1本の伝送路で複数の通信を伝送すること。例えば,東京と大阪といった大都市の間には,いつも多数の通信要求が存在する。このとき,通信需要を満たすに十分な対の通信線を設けたのでは,一回線当りの単価が非常に高額なものとなり,経済的に成り立たない。そこで,1本の通信ケーブル,あるいは一つのマイクロ回線などを用いて多数の通信路を構成する技術が考案された。これが現在広く用いられている多重通信方式である。多重通信方式には,周波数分割多重frequency division multiplexing(FDM)通信方式と時分割多重time division multiplexing(TDM)通信方式とがあり,伝送路および中継機器類を多重に使用することにより,一回線当りのコストを大幅に軽減している。以下,電話の場合の単純化した例について,これらの多重通信方式の原理を述べる。
電話では,0.3kHzから3.4kHzの間の音声信号を伝送すれば,通話者の確認,通話の明りょう性などの点で十分な通話品質の得られることがわかっている。そこで,電話1チャンネル分として,4kHzの周波数帯域を割り当て,多数の電話音声を周波数軸上で互いに重ならないように並べて一つの信号とし,一つの広帯域伝送路を用いて伝送する方式が周波数分割多重通信方式である。各電話信号をそれぞれ所定の周波数帯に移動させるには,各種の変調を用いることができるが,周波数分割多重通信においては,与えられた周波数帯域の中により多くの信号を多重化することが目標となるため,電話ではこれに最適な単側波帯振幅変調(SSB-AM)方式が用いられている。図1に示すように,電話に用いられる周波数分割多重化装置は,SSB-AM変調器とその出力信号を加え合わせる加算器とから構成される。SSB-AM変調器は,図2に示すように正弦波搬送波発振回路と,搬送波と被変調波(電話音声信号)とを掛算する平衡変調回路,そして所定の周波数成分だけを通過させるフィルターとからなる。0~4kHzの範囲内の周波数成分を有する音声信号sn(t)は,リング変調器などの平衡変調器でfn(kHz)の正弦波搬送波を乗じられると,fn-4~fnkHzまでの下側波帯とfn~fn+4kHzまでの上側波帯とをもつ搬送波抑圧両側波帯信号xn(t)に変換される。SSB-AM信号yn(t)は,両側波帯の一方(図の例では上側波帯)を帯域通過フィルターで取り出すことによって得られる。フィルターは,ある特定の周波数成分,例えば,fn~fn+4kHzだけを通し,それ以外の周波数成分を阻止する共振回路であり,電気的共振を利用したLCフィルターや,機械的共振を用いたメカニカルフィルター,水晶フィルターなどが代表的である。
周波数分割多重信号の復調は,多重化とまったく逆の過程で行われる。図3に復調回路の基本的構成を示している。周波数分割多重された信号z(t)は,多重化の際用いたのと同一の帯域通過フィルターに加えられ,特定の,例えばn番目の電話信号の単側波帯yn(t)が取り出される。次に,この信号は変調するときに用いたのと同じ搬送波を乗じられて同期復調され,0~4kHzと2fn~2fn+4kHzの帯域に周波数スペクトルが移動される。最後に,この信号は0~4kHzを通過帯域とする低域通過フィルターに加えられ,もとの音声信号sn(t)が得られる。なお,復調に用いる局部発振信号は,変調の際に用いた搬送波と周波数および位相が同一でないと復調ひずみを生ずる。したがって,変復調に用いる搬送波には,非常に精度の高いものが要求される。
現在,電話の周波数分割多重化方式では,電話12チャンネルを多重化した群と呼ばれる束を基本単位とし,さらにそれを多段に多重化していくつかの束を構成し,これらを一つの伝送路を用いて伝送している。このように,多重化は何段階にもわたって行うのがふつうである。それは,(1)搬送波周波数が高くなると,電話1チャンネルの単側波帯を取り出す狭帯域フィルターの製作が困難になる,(2)何種類かの単位の通話路束を作っておくと,全チャンネル中の一部を分離したり付加したりするのに便利であることなどの理由による。
f0Hz以上の周波数成分をもたない帯域制限信号x(t)においては,x(t)そのものを伝送する代わりに,T0=1/(2f0)秒ごとの標本値x(nT0)(n=-∞~∞)を伝送してやれば,これを遮断周波数f0Hzの低域通過フィルターに順次通すことによって,もとの信号x(t)を再現することができる(図4)。これは,帯域制限信号の標本化定理として知られている。したがって,0.3~3.4kHzの帯域を有する電話信号においては,例えば2f0=8kHz(T0=125μs)で標本化した標本値を伝送することによって通信が可能である。このように,連続信号を標本化し,その標本値をパルスの振幅(高さ)として伝送する方式は,パルス振幅変調pulse amplitude modulation(PAM)方式と呼ばれ,パルス変調方式の代表的なものである。時分割多重化の基本的な考え方は,多数の信号の標本値列を時間的に互いに重ならないように配置して,一つの伝送路を介して同時に伝送しようとするものである。図5は,チャンネル数を3とした場合のPAM時分割多重化方式の原理的構成を示している。時分割多重化方式では,送信側と受信側のスイッチ(図5のS1,S2)の同期がとれていることがたいせつであり,この同期が崩れると正しいチャンネルの対応がとれない。したがって,実用に際しては,T0(125μs)秒ごとに同期用のパルスを挿入するといったくふうが必要である。
以上は,PAM信号による時分割多重化の考え方であるが,他のパルス変調方式を用いた多重化も可能である。実用的に重要な方式は,パルス符号変調pulse code modulation(PCM)された信号による時分割多重通信である。PCM方式は,信号の標本値(PAM信号)を一定桁数の二進数で表し,各桁の数値(0あるいは1)を順次伝送する方式であって,具体的には,1,0をパルスの有無として伝送するのがふつうである。PCM方式の特徴は,パルスの有無を判定することで復調ができるため,他の伝送方式に比べて雑音妨害に強いという点にある。このため,電話などの時分割多重通信は,もっぱらPCM方式によっている。PCM信号とPAM信号とは,PCM符号器,PCM復号器によって相互に変換することができるから,PCM時分割多重化方式の原理的構成は,図5において,各標本化装置の直後にPCM符号器を,また各復調用低域通過フィルターの直前にPCM復号器を挿入することによって得られる。PCM時分割多重化方式の一例として,PCM-24方式のフレーム構成を図6に示す。これは,電話24チャンネルの多重化方式であり,チャンネル1から24までのPCM符号が配列された一周期をフレームという。1フレーム中の各チャンネルには,それぞれ8ビットが割り当てられており,この例では,1ビットがダイヤル信号用に,残りの7ビットが音声信号用に用いられている。また,フレームの最後には,1,0を交互に繰り返すフレーム同期パルスが挿入されており,1フレームは,8×24+1=193タイムスロットで構成されている。時分割多重化方式においても,周波数分割多重化方式の場合と同様に,多段の多重化が行われ,1次群から5次群までの階梯がある。これらは,それぞれ電話24チャンネル,96チャンネル,480チャンネル,1440チャンネル,5760チャンネルに相当する。
執筆者:辻井 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一つの伝送媒体を用いて多数の信号を同時に伝送すること。高価な伝送媒体を有効に利用し、経済的に信号の伝送を行うことができる。多重化の方法としては、周波数分割多重frequency division multiplex(FDM)、時分割多重time division multiplex(TDM)および符号分割多重code division multiplex(CDM)の三つがおもな方法である。いずれの方法によっても多重数を増すには、広帯域あるいは高速の伝送が必要となる。
[坪井 了・三木哲也]
多数の信号それぞれに定まった周波数帯域を割り当て、それらを一つの伝送媒体の周波数軸上に順序よく並べることにより実現する。このためにはすこしずつ周波数をずらした搬送波を使ってそれぞれの搬送波を個別の信号で変調し、変調された搬送波の周波数帯が互いに重畳することのないようにして、一つの伝送路で多数の信号を同時に伝送する。周波数分割多重通信は、電話ネットワークがデジタル化される1990年代まで多重電話回線に広く使われており、もっとも多重数の多い例として同軸ケーブルを用いたC-60M方式があり、1本の同軸ケーブルにより1万0800回線の伝送容量を実現していた。現在使われている周波数分割多重の代表的な例は、同軸ケーブルや光ファイバーケーブルを用いたケーブルテレビであり、100回線程度のテレビ信号を同時に伝送している。
[坪井 了・三木哲也]
同一の伝送媒体を用いて複数の信号を別々の時間に伝送する方法である。デジタル信号の代表的な多重通信の方法であり、通常は8ビット(1バイト)の符号列を1単位として時間的にすこしずつずらして周期的に伝送し、受信側ではそれを逆に時間的に8ビットずつ分離することにより、元のデジタル信号を得る。受信側で、多重したときの時間位置を正しく知るには、時間軸上の目印が必要であり、多重が1巡する周期時間が定まっている必要がある。現在のデジタルネットワークでは、周期時間は125マイクロ秒である。この周期のスタートを示す時間軸上の目印をフレーム同期信号といい、特別な符号列を用いて識別している。
時分割多重通信の代表例としては光ファイバーケーブルを用いたF-10G方式があり、1本の光ファイバーケーブルで10ギガビット(電話換算で約13万回線)の伝送容量を実現している。
[坪井 了・三木哲也]
デジタル通信の情報データ送受信において、データ速度の数倍から数十倍の速度の符号パターンで符号化して、同一の無線周波数帯を用いて多重通信を行う方法である。端末ごとに使用する符号パターンに特徴があり、相互に直交(任意の二つの符号パターンを乗算したとき0になること)する符号パターンを用いることで、端末ごとに分離して目的とするデータの送受信を行うことができる。
多重化数は直交する符号パターンの数で決まるので、基本的にはNビットの符号パターンを用いると、所要周波数帯域はN倍になり、多重数はNとなるので、周波数利用効率は時分割多重と同等である。現実にはすべての端末がいつも同時にデータの送受信をしているわけではないので、周波数利用効率をあげることが可能であり、携帯電話の基地局と端末間の通信に広く用いられている。
[三木哲也]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…この高周波信号を使って通信を行うわけである。日本においては,電波法により電力線搬送の送信出力は10W以下,使用周波数は10~450kHzの範囲と決められており,この範囲で3通話路,6通話路,12通話路などの多重通信路が構成されている。 電力会社においては,通信の必要は送電線の端末相互内に生ずることが多いので,電力線搬送を利用すると便利である。…
※「多重通信」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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