天体の運動速度の視線方向(観測者と天体を結ぶ直線方向)成分をいい,遠ざかる場合を正,近づく場合は負で表す。天体を分光観測して,波長λのスペクトル線のドップラー効果によるずれ⊿λを測ると,光速の⊿λ/λ倍が視線速度である。ずれは天体のスペクトルといっしょに放電管の輝線スペクトルなどを測定して求める。固有運動とともに天体の空間運動の観測量の一つだが,固有運動が長時間を隔てた2回の位置観測によるのと異なり,1回の観測で求まる。距離によらない絶対値という特徴がある。観測は従来写真的に行われ,ウィルソンR.E.WilsonやアプトH.A.Abtのカタログがある。近年はグリフィンR.F.Griffinの開発した光電観測が広まりつつあり,より早く,よりよい値が得られてきた。精度はほぼ分光器の分散度で決まる。太陽近傍の星の視線速度は一般に小さいが,なかに100km/sをこす星がある。高速度星と呼ばれ,銀河系中心に対して楕円軌道をもつ種族Ⅱの星などである。星団周辺で星の星団への帰属を知るのにも使われる。固有運動との一致は悪くないが,相補的な面も大きい。短周期変光星の大気の膨張収縮なども観測可能である。連星系の観測は重要なもので,視線速度の変化(速度曲線)を調べ,振幅から主星・伴星の質量比を出すことができる。変光曲線の結果と組み合わせて星の幾何的諸量を精度よく決められる。銀河に属する星を観測して,銀河の回転を調べたり,遠方の銀河の赤方偏移を測って距離を推定するのにも使われる。
執筆者:近藤 雅之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
観測者から天体へ結ぶ直線を視線という。天体は空間を運動しているが、その速度のうち、視線方向の成分(動きの速さ)を視線速度とよぶ。簡単にいえば、天体が観測者から遠ざかる、または観測者へ近づくときの速度である。視線速度は、天体から発する光のドップラー効果を利用して求める。天体の光のスペクトルを観測すると多くのスペクトル線が見られる。天体が観測者に対して視線方向に運動しているときは、スペクトル線の波長は静止しているときの波長からずれる。これがドップラー効果で、そのずれΔλは視線速度の大きさvに比例し、遠ざかるときは波長の長いほうへ(つまり赤いほうへ、このときΔλ>0)、近づくときは短いほうへ(紫のほうへ、Δλ<0)ずれる。これらのことからΔλを測ってvを求めるのであるが、式で書くとv=(Δλ/λ)c。ここでλはそのスペクトル線の静止時の波長、cは光速度。vは遠ざかるときをプラス、近づくときをマイナスとする。
[大脇直明]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…
[恒星のスペクトル]
回折格子などの分光装置を用いて星のスペクトルを分析することによって得られる情報量はきわめて多い。ドップラー効果によってスペクトル線は星が近づくときは短波長側へ,遠ざかるときは長波長側へ固有の波長から少しずれて観測されるから,これを測って星と太陽との相対運動の視線方向の成分〈視線速度〉を求めることができる。視線速度とそれに垂直な固有運動の速度成分とを合わせて星の空間運動が決まる。…
…オーストリアのC.J.ドップラーは〈ドップラー効果〉の発見者として知られているが,この理論によって暗線の〈ずれ〉を観測して,星が観測者から遠ざかるか,あるいは近づくかを知ることができた。すなわち恒星の〈視線速度〉の発見である。現在では回折格子,干渉板,フーリエ分光装置などの分光器を望遠鏡につけて星の分光写真をとることによって,その物理的性質の研究が進められている。…
※「視線速度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新