翻訳|shirt
シャツは、大別すると次の二つの意味になる。(1)上半身につける肌着、下着類。(2)襟、袖(そで)がついた、前あきの上半身に着用する上衣。(2)の代表的なものは、男子のワイシャツ、女子のシャツウエストshirtwaist(ブラウス)などであるが、これから発展したスポーツシャツや遊び着としてデザインされたさまざまの上半身用衣服がある。さらに英語では、男子用寝巻であるナイトシャツnightshirtの意味もある。この多元性は、シャツの発展過程に起因している。
シャツの起源は古く古代オリエントにまでさかのぼる。なかでもアッシリアの、肌にぴったりとしたウール製のシャツはその典型を示している。また古代エジプトの、二枚重ねで着たチュニックの下側のものにその起源を求める説もある。古代ギリシア・ローマなどでは、内着と外着とを兼ねた1枚のチュニックが下着の役割を果たしていた。中世になり重ね着がおこると、独立した麻製の緩やかなシャツが登場し、内着と外着との概念が明確になった。中世のシャツは非常にシンプルな外形、大きな襟ぐりの亜麻(あま)製であった。その後、シャツは絶えず服の外形に呼応しながら変化し、中着としてのシャツが外着を引き立てるための重要な要素をもつものとして現れた。また、下層階級では、シャツ自体が外着化して、スモックsmockやブラウスblouseと混交していく傾向がみられた。
男子服が現代の形に近づく18世紀には、襟元や袖口の装飾が華麗になり、中衣としてのシャツにはレース、リボン、フリル、刺しゅうがふんだんに使われた。19世紀になると、男子服はほぼ現代の様式となり、簡素で清潔な襟元へと変化したが、シャツのプラストロンplastron(シャツの胸の部分)、カフス、カラーは取り外し可能なものであり、現代のワイシャツの形として整うのは20世紀初期である。
女子のシャツウエスト(ブラウス)は19世紀以降、男子服の影響を受けたテーラード・スーツが着用されるようになるとともに現れた。19世紀末期のギブソン・ガールGibson girlは、そのシャツウエストとカンカン帽で知られている。
20世紀の衣服の多様化、カジュアル化の傾向は、シャツについてのイメージをさらに広範なものとした。また、スポーツウエアの日常着化も、この傾向にいっそう拍車をかけている。スポーツシャツや遊び着としてデザインされ、さまざまな生地(きじ)を用いてつくられるシャツは、かつてない広い範囲のものまでを含むようになった。シャツの外衣化傾向も著しい。今日では、シャツ的上着、ジャケット的なシャツなどが容認されようとしており、かつての肌着であったTシャツは、すでに外衣として受け入れられている。
なお、フランス語では、シュミーズchemiseがシャツに呼応する語である。
[深井晃子]
『セシル・サンローラン著、深井晃子訳『女性下着の歴史』(1989・エディション・ワコール)』▽『YarwoodEncyclopedia of World Costume(1978, Anchor Press, London)』
上半身に着る衣服で,肌着,肌着と上着の間に着る中着,上着の3種類のシャツがある。シャツの歴史はその性格から衣服の発生にまでさかのぼる。しかし現代的な意味でのシャツが成立したのは,ルネサンス期からの上着の装飾としてのシャツ,18世紀からの南イタリアや南ヨーロッパなど温暖な地方での,家庭着や戸外労働着として男女に用いられたシャツからと考えられる。19世紀までは,人まえでは絶対に上着を脱がないのが紳士のエチケットであった。スーツに合わせるシャツが白を基準としているのも,それが清潔さの象徴であるからであろう。上着が直接肌にふれるのを避け,ざっくりとしてかたい感じの上着の生地と対照的な感触の綿,麻,絹などの生地が機能性だけではなく,とりあわせの効果をも生み出す大きな要素となっている。
肌着としてのシャツは長袖,七分袖,半袖,袖なしがあり,ほとんどがかぶり式になっていて,伸縮性に富んだメリヤス編の綿が多用されている。中着としてのシャツは礼装用のフォーマル・シャツ,スーツやジャケットに合わせるドレス・シャツ,ジャンパーやアウター・ウェアに合わせたり,それ自体を上着的に着ることも可能なスポーツ・シャツがある。フォーマル・シャツは衿が取りはずせるセパレート・カラー形式になったものが中心で,その衿型はウィング・カラーが大部分である。タキシード用のフォーマル・シャツは胸の部分にひだ飾がつけられたり,のりで固くした〈いか胸〉と呼ばれるシャツが使われるが,これはベストではなくカマーバンドを着けるためである。ドレス・シャツも1930年代まではセパレート・カラーが中心になっていたが,それ以後は簡略型の縫付け衿が用いられ,第2次世界大戦後はこれが主流になり現在に及んでいる。スポーツ・シャツは中着,上着両方に着用できる,布帛(ふはく)を素材にしたもので,同様の機能と用途をもったニット製のポロシャツやTシャツなどはニット・シャツとして区別している。シャツの流行は色柄だけではなく衿型に多く見られ,衿型の変型を網羅すると,200種類以上が記録されるほどである。なお今日,日本では女性の着るゆったりしたシャツをブラウス,男性のシャツの影響を受けたものをシャツまたはシャツ・ブラウスと呼んでいる。
執筆者:高山 能一
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