日本大百科全書(ニッポニカ) 「セガンティーニ」の意味・わかりやすい解説
セガンティーニ
せがんてぃーに
Giovanni Segantini
(1858―1899)
イタリアの画家。スイスの山岳風景を題材に、人間と自然の澄みきった調和を描いたことで知られる。アルプス山麓(ろく)のアルコに生まれ、5歳のときに母親を亡くし、父親とも別れて、貧困と孤独の幼年時代を送る。短期間ブレラのアカデミーに学んだのち、イタリアのブリアンツァ地方に暮らし、自然主義的傾向の強い絵画を描く。1886年から94年まで明るい光のあふれたスイスのサボニーノに住み、独自の仕方で『編物をする羊飼いの少女』(1887・チューリヒ美術館)にみられるような筆触分割(分割主義)の手法を獲得する。芸術に精神的なものを求めた彼は、『生命の天使』(1894・ミラノ近代美術館)を描いてから象徴主義に向かう。文明の拘束を嫌い、汚れなき自然のうちに、生命の輝きを表現しようと望んだ。また社会主義思想に共鳴し、芸術論を雑誌に寄稿する。94年からスイスのマローヤに住んだが、やがて遺作となる『生』『死』『自然』の三部作(サン・モリッツ、セガンティーニ美術館)に取り組む。スイスの高原地帯エンガディンを舞台とするこの三部作は、セガンティーニの理想とした人間の厳しく清浄な生のあり方を伝えている。しかし、彼はこの風景画を標高2700メートルのシャーフベルクで制作中、盲腸炎のために41歳で急死した。東京の国立西洋美術館には『ブリアンツァの風笛を吹く男たち』、倉敷の大原美術館には『アルプスの真昼』が所蔵される。
[浅野春男]
『松方三郎著『ファブリ世界名画集90 セガンティーニ』(1973・平凡社)』