デジタル大辞泉 「海王星」の意味・読み・例文・類語
かいおう‐せい〔カイワウ‐〕【海王星】
[補説](命名された衛星)トリトン、ネレイド、ナイアッド、タラッサ、デスピナ、ガラテア、ラリッサ、プロテウス、ハリメデ、プサマテ、サオ、ラオメデイア、ネソ、ヒッポカンプ
[類語]太陽系・水星・金星・明星・明けの明星・宵の明星・地球・火星・木星・土星・天王星
翻訳|Neptune
基本情報
軌道半長径=30.1104天文単位
離心率=0.0090
軌道傾斜=1°.770
太陽からの距離 最小=44.64×108km 平均=45.04×108km 最大=45.44×108km
公転周期=164.82年
平均軌道速度=5.44km/s
会合周期=367.5日
赤道半径=2万4764km
体積=58(地球=1)
質量=17.15(地球=1)
平均密度=1.58g/cm3
自転周期=0.664日
赤道傾斜角=27°.8
アルベド=0.41
極大光度=+7.8等
赤道重力=1.11(地球=1)
脱出速度=23.49km/s
太陽系の第8惑星。1846年,ベルリン天文台のJ.G.ガレによって発見されたが,その発見は天体力学の正確さと有効性を実証したものとして有名である。1781年,F.W.ハーシェルによって天王星が発見されると,おりからP.S.ラプラスが展開した天体力学の理論による計算と位置観測の結果が詳しく照合された。天王星は比較的明るいため,その観測は1690年にさかのぼることができ,木星や土星の摂動を考慮した正確な運行表が作成できた。しかし,理論と観測の食違いは1845年には角度の2′をこえ,とても許容できるものではなくなった。1843年,ゲッティンゲン王立科学協会がこの問題に賞金を出すと発表したのに応じて,イギリスのJ.C.アダムズとフランスのU.J.J.ルベリエは独立に研究を開始し,天王星の外側に未知の惑星が存在し,これが天王星の運動を乱しているという仮定のもとに未知の惑星の位置を計算した。イギリスではケンブリッジ天文台のチャリスJ.Challis(1803-82)が捜索にあたったが,詳しい星図がなかったために観測は難航した。一方,ベルリン天文台のガレは,46年9月23日ルベリエの手紙を受けとると,作成されたばかりの星図をもとに捜索を行い,30分とたたないうちに予報と52′ずれた位置に星図にない8等星を発見した。後にチャリスも8月にこの星を観測していることがわかり,さらに近年になってG.ガリレイが1612年木星の衛星とともに観測していることも知られた。
半径や質量が天王星に近い値をもっていることから,天王星と似た惑星であることが推定されるが,平均密度が天王星より大きいということは内部に重い物質が多いことを意味する。大気は木星と同様,水素,ヘリウムを主成分とし,メタンなどの炭化水素を含んでいる。1989年8月25日,アメリカの惑星探査機ボエジャー2号がその表面から4900kmのところを通過して,海王星とその衛星の観測を行った。メタンによる赤色光の吸収のため,全体に青い色を帯びており,そこにメタンなど炭化水素の氷でできた白い雲が浮かんでいる。南緯20°付近に大きさが地球の半分くらいもある大黒斑があり,天王星よりも大気活動が活発である。白い雲には影が伴っていることから,雲は上層にあり大気が比較的透明であることがわかる。下層には硫化水素の凍った厚い雲があると推定される。大黒斑の自転周期は0.76日で本体よりかなり長く,これは木星の大赤斑の自転周期が本体より短いのと逆であって,この付近では自転と逆向きの風が吹いていて,その速度は時速1100kmに達する。有効温度は-214℃でより太陽に近い天王星とほぼ等しいが,これも大気がより透明で深いところの温度を測っていることの反映にほかならない。表面での磁場は1ガウス以下で,磁極は自転軸と47°も傾いており,しかも中心と半径の約半分も離れたところを通っているが,これは天王星ときわめてよく似ている。
トリトンとネレイドという2個の衛星が知られていたが,このほかボエジャー2号はトリトンの内側に6個の衛星を発見した。またきわめて淡い5重の環をもっている。なお,その名称はギリシア神話の海神ポセイドン(ラテン名ネプトゥヌス)に由来する。
執筆者:田中 済
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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太陽系の内側から数えて8番目の大惑星。1781年に天王星が発見されたあと、天王星の運動が研究されたが、予測と観測値の間にしだいに大きなずれが生じてきた。これは、天王星の外側にさらに未知の惑星があって、その引力が天王星の運動に影響を及ぼしているのではないかと考えられた。イギリスのアダムズとフランスのルベリエはこの考えのもとに研究を進め、それぞれ独立に未知惑星の予測位置を求めたが、ルベリエの予測に従ってベルリン大学のガルレはただちに観測を行い、1846年9月23日にその新惑星を発見した。
