日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジェリコー」の意味・わかりやすい解説
ジェリコー
じぇりこー
Jean Louis Théodore Géricault
(1791―1824)
フランスの画家。夭折(ようせつ)ではあったが傑出した才能を示し、とくにロマン派絵画の烽火(ほうか)となった『メデューズ号の筏(いかだ)』で名高い。ルーアンに生まれる。カルル・ベルネ、ついでゲランの画室(ここにドラクロワも学んだ)に学ぶ。ダビッド風の古典主義の規範の一方で、少年期より馬に傾けた彼の熱情は、動きへの正確な観察へと彼を駆り立て、また当時ローマのボルゲーゼ宮からもたらされた所蔵品などによって、ティツィアーノやルーベンスの描法にも多くを学んでいる。その成果は、1812年のサロンへのデビュー作『軽騎兵士官』(ルーブル美術館)となって現れ、金賞を得る。16~17年、ローマ、フィレンツェに遊学。ミケランジェロやバロック様式を学び、また他方でラファエッロをも学ぶ。帰国後は、文学的主題ではなく同時代の主題にバロック的、ロマン派的な情熱と大きさを与えることを求め、その成果が19年のサロンへの『メデューズ号の筏』出品となる。彼は同時代の現実の悲劇、対角線構図、明暗の対照、病院で数多く試みた死体の素描に裏づけられた現実性などにより、一つのエポックをつくった。20~21年ロンドンに滞在。落馬事故でパリに没した。
[中山公男]