日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャグマアミガサタケ」の意味・わかりやすい解説
シャグマアミガサタケ
しゃぐまあみがさたけ / 赭熊網笠茸
[学] Gyromitra esculenta (Pers.) Fr.
子嚢(しのう)菌類、チャワンタケ目ノボリリュウ科の猛毒キノコであるが、ヨーロッパでは食用にもする。高さ8~13センチメートルで、頭部と柄との2部に分かれるが、全体に中空である。頭部は径3~8センチメートルのこぶし大に膨らみ、表面は脳みそ状のしわを帯びて茶褐色ないし栗(くり)褐色。柄は下膨れの円柱状で白色。頭部の表面には子実層が発達し、子嚢胞子は16~20マイクロメートル×8~11マイクロメートルで楕円(だえん)形、無色。春になると針葉樹林内の地上に点々と発生する。北半球の温帯以北に広く分布するが、日本では少ない。
このキノコの毒成分は長い間ヘルベル酸と考えられていたが、いまではこれは無毒であることがわかり、実際の毒成分はジロミトリンと名づけられる物質であることが判明している。ジロミトリンは体内で加水分解されて毒性の強いモノメチルヒドラジンとなり、致命的毒成分になるわけである。しかし、ジロミトリンは煮沸または乾燥によって分解され無毒化するので、ヨーロッパなどでは熱を加えて食用とする。この毒成分は胞子中に多量に含まれるので、空中に放出された胞子が目に入ると目が冒される。なまのまま食べると数時間で発病、嘔吐(おうと)、下痢、頭痛をおこし、体内では赤血球が破壊され(溶血作用)、虚脱状態となり死に至る。日本には本種が少ないことと食べる習慣がないことから中毒例はないが、警戒を要する。
[今関六也]