改訂新版 世界大百科事典 「シギダチョウ」の意味・わかりやすい解説
シギダチョウ (鷸駝鳥)
tinamou
シギダチョウ目シギダチョウ科Tinamidaeの鳥の総称。この科は9属約46種を含み,メキシコ南部から南アメリカの南部まで分布する。全長20~54cm,体重450~2300g。ウズラ大からクロライチョウ大の大きさで,キジ科のシャコやホロホロチョウによく似た地上生の鳥だが,骨格的なものその他の特徴は走鳥類(とくにレア)に近い。しかし走鳥類と違って,シギダチョウは胸骨に竜骨突起をもち,飛ぶことができる。翼は短く丸く,尾は非常に短く,しばしば腰や上尾筒の下に隠れている。くちばしはウズラなどのくちばしよりは細長く,多少下に曲がっている。脚とあしゆびはよく発達していて長いがじょうぶではない。羽色はほとんどのものが黄褐色,褐色,または灰色に虫食い模様やさまざまな縞があり,隠ぺい色の役を果たしている。事実,シギダチョウは危険が迫ると,じっと立ち止まるか身をふせ,飛び立ったり走り出すのはよほどの場合である。しかし飛ぶときは,大きな羽音を立てて足もとから飛び立ち,一直線に飛んで近くのやぶの中に入る。
シギダチョウは中央アメリカにも5種が分布しているが,大部分の種は南アメリカにすみ,とくに熱帯南アメリカに多い。生息環境は,低地の熱帯多雨林や乾燥したパンパからアンデスの高地まで及ぶ。単独かつがいで生活し,大きな群れはつくらない。しかし,草原にすむカンムリシギダチョウEudromia elegansは100羽近くの群れをつくることがある。留鳥で,渡りはしない。食物は種子,果実,漿果(しようか)などの植物質を主とし,地上の昆虫類や小動物も食べる。ときにはネズミを食べることもある。
巣は木の根もとのくぼみにつくり,若干の葉を敷くか地面にじかに1腹1~12個の卵を産む。シギダチョウの卵は鳥の卵の中でもっとも美しいもので,殻の表面は磁器のような光沢があり,色は種によってチョコレート色,淡黒色,灰色,黄緑色,濃緑色,紫色などがある。雌雄の関係は一般の鳥とは逆で,営巣,抱卵,雛の世話はすべて雄だけで行い,雌は交尾と産卵をするだけである。一般に雌は雄より少し体が大きい。しかし,必ずしも一妻多夫ではなく,一夫一妻や一夫多妻の例も知られている。抱卵期間は比較的短く,19~22日。雛は孵化(ふか)した日から歩くことができる。
鳴声は数声の笛声か震え声で,繁殖期には昼も夜もよく鳴く。原住民は鳴声をまねて呼び寄せたり,わなでとらえて肉を食用とする。この鳥の肉は非常においしいといわれている。またキジやシャコのいない南アメリカではかっこうの猟鳥となっている。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報