日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネグリト」の意味・わかりやすい解説
ネグリト
ねぐりと
Negrito
広義にはアフリカのピグミー(ムブティ)を含むが、通常、マレー半島のセマン、フィリピンのアエタ、アンダマン島先住民をさす。ネグリトとはスペイン語で「小さな黒人」という意味の人種用語。低身長(成人男子で150センチメートル)、縮毛(しゅくもう)ないしは捲毛(けんもう)、暗褐色の肌、丸くて幅広い顔、扁平な鼻などが目だつ形質的特徴をもち、モンゴロイド的な特徴はもたない。人口は、セマンで約3000(1990)、アエタで約2万2000、アンダマン島先住民は、ヨーロッパ人のもたらした病気で急速に減少し、約500。ネグリトの起源、歴史などはよくわかっていないが、明らかにアジアにおける古い人種であり、かつては広い地域にわたって住んでいた。一時、アフリカのピグミーと密接な類縁関係があると提唱されたが、それは文化人類学者シェベスタP. Schebestaによって否定された。かつて東南アジアを通過し、現在のメラネシアへ移住した古メラネシア人種の生き残りとする説がある。アンダマン島先住民とセマンはいまでも狩猟採集民であるが、フィリピンのネグリト(アエタ)は移動焼畑を中心とした生活へと変化を遂げた。
[口蔵幸雄]