海王星の太陽からの平均距離は30.1104天文単位、すなわち45億0440万キロメートルほどで、公転周期は164.774年である。地球から見た明るさはもっとも明るいときで7.8等星なので、望遠鏡がないと見ることができない。視半径は1.17秒で、大望遠鏡でも小さな青みがかった球に見えるだけで、表面の模様などはほとんどわからない。
実際の直径は4万9528キロメートルで、地球の約4倍、天王星よりわずかに小さいが、質量は地球の17.15倍で天王星より少し大きい。密度は1.64と小さく、木星型の惑星に属する。自転周期は16.1時間、赤道傾斜角は27.8度である。
海王星の内部構造は理論的に3層からなると考えられ、中心にはおもに鉄やケイ素からなる核があり、その周りには水やメタンやアンモニアの液体でできたマントルがあり、最上部を水素やヘリウムのガスが厚く覆っていると思われる。大気のスペクトル観測では水素やメタンが観測されているが、アンモニアがみいだされないのは液体となって深く沈降しているためと思われる。表面温度は零下220℃ほどと求められているが、中心の温度はおよそ7000℃と推定されている。
海王星には複数の衛星があるが、ここでは1846年にラッセルが発見したトリトンTriton、1949年にカイパーが発見したネレイドNereidについて述べる。トリトンは直径約2700キロメートルの大衛星で、海王星から平均35万5000キロメートルほどのところを5.8768日で公転している。この衛星の軌道面は海王星の軌道面と約160度も傾いており、いわゆる逆行衛星であるが、このような大衛星が逆回りをしているのは他に例がない。ネレイドは直径340キロメートルくらいの小さな衛星で、海王星からの平均距離は556万キロメートルであるが、離心率が0.75という非常に細長い楕円(だえん)軌道で、359.9日の周期で順行(軌道傾斜6.7度)の公転をしている。このほかに1989年アメリカの惑星探査機ボイジャー2号が六つ(ナイアドNaiad、タラッサThalassa、デスポイナDespina、ガラテアGalatea、ラリッサLarissa、プロテウスProteus)、2003年アメリカのハーバード・スミソニアン宇宙物理学センターとカナダ国家研究会議が地上望遠鏡で三つの衛星を発見している。
[村山定男]
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(土佐誠 東北大学教授 / 2007年)
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…しかし観測が行われぬまま,その翌年にフランスのU.J.J.ルベリエが同様の計算を行い,未知惑星の捜索をベルリン天文台のJ.G.ガレに依頼した。そして推算位置の近くに海王星が発見されたのである。アダムズの推算位置もほとんどルベリエと同じであったため,新惑星発見の功績をめぐってイギリス,フランス間に論争が起こったが,結局,アダムズ,ルベリエ,ガレの3者で栄誉を分け合うことになった。…
…1833年にベルリン大学を卒業して35年にベルリン天文台の助手となり,台長J.F.エンケのもとに口径23cmの望遠鏡で16年間観測に従事した。この間,38年には土星のC環を発見,また39年12月~40年3月の間に続けて3個のすい星を発見したが,何といっても最大の業績は46年9月23日の海王星の発見である。この発見は,フランスの天文学者U.J.J.ルベリエが新惑星の予想位置をガレに書き送って観測を依頼したことによるもので,しかも新惑星は予想位置からわずか1度離れて発見された。…
… 19世紀に入ると,天体力学の研究はC.F.ガウス,J.ヤコビ,U.J.J.ルベリエ,J.C.アダムズ,S.ニューカム,G.W.ヒル,H.J.ポアンカレなどの多くの学者によって行われてその全盛時代を迎えた。とくに天王星の運動の不整から純理論的に未知惑星(海王星)の予想位置を計算し,実際の発見にまで導いたことは,天体力学の勝利とうたわれた。ところが19世紀末に,ポアンカレは摂動論で使われる三角級数の収束を論じてその非一様収束性を指摘し,それを契機として天体力学の関数論的研究が興った。…
…その後の観測によって天王星の運動がニュートン力学によって説明しえない不規則さを示したため,さらにその外側に未知の惑星が存在するという予想のもとに,フランスのU.J.ルベリエとイギリスのJ.C.アダムズが万有引力則に基づいて未知惑星の位置を推算した。ルベリエの推算値に従ってドイツの天文学者J.G.ガレが海王星を発見した。これはニュートン力学の勝利を意味するものであったが,しかし万有引力則はけっして十分なものでなく,とくに水星の近日点移動を説明するために,20世紀にはいってA.アインシュタインの〈相対性理論〉が登場することになった。…
※「海王星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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