日本大百科全書(ニッポニカ) 「スライファー」の意味・わかりやすい解説
スライファー
すらいふぁー
Vesto Melvin Slipher
(1875―1969)
アメリカの天文学者。インディアナ州マルベリーで生まれる。1901年にインディアナ大学卒業後、すぐにローウェル天文台に入り、以後同天文台で研究を続け、1926年から1952年まで台長を務めた。
分光学の手法を用いて、金星、火星、木星、土星、天王星のそれぞれを取り巻いている気体の層(大気)を分光的に観測して自転周期を求めたり、木星、土星の大気にメタンやアンモニアが存在することなどを示した。またプレヤデスの拡散星雲が周りの星と同じスペクトルをもつことから、これは反射星雲であることを示した。それらの観測により、星と地球の間に星間ガスが存在することをつきとめた。彼のもっとも重要な貢献は1912年に発表された渦巻星雲(渦状銀河)の自転の検出と大きな後退速度(赤方偏移)の発見である。当時はまだ渦巻星雲が銀河系内の天体であるかどうかが議論になっている時期で、大きな後退速度の発見により渦巻星雲のいくつかは明らかに銀河系外の天体であることが判明した。これらの観測はハッブルが膨張宇宙を提案する際の前提になっている。また、台長のときにトンボーの冥王(めいおう)星の発見を指導したことでも知られる。
[編集部 2023年6月19日]