがつけられ、とくに北では季節や時間、九つのラサ(情感)と深く結び付いている。演奏者は既成曲の演奏においてだけでなく即興演奏においても、ラーガのすべての制約を守り、かつ自由にラーガを表現するかに全神経を集中する。
[柴田典子]
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…前者を,〈慈〉と訳すこともある。 梵巴〈ラーガrāga〉:〈愛・愛染・貪愛〉。〈心が真赤に染まるような,激しい性愛〉のことで,仏教はその規制を説いたが,後代のタントラ的密教においては,〈男女交合〉を〈涅槃(ねはん)〉〈仏道成就〉とさえみなすようになった。…
…しかし諸外国でインド音楽という場合には,芸術音楽のみをさすのが現況である。その特徴は,和声的・多声的展開をもたない単旋律的音楽であることから,ドローンと呼ばれる持続基音が常に鳴らされることであり,旋律はラーガrāga(旋律型)と呼ばれる,楽曲ごとに固有な,厳格な規則に基づいた典型的な形式を守りながら即興で演奏される。リズム面の発達は著しく,ターラtālaと呼ばれる拍子は,やはり規則的な枠組みのなかで多様に変化する。…
… 南インドの理論では,7音音階をサプタ・スバラsapta svaraというが,実際には6音や5音の音階もあり,それらを包括する語はない。またすべてのラーガrāgaは,72種のメーラカルタmelakartaとよばれる7音音列に基づくと説明されている。このメーラカルタは,実際の旋律の中から,装飾的な要素や,旋律型にあたる要素を取り除いた,純粋に音列としての抽象的な音を,音高順に並べたものである。…
…古典サンスクリット文学の最後を飾る作品であると同時に,ベンガル地方に流行したビシュヌ派文学の先駆といわれている。この詩には各章ごとに音楽用語のターラtāla(拍子)とラーガrāga(旋律)の名が明示され,作者の音楽的知識をうかがわせるものがある。【田中 於菟弥】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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