ステレオ放送(読み)すてれおほうそう(英語表記)stereophonic broadcasting

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ステレオ放送」の意味・わかりやすい解説

ステレオ放送
すてれおほうそう
stereophonic broadcasting

二つまたはそれ以上のチャンネルを使って立体感、臨場感のある音を再現する放送。立体放送ともいう。日本では1952年(昭和27)にNHKで、中波ラジオの第1、第2放送を同時に使って左右の音をそれぞれ放送したのが始まりであるが、1963年にFM周波数変調)によるマルチプレックス・ステレオ放送が開始されるに及び、これにとってかわった。現在実施されているFMステレオ放送の主チャンネルでは、従来のFMモノホニック放送との両立性を保つため、左(L)の音と右(R)の音の和(L+R)を、副チャンネルではその差(L-R)を送っている。副チャンネルの信号は、38キロヘルツの副搬送波振幅変調して得ているが、FM放送全体の占有帯域幅の節約を目的にこの副搬送波を抑圧し、そのかわり受信機での復調のため19キロヘルツのパイロット信号を付加している。FMステレオ放送の電波は、このようなスペクトル構成の信号によってVHF帯の搬送波を周波数変調したもので、AM-FM方式とよばれている。

 また、日本では世界に先駆けて1978年からテレビジョン音声多重放送が実用化されており、ステレオ放送や2か国語放送が行われている。テレビ音声多重の方式は、AM-FM方式と異なり、主チャンネル信号より高い周波数帯に31.5キロヘルツの副搬送波を置き、これを副チャンネルの信号で周波数変調している。さらに、このようなスペクトルをもって信号全体でテレビ音声搬送波を周波数変調しており、FM-FM方式とよばれている。ステレオ放送の場合は、FMステレオと同様に主チャンネルに左と右の音の和を、副チャンネルに左と右の音の差を送り、音声多重の受信できないテレビとの両立性をとっているが、2か国語放送の場合には主チャンネルに日本語、副チャンネルに外国語を送る。したがって、ステレオ放送と2か国語放送の場合とでは、受信回路(マトリックス回路)の構成を変えなければならないが、これは放送電波に付加したパイロット信号により自動的に行っている。また、2003年(平成15)12月から開始されたテレビのデジタル放送では、ステレオ放送はもちろんであるが、5.1チャンネル・サラウンド放送も行われている。なお、先行してアメリカなどで行われていたラジオのAMステレオ放送は日本では1992年(平成4)3月に開始された。中波の伝搬特性からサービスエリアが広い特長があり、注目された。しかし、実際にはNHKがさまざまの事情で参加を見送り、参加したのは民放FM局をもたない県にある民放AM局十数局にとどまった。AMステレオ放送は、NHKが参加を見送ったこと、放送設備に多額の経費が必要になること、対応するラジオ受信機が高価で普及が進まないこと、などが発展障害となった。その結果、参加した民放AM局もモノホニック放送への切り替えが相次ぎ、実施局は減少している。

木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]


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