改訂新版 世界大百科事典 「キュウチュウ」の意味・わかりやすい解説
キュウチュウ (吸虫)
fluke
扁形動物門吸虫綱Trematodaに属する動物の総称。体は通常扁平で,葉状,舌状,または篦(へら)状であるが,ときにセンチュウ(線虫)を思わせるような円筒形のものや,体部が厚く,固定するとコーヒー豆状を呈するものもある。吸虫綱は,さらに単世類,楯吸虫類,二世類の3亜綱に分けられるが,これらはすべて寄生生活を営む。前2者には,魚類,爬虫類,両生類あるいは軟体動物などに寄生するものが含まれ,人体寄生をする医学上重要な種類はすべて二世類に含まれる。二世類の多くは口吸盤と腹吸盤をもっているが,後者も口のように見えるところから,キュウチュウのことを俗にジストマdistoma(〈二つの口〉の意)ともいう。体表は薄い角質で覆われ,小棘(しようきよく),またはいぼ状の小隆起がみられる。角皮下には基底膜,角皮下細胞,筋層があり,さらにその内部に諸器官を支持する柔組織(体肉ともいう)がある。神経系は未発達であるが,消化管や生殖器はよく発達している。口腔は通常口吸盤内にあり,咽頭,食道を経て,左右に分岐した腸管に連なる。腸管は一般に単管状で盲管に終わり,ふつう肛門はみられない。ただし,種類によっては,腸管が樹枝状に分岐するもの,2本の腸管が途中で1本になり盲管に終わるもの,あるいはそれが肛門に開くものなどがある。排出系は焰(ほのお)細胞に始まるが,焰細胞という名はその繊毛が火炎状に揺れるのに由来する。この細胞は体肉内にあって,体液中の代謝産物を分離して毛細管に排出する働きをする。毛細管は集合管となり,体の後部にある排出囊に集まる。そして,代謝産物は排出口から体外に排出される。幼虫期には,排出系の配列(焰細胞式で表現される)および排出囊の形は,分類学上たいせつである。生殖系は,ジュウケツキュウチュウ(住血吸虫)類を除き雌雄同体で,1個体に雌雄両生殖器を備えている。卵巣で形成された卵細胞は輸卵管を通って卵形成腔に運ばれ,ここで受精と卵殻形成が行われる。受精卵は子宮内に送り出され,生殖孔から産下される。
二世類の生活史は複雑で,有性生殖と無性生殖の世代交番を行い,その際宿主を転換する。すなわち,成虫から生み出された虫卵は,卵殻内にミラキジウムという幼虫を生じ,これが中間宿主の軟体動物(主として淡水産の巻貝)に侵入して,スポロキストになる。スポロキストは胚細胞で満たされている。これらの胚細胞は分化発育して,ジュウケツキュウチュウ類では娘スポロキストが形成され,その中にケルカリア(セルカリア)が生じるが,ハイキュウチュウやカンキュウチュウではスポロキストの中に母レジアが形成され,さらに娘レジアを経てケルカリアを生じる。ジュウケツキュウチュウ類では,ケルカリアが直接終宿主(脊椎動物)に侵入して成虫となるが,他の種では,さらに第2中間宿主(節足動物あるいは下等の脊椎動物)に侵入してメタケルカリアとなり,これが終宿主に摂取されて成虫となり,有性生殖を営むのである。人体寄生性の二世類として,プラギオルキス目(ハイキュウチュウなど),棘口吸虫目(キョクコウキュウチュウ,カンテツなど),有襞吸虫目(ジュウケツキュウチュウなど),後睾吸虫目(カンキュウチュウなど)に重要なものがある。
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報