日本大百科全書(ニッポニカ) 「シタビラメ」の意味・わかりやすい解説
シタビラメ
したびらめ / 舌鮃
tongue fish
sole
American sole
硬骨魚綱カレイ目のうち、ササウシノシタ科、ウシノシタ科およびアキルス科Achiridaeの総称。別名ウシノシタ。体が薄いので地方によりベタ、ゲタ、クツゾコともよばれる。世界の熱帯から温帯の各地に広く分布し、種類数は300に近い。カレイやヒラメ類より目が小さく、口が弱くて腹方へ曲がり、尾びれが退化的で小さく、背びれや臀(しり)びれと完全に結合するか、または著しく近接する。両眼が頭の右側にあるのがササウシノシタ科Soleidaeとアキルス科、左側にあるのがウシノシタ科Cynoglossidaeである。底生性で数百メートル以浅にすみ、熱帯では汽水域や淡水にいることもある。
夜間、海底にすむ小エビ類、カニ類、多毛類、二枚貝類、小魚などを食べる。嗅覚(きゅうかく)がよく発達し、獲物を探すのに大きな働きをしている。ウシノシタ科の多くの魚類では、側線が体の両側または片側に2、3本あり、低周波の音をよく聞き、これで外敵や獲物の動作を感知する。また、無眼側の頭部にある発達した触毛も重要な感覚器官である。餌(えさ)をみつけると、急に頭を持ち上げて、その裏側で獲物をたたきつけて砂泥とともに食べる。体から特殊な化学物質を出して捕食者から身を守る種や、有眼側の体を他物に吸着させる習性をもつ種もいる。産卵期は7月を中心に晩春から夏にわたるものと、9月を中心としてその前後に産卵するものとがある。おもに底引網や定置網によって秋から冬に漁獲される。日本でシタビラメとして食材に利用されているのはウシノシタ科の種である。
[落合 明・尼岡邦夫]
おもな種類
アキルス科の種は最大体長20センチメートルほどにしかならない小型種で、すべてアメリカ大陸両側の沿岸や淡水域にすむ。Achirus lineatusなど33種ほど知られているが、食品として利用されていない。大西洋のヨーロッパ側にいるササウシノシタ科のコモンソールSolea soleaは、高級魚としてヨーロッパで好まれ、近年ホンササウシノシタの名前で日本に輸入されている。
日本ではササウシノシタ科で19種、ウシノシタ科で20種がおり、多くは南部海域に生息する。ササウシノシタ科では、10センチメートルぐらいになるトビササウシノシタAseraggodes kobensis、ササウシノシタHeteromycteris japonica、黒褐色の縞(しま)模様をもったセトウシノシタPseudaesopia japonica、シマウシノシタZebrias zebrinusが各地で普通にみられる。サンゴ礁の砂底にはミナミウシノシタPardachirus pavoninus、テングウシノシタRhinosolea microlepidota、アマミウシノシタSynaptura marginataなどがすみ、ダイバーに撮影されることが多いが、この科の食品としての価値は低い。
ウシノシタ科では、全長30センチメートル以上になり、量的にまとまって漁獲されるものに、アカシタビラメCynoglossus joyneri、クロウシノシタParaplagusia japonica、イヌノシタC. robustus、オオシタビラメArelia bilineataがある。いずれも本州中部・南部地方の太平洋側や東シナ海に多く美味である。
[落合 明・尼岡邦夫]
食品
白身で味は淡泊である。一年中味はあまり変わらないが、とくに夏から秋にかけてがよい。用いるときは中形で肉の厚いものを選ぶ。とくに西洋料理に使われ、フランスでは珍重される。皮が堅いので、洋風に調理するときは、皮を手ではぎ取る。皮にぬめりが多くむきにくいので、ふきんでぬめりをとり、指先に塩をつけてむくとよい。フライ、ムニエルに向く。皮付きのまましょうゆと酒、またはみりんで煮つけると和風になる。煮魚を冬季ならそのまま、または冷蔵庫に入れると煮こごりができ、これを珍重する向きも多い。
[河野友美・大滝 緑]