日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲラン」の意味・わかりやすい解説
ゲラン(Daniel Guérin)
げらん
Daniel Guérin
(1904―1988)
フランスの政治思想家。5月19日パリに生まれる。リセ卒業後、政治学を学び、さまざまな職業を経たのち、文学、ジャーナリズムの分野で活躍する。1930年社会党に入党したが翌1931年脱退、反ファシズム運動を組織した。1935年社会党に復党したが、1938年にふたたび脱退し、M・ピベールMarceau Pivert(1895―1958)と社会主義労農党を結成した。アナキズムの系譜にたちながら、広い学識と鋭い現実感覚によってマルクス主義、トロツキズムをも包摂し、絶対的自由libertaireの立場を貫いている。『褐色のペスト』La Peste brune a passé là(1933)、『人民戦線』Front populaire: Révolution manquée(1963)、『現代のアナキズム』L'Anarchisme(1965)、『第一共和政下の階級闘争』La lutte de classes sous la première républiqueなど、ファシズム、人民戦線、アナキズム、フランス革命などについて多くの著書がある。
[瓜生洋一]
『江口幹訳『現代アナキズムの論理』(三一新書)』▽『村上公敏訳『革命的自然発生』(1976・風媒社)』
ゲラン(Maurice de Guérin)
げらん
Maurice de Guérin
(1810―1839)
フランスの詩人。南フランス、タルン県ル・ケーラの生まれ。1832年12月ブルターニュのラムネの塾に入り、その師や友との切磋琢磨(せっさたくま)の生活は『緑の手帖(てちょう)』と題された美しい日記と手紙に記録された。『サントール』は半人半馬のギリシアの神の世界を描いて鮮やかに生動する散文詩で、平田禿木(とくぼく)に邦訳がある。姉ウージェニーとともにマシュー・アーノルドの手でイギリスに紹介され、リルケの手で独訳された。堀辰雄(たつお)に「モオリス・ド・ゲランと姉ユウジェニイ」の一文がある。モーリスはパリで中学教師などを務めたが病気になり、故郷へ戻って29歳で姉に先だち夭逝(ようせい)した。
[平川祐弘]
『窪田般彌訳『世界名詩集大成2 サントール』(1960・平凡社)』▽『平川祐弘「モリス・ド・ゲラン」(『比較文学研究』1957年第1巻第1号所収・東大比較文学会)』
ゲラン(Charles Guérin)
げらん
Charles Guérin
(1873―1907)
フランスの詩人。リュネビルに生まれる。ワーグナーの音楽にひかれてドイツを旅したほかは、一生をこの町で過ごした。後期象徴派の詩人グループと交わり、敬虔(けいけん)な宗教的感情と肉欲の苦痛を歌った格調高い詩作を発表。新鮮な叙情性をもつカトリック詩人として注目されたが、33歳で早逝。代表作は『孤独な心』『灰をまく人』。永井荷風の『珊瑚(さんご)集』に3編の訳詩が収録されている。
[及川 茂]
ゲラン(Eugénie de Guérin)
げらん
Eugénie de Guérin
(1805―1848)
フランスの女流文学者。南フランス、タルン県ル・ケーラの城館に貧しい貴族の娘として生まれた。終生独身で、弟の詩人モーリス・ド・ゲランを亡母にかわり愛し育てた。彼女の日記(死後出版)は堀辰雄(たつお)の手で一部邦訳されているが、内面派の貴重な記録である。1839年に弟が死んだのちも、「これもまた彼、逝(ゆ)けるモーリス、天上にあるモーリス」のために日記を書き続けた。
[平川祐弘